問題児達のマネージャーに就任!?①
平均よりも少し高めの身長で、スタイルは可もなく不可もなく、黒髪に焦げ茶色の瞳の何処にでもいるような地味なルックス。
そんな私、叶ゆめは勉強も運動も平均値で、友達はそんなに多くないけど、それなりに充実した学生生活を送っていた。
そんな、取り立てて秀でたところも熱中する物も特に無い、ごくごく普通の中学生だった。
あの方に、出会う迄は————。
✳︎
「お母さんなんてもう知らないっ!」
そう叫んで、私は家から飛び出した。
——口を開けば勉強しろって、そればっかり! 私だって頑張ってるのに、全然認めてくれない! お母さんなんか⋯⋯お母さんなんか、大っ嫌い!!
泣きながら無我夢中で走っていると、いつの間にか自宅周辺の細い路地から少し離れた大きな通りに出ていた。気付かないうちに、相当な距離を走っていたようだ。
帰宅ラッシュで賑わう街中に、使い込んで生地がクタクタになった部屋着姿で現れた私に刺さる通行人達の視線が痛かった。
先程までは羞恥心なんて微塵も感じなかったのに、今は見っともない格好で大通りをうろつく私を遠慮も無しにジロジロと見る人々の視線が気になって、じわりと顔が熱くなり、出来る限り身体を小さくして俯きながら歩いた。
——うう⋯⋯は、恥ずかしい⋯⋯。一刻も早く此処から立ち去りたい⋯⋯!
恥ずかしさから、それまで止まっていた涙が再び溢れ出し、地面を濡らす。
そんな私の姿を見て、それ程歳の変わらないオシャレに着飾った可愛らしい女の子達がひそひそと話しながら此方を見て笑っていた。
くすくすと楽しそうに笑うその声が、一層私を惨めにして、次から次へとぼろぼろと涙が流れた。
グスグスと声を押し殺して泣いていると、不意に頭上から聴き慣れない音が降って来た。
涙を拭って上を見上げると、大型ビジョンには新人アイドルだと言う、私とさほど変わらないくらいの年齢の若い男性が映し出されていた。
彼はふわふわの柔らかそうな蜂蜜色の髪に、蕩けるようなバイオレットの瞳と言う容貌で、アイドルになる為に生まれてきたと言っても過言では無いくらいの端正な顔立ちであった。
そんな彼の姿に、私の他にも立ち止まっている女の子はちらほらといて、なんだか人を惹きつける不思議な魅力を感じる男の子だった。
およそ人間とは思えないくらい完璧に整っている、作り物の様な男の子から発せられる切ないメロディに乗った砂糖のように甘い声に釘付けになる。
私は彼のその姿に、声に、一瞬たりとも目が離せなかった。その時の私はポカンと大きく口を開けて間抜けな顔をしていただろう。
彼の一挙手一投足すら逃したくない、瞬きすらも惜しいと思ったのはこれまで14年間生きてきて初めての事だった。
「あ、あれ⋯⋯なんで、涙が⋯⋯⋯⋯」
上を向いて彼の歌に聴き入っていると、いつの間にかまた、涙が溢れ頬を伝っていた。
それは、先程迄の怒りや羞恥心からでは無い、何かに心を動かされたときに流れる温かい涙であった。
およそ1分間にも満たないプロモーションビデオであったが、それでも、私の心を掴むのには充分すぎる時間だった。
辺りは日が沈み、薄暗くなって来ていたが、私の心はぱっと太陽に照らされたように明るく、希望の光が差し込んでいた。
——見つけた!! 私の王子様!
それからの私は、母への怒りも忘れバクバクと激しく脈打つ胸を押さえながら、自宅へと駆け戻った。
急いで部屋に戻り、パソコンの電源を入れて街中で聴いた歌のフレーズを検索ボックスに入れる。
すると、今月デビューしたばかりだと言う、株式会社brand new world——通称BNW所属の“シオン”と言う高校生アイドルがヒットした。
「シオン、様⋯⋯⋯⋯」
それが、私の王子様の名前——。
モニターに写る彼の名前を指でなぞった。それだけでも、私の顔は火照り、どきどきと胸が高鳴った。
今思えば、これが私の初恋だった。