問題児達のマネージャーに就任!?②
絶望のどん底にいた私を救ってくれたシオン様に出会ってからというもの、私の人生は一変した。
運命の出会い以降私は、シオン様が出演する歌番組は欠かさず観たりライブに参戦したり、インタビュー記事やグラビアが載る雑誌を買い漁ったりと、夢中になって彼を推した。
しかし、中学生の経済力と言えばたかが知れてる物で、主な収入源は毎月のお小遣いとお年玉だけだ。
これでは満足にシオン様に貢げないと項垂れていると、これ幸いとばかりに母が言った。
“お勉強頑張ったら、お小遣いアップしてあげる ”
私はこの言葉に飛び付き、無我夢中で勉強をした。すると、今までどんなに頑張っても良くて中の下だった成績が見る見ると上がっていったのだった。
そして、シオン様と出会ってから1年——中学3年生にもなると、学年トップ10入りの常連に迄上り詰めていた。
これには母も大喜びで、今まで恋愛感情なんて下らないと笑っていた私も、恋のパワーは凄い物だと実感せざるを得なかった。
——シオン様が私に生きる力をくれる! 今なら、なんだって出来そう!
しかし、向かう所敵なし、絶好調の私を再びどん底まで突き落としたのも、シオン様だった。
中学3年生の冬、彼は突如として芸能界から姿を消した。当時、シオン様は高校3年生、人気も絶頂でこれからという時期だった。
私自身も、高校生になったらたくさんバイトをして、やっと自分のお金でシオン様を応援出来ると意気込んでいたと言うのに。
彼が私の前から消えてからというもの、毎日、ライブのブルーレイを延々と流して、シオン様の載った雑誌の切り抜きで作ったアルバムを見ながら、もうシオン様には会えないのだと泣いて泣いて泣いて、泣きまくった。
そして、涙も枯れ果て、体力も限界に近づいた頃、私は一つの妙案を思い付いたのだった。
——そうだ、もうシオン様に会えないのなら、シオン様のいた芸能事務所に入ろう。
⋯⋯でも、私の平凡なルックスでは芸能人としては絶望的だ⋯⋯。だから、アイドルを支えるマネージャーとして⋯⋯!
どんな手を使ってでも、少しでもシオン様に近づきたい。たとえ、そこに彼がいないとしても——。
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「——さん、⋯⋯叶さん? どうしたの?」
そう言って、秘書の女性は不思議そうな顔をした。
あれから時は流れ、叶ゆめ、18歳。
大学進学を進める母を押し退け、強引に高校卒業と共に念願であるシオン様の所属していた芸能界プロダクション、BNWに入社した。
しかし、希望に溢れた社会人1日目、何故か私は社長室に呼び出されていた。もちろん、心当たりは全く無い。
「さあ、社長が貴女をお待ちですよ」
おかっぱ頭の彼女は、私の心の準備が整うのを待つ事無く、社長室の扉を開いた。
「⋯⋯失礼します」
ごくり、と生唾を飲み、ふかふかの高級そうな絨毯の上を、一歩また一歩と歩みを進める。
——入社1日目だというのに、社長から呼び出しって⋯⋯! もしかして、知らないうちに何かやらかしたのだろうか⋯⋯。私をここに呼び出したのも、クビを告げる為とか!?
最悪の場合を想像して、ばくばくと鼓動が速くなり、緊張で吐きそうになる。真っ直ぐに前を見ることが出来なくて、俯き気味に歩みを進めた。
そして、顔を上げると想像もしなかった光景に、思わず息を飲んだ。
「!!」
そこには社長だけで無く、デスクに座る彼を挟むようにして両隣に、恐ろしく顔立ちの良い若い男の子2人が立っていた。
そのうちの1人——くるんと癖のある金髪には派手なピンク色のメッシュが入っていて、それと同じくピンク色の瞳の、ちらりと口から覗く八重歯がやんちゃな印象の男の子がニヤリと笑い口を開いた。
「あっれー? 社長、気が利くじゃん!」
そう言って彼は、私の元に駆け寄る。
距離がある時は分からなかったが、彼は私よりも少しだけ身長が低いようで、自然と上目遣い気味になっていた。それが、彼の愛らしい容姿と相まって殊更破壊力を増していた。
「コイツ、オレのご飯でしょ?」
しかし、彼の意味不明な発言に、私の頭ははてなマークでいっぱいになる。
「⋯⋯へ?」
私が状況を飲み込めずに、混乱しているともう1人の男の子が口を開いた。
「カヅキ⋯⋯ダメ。この人、困ってる⋯⋯」
彼は、金髪の男の子とは対照的に、長身でサラサラの黒髪に、透き通るような碧の瞳の無表情な男の子であった。
「あ? チユキには関係ねーだろ」
カヅキと呼ばれた男の子は、チユキと呼ばれた男の子の言葉を聞いて、先程迄の上機嫌な様子から一変し、非常に柄の悪い横暴な態度になる。
しかし、そんなカヅキの豹変ぶりにも、チユキは臆することなく淡々と言い放った。
「⋯⋯カヅキの食いしん坊」
「うるせー! この、ひょろのっぽ野郎がっ!」
カヅキが言い返し、チユキに掴みかかろうとするも、身長差があるため軽くいなされる。そのことが、余計に彼の怒りを増幅させるようであった。
そこで、今まで沈黙を貫いていた社長が漸く口を開く。
社長はというと、季節はもう春だと言うのに、衣替えをし損ねたのだろうか、もこもこのファーが付いたジャケットを着ていた。
それに、面接で見た時の男前な彼とは違い、真っ赤な口紅に紫のアイシャドウという派手な化粧をしており、女性のような出で立ちであった。
「ゆめちゃん、入社おめでとう。今日、ここに呼んだのは貴女にここにいる2人の担当マネージャーをして貰おうと思ったからよ。⋯⋯ちなみに、これは決定事項です。今日からよろしくね」
そう言って、社長はにっこりと微笑んだ。
そんな彼の言葉に、クビにならないと安堵したのも束の間、私は、驚愕から思わず部屋中に響き渡るような声で絶叫したのだった。
「え⋯⋯えええええーーー!?!?」