ユニット始動!②
「ど、どうしよ⋯⋯⋯⋯」
「どうすんだよ。ど素人だぜ、オレ達」
「人は、失敗から学ぶ⋯⋯⋯⋯」
「チユキくんっ! これは失敗しちゃダメなやつ!! それに、2人は人間じゃなくてあやかしでしょ!?」
私の言葉にそうだった、と思い出したようにハッとするチユキにガックリと肩を落とす。
「あっ、でも、3週間後のお仕事はCMと広告の撮影だって! CMと広告で2人を覚えてもらってからのSステの出演で、それが更に1週間後!」
しかし、少しだけ猶予があると安心したのも束の間、もう一度資料をよく見ると、デビュー曲についての記載を見落としていたようだ。
「ああっ!! 2週間後にはデビュー曲の収録があるみたい⋯⋯⋯⋯」
「何なんだよ、その1週間刻みのスケジュール! 無茶苦茶だな⋯⋯」
社長の不可能とも思える無茶振りに私が肩を落としていると、チユキが口を開いた。
「歌ならちょっとだけ、得意⋯⋯」
「えっ、ホント!? チユキくんっ!」
「うん、俺の故郷は何も娯楽がない⋯⋯だから、ずっと歌ってた⋯⋯⋯⋯」
「それは期待出来そうだね! カヅキくんはどう?」
「オレはたまにカラオケ行くくらいだな。歌うよりは身体動かす方が得意かも」
「俺は運動苦手、かも⋯⋯」
上手い具合に、カヅキとチユキの得意不得意が分かれているようだ。それなら——
「分かった! 苦手なところはお互いに補って行こう! とりあえず、時間が無いから学校に行く以外はレッスンだよ!」
「うげっ! まじかよ⋯⋯」
「わかった⋯⋯」
「やるからには全力で! 3人で頑張ろう!」
✳︎
2人のデビュー曲である “Innocent Kiss”は、タイアップ先のSnow✳︎dropsのCMでも使われるため、売り込む商品に合わせた歌詞と曲調になっているようだった。
“キスしたくなる唇”がコンセプトのリップを多く発売している Snow✳︎dropsは、主に10代女性から絶大な人気を誇っている。
その殆どがプチプライスで、自由に使えるお金が少ない学生でも手の届きやすい商品を、というのがこのブランドのモットーであり、人気の理由でもある。
そんなSnow✳︎dropsの新商品CMに抜擢されたカヅキとチユキだが、ハマればターゲットである女子中高生から爆発的な人気を得る事が出来るだろう。
——このチャンスを絶対モノにしなくちゃ! これが、トップアイドルへの第一歩!
「それでは、早速ですが、ユニット名とコンセプトを決めたいと思います! はい、拍手っ!」
「わー⋯⋯ぱちぱち⋯⋯」
私の言葉に、チユキは無表情ながらに拍手をするも、カヅキには全くと言って良いほどする素振りは無かった。
「⋯⋯カヅキくん。もしかして、あんまり乗り気じゃない?」
「⋯⋯やっぱり、アイドルなんてオレのガラじゃねえよ⋯⋯なんか時間経ったら恥ずかしくなってきた」
「ええっ!? そんなアイドルになるために生まれてきたような顔してるのに!?」
「意味わかんねえ⋯⋯⋯⋯」
私の言葉にカヅキは、ゲンナリとした顔になった。
しかし、そんな私に一つの妙案が降りて来る。
「うーん⋯⋯あっ! それならキャラ作りでもしてみる? 作ったキャラでアイドルになりきれば少しは恥ずかしく無いんじゃないかな?」
「⋯⋯⋯⋯まあ、それならオレのままよりは恥ずかしくない、か?」
「うんうん! 演技だと思えば恥ずかしくないよ、きっと! ⋯⋯じゃあ肝心のキャラ設定だけど、カヅキくんの見た目的に、かわいい感じにしたらどうかな?」
「お、オレが、か⋯⋯かわいい系⋯⋯」
「あっ!? 男の子に向かってかわいいって失礼だよね! ごめんっ」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯いや、いい⋯⋯そっちの方がチユキとのバランスが取れるだろ」
私の言葉にとっても不服そうなカヅキだったが、何とか自分自身を納得させたようだ。
「カヅキくん、ありがとう! じゃあ、次はユニットコンセプトだけど、王道の王子様路線はどうかな? デビュー曲もそんな感じだし!」
「いいと、思う⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯いいぜ」
「よしっ! じゃあ決まり!」
ここまでは比較的サクサクと決められたが、次は肝心の——ユニット名だ。