ユニット始動!③
「最後は一番肝心なユニット名を決めよう! これは、本当に大事だからね! いくら2人がかっこよくても、ユニット名がダサかったらカッコつかないでしょ?」
「⋯⋯⋯⋯はい」
珍しく積極的なチユキが、小さく手を挙げた。
「はい、チユキくん! 何が良い案思い付いた?」
「⋯⋯うん」
自信ありげな様子のチユキに、私は期待からごくりと息を飲む。
「あやかし☆BOYZ ⋯⋯は、どう⋯⋯⋯⋯?」
「⋯⋯⋯⋯はあぁ!?」
チユキの提案を聞いたカヅキが突然、素っ頓狂な声を上げた。
「え!? カヅキくん、どうかしたの?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「カヅキ⋯⋯くん? ⋯⋯それにしても、チユキくんのアイデア、インパクトがあってすごくいいかも! そうだ! あやかしも英語にしたらもっとかっこよくないかな!?」
「いい、かも⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯おい、冗談だよな? オレを笑わせようとしてんだろ⋯⋯?」
何故かカヅキは半笑いで私たちを見ていた。
「「?」」
「ま、さか⋯⋯マジで言ってんのか⋯⋯?」
カヅキは唖然とした顔で、私とチユキを交互に見る。
「え⋯⋯? 何かおかしい?」
「マネージャーも、いいって⋯⋯言ってくれた⋯⋯カヅキは、いや⋯⋯?」
「嫌に決まってんだろ! そんなダッサい名前!」
カヅキは深くため息を吐いて言ったが、私たちには彼が嫌がる理由が全く分からなかった。
「えっ!? どこがダサいの!? かっこいいよね? チユキくんっ!」
「⋯⋯⋯⋯う、ん」
カヅキにキッパリとダサいと言われたことが余程ショックだったのか、チユキは僅かに悲しそうな顔をしている。
「あー⋯⋯くそっ! ⋯⋯仕方ねえから、ユニット名はオレが考える! お前たちに任せてらんねー!」
カヅキはガシガシと頭を掻きながら言った。
「おおっ! カヅキくんにも良い案があるんだね!」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「チユキくん? ⋯⋯大丈夫だよ! チユキくんが提案してくれたユニット名ぜんっぜんダサくなんてないからね!」
「⋯⋯あり、がと」
——本当にいいと思ったんだけどなあ⋯⋯。カヅキくんはAYAKASHI☆BOYZのどこが嫌だったんだろう⋯⋯。
私がチユキを慰めている間にも、カヅキは宣言通り、うんうんと唸りながらも真剣にユニット名を考えてくれているようだった。
そして、しばらくののち、カヅキはそれまで座っていたソファから不意に立ち上がる。
「⋯⋯クラッシュ、クラウン⋯⋯⋯⋯“CRash×CRown”はどうだ?」
「わっ! なんだかすごくカッコいい響きだね!?」
「英語、ニガテ⋯⋯⋯⋯」
そう言って、チユキはテーブルの上に置いていたスマートフォンに手を伸ばした。
どうやら、英語の意味を調べているようだ。
「カヅキくん、どうしてそのユニット名にしたのか、意味を聞いてもいいかな?」
「オレは、シヅキが⋯⋯兄貴が嫌いだ。兄貴がプロデュースしてるあいつらも嫌いだ。目にモノ見せてやりたい」
「⋯⋯うん」
「現トップアイドルのあの2人から——“The Beast”からテッペンを奪ってやる⋯⋯って意味で王冠を落とす—— “CRash×CRown”」
私の想像以上に真面目に考えてくれたカヅキに、尊敬の眼差しを向ける。
「それに、略して“クラクラ”で覚えやすいだろ?」
カヅキはそれまでの真剣な眼差しから、不意にニカッと笑顔を見せた。
——やっぱりカヅキくん、アイドル向いてるよ⋯⋯!
「うんうん! クラクラって2人に魅了させるって意味にも取れるね! すっごく良いと思う!」
私がカヅキのギャップにキュンキュンしていると、それまで無言でスマートフォンをいじっていたチユキが口を開いた。
「クラッシュ⋯⋯っていろんな意味が、あるんだね。⋯⋯打ち砕く、とか⋯⋯」
「へえ⋯⋯そうなんだ! じゃあ、ユニットのロゴはヒビが入った王冠はどうかな?」
「ふーん⋯⋯マネージャーにしてはいいアイデアじゃん」
「ありがとう! チユキくんが教えてくれたおかげだよ!」
そう言って未だに少し元気のないチユキをちらりと見る。すると、私の言葉に彼は微かに無表情を崩した。
「⋯⋯そんな、ことない⋯⋯よ。カヅキの、おかげ⋯⋯」
謙遜するチユキが可愛らしく見えて、思わず笑みが溢れる。
「ふふっ⋯⋯2人のおかげでユニット名も決まったことだし、とりあえず今日はここまで! 明日から早速レッスンが始まるから、今日はゆっくり休むこと!」
「「はーい」」
「じゃあ、時間も無いことだし、私は会社に行ってこの書類を提出しないと! あと、社長にこの無茶苦茶なスケジュールについても抗議してくるよ!」
「おう」
「いってらっしゃい⋯⋯」
——最初はこの2人とやっていけるか不安だったけど、意外と何とかなりそうかも!? シオン様、カヅキくんとチユキくんを貴方のようなキラッキラのアイドルにしてみせますから、どこかで見守っててくださいね!
会社へと向かう道中、やる気に満ち溢れた私は、この世界のどこかにいるシオン様に心の中で語りかけたのだった。