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75.花見

その日は、晴れ渡っていた。

蒼いわく、本来雨だったので明日からは思い切り降ると言っていたが、花見当日はとても晴れ渡っていた。

月の宮の桜は例のごとく大変に見事に咲き誇っていて、涼夏も話には聞いていたが、実際に見るのは初めてのことで、とても感動していた。

当日は迅と昌士と共に出席することを許されていた涼夏だったが、もちろん王族としてではないので、臣下達の席に同席するという程度だ。

迅とは、夫婦とはいえまだ、実際には何もない間柄なので、夫婦として回りから扱われるのは何か、くすぐったい感じがした。

というのも、あの日の夜にやるかという話になったのだが、思えばまだ、陸は何も知らない。

つまり、確認も何もまだずっと後の事になりそうだったので、急ぐ事は無いか、という結論に達して、お互い先延ばしにすることにしたからだ。

別に、迅の事が嫌いなわけでは無かったが、涼夏にしても、相手が欲してくれてそうなるのならまだしも、必要だからやるか、というのは何だか違う気がして、抵抗があった。

どうしても確認されるからとかなら、仕方がないかと思うが、今はそれもない。

なので、この方がお互いに構えずに済んで良いだろうと思った。

だが、そんな風にこちらがモタモタしている間に、そんな事とは全く知らない兄の涼輝は、なんと佐織と婚姻したと聞いた。

迅も涼夏も心底驚いたが、そっちの方が先に婚姻しておいて、と涼輝に笑われて、確かにそうだ、と頷くよりなかった。

実際はこちらはまだなのだが、それを言うわけにもいかなかったのだ。

兄も父に似て美しい顔立ちなので、あっさり相手が決まったのも頷ける気がした。

しかも、佐織は軍神達からの人気が高い女神で、しかしかなり頭の良い、宮の中の地位もそこそこ実力で勝ち取って高い女神だったので、声をかけられずにいる間に、涼輝がさっさとかっさらった状態になってしまったらしく、しばらくは皆に恨まれて仕方がなかったらしかった。

とはいえ、義姉としての佐織は、とても頼りになったので、涼夏としてはとても嬉しい縁だった。

その兄夫婦も共に宮の中の桜の園で花見が許されていたので、本日は昌士、迅、涼夏、涼輝、佐織で同じ毛氈の上に座って、花見をしていた。

ここからは、遠く上の方にチラチラと最上位の王達の姿が見えるぐらいで、離れているので、とても気楽に過ごす事ができた。

涼輝が、言った。

「迅、それは茶か?酒を飲まぬのか、せっかくこんなに用意してくださったのに。」

迅は、苦笑して首を振った。

「婚姻したから成人扱いなのは知っておるが、それでもまだ160歳であるから。それに、これから夕刻には宮へ上がって仕事があるのだ。」

涼夏が、頷いた。

「ゲーム機の世話をしなければならないの。我も、王から恐らく泊まり込みになるだろうから、こちらで迅と我で上手く交代して裏方を頼むと言われておって。」

佐織が、言った。

「まあ。図書室のパソコンルームにもゲーム機はあるのですが、確か宮の物は最新機器で扱いが難しいのだとか。涼夏はそのようなこともできるのね。素晴らしいわ。」

涼夏は、そんなに大した事ではないのに、と恥ずかしそうに言った。

「そんな、お義姉様。我はそれぐらいしか取り柄もなくて…。」

佐織は、首を振った。

「何にでも長けておるのは素晴らしいことよ。我も教えてもらおうかしら。」

何でも積極的に学ぼうとする佐織に、涼夏は感心したが涼輝が言った。

「それ以上優秀になってどうするのだ、佐織。政務に関わる場所に移動の話も出ておると聞いているが、今はそちらの試験の準備に忙しいと言うておったのでは?」

佐織は、ため息をついた。

「はい。確かにそうなのですが、誠に難しくて。ですが、恒様にも裕馬様にも、初の女性重臣として励む機だと励まされて。受けてはみますが、自信がないのですわ。」

神世で、女性は政務には一切関わらない。

力の問題もあるし、他の宮では女性でこんなに歴史や政務などに精通している女神は居ないからだ。

だが、月の宮では誰でも望めば平等に機会が与えられるので、学びたければ何でも学べる。

なので、自然にその中から、優秀な女神が出て来てもおかしくはなかった。

本来、佐織は婚姻などに興味はなく、学びばかりに特化していた毎日だったのだが、他の女神は何とか世話をしてくれる神を探そうと、毎日恋愛談義に忙しい。

誰に世話をされなくても生きて行ける佐織がさっさと相手を見つけて、そうでない女神がまだなのは皮肉な話だった。

とはいえ、今は婚姻したので、涼輝の世話も佐織の仕事になっているはずだった。

重臣になって共働きで、果たして兄は良いのだろうか。

涼夏は、それが気になった。

というのも、神世は良い意味でも悪い意味でも古風なのだ。

全ての報酬は宮から出ていて、宮に仕える事で生活を回す事ができるのが神世だが、宮だってそうそう働き手を探しているわけではない。

特に月の宮は、外からはぐれの神も受け入れているので、独身の女神も働かせてやらねばならず、無理に割り込ませるので今でも侍女は余っている。

そんなわけで、夫ができて夫が稼いで来る場合、家に入って夫の世話だけに専念し、他に働き口を空けてやるのが普通だった。

他にも、困っている女神は多いからだ。

夫がそれほど稼がないなら仕方がないが、涼輝は今では序列もついて佐織一人ぐらいは養える。

それでも佐織が今も宮に仕えているのは、司書の役割を担えるほどの能力の持ち主が居ないからで、いわば佐織が必要とされているからに他ならなかった。

だが、やはり侍女の中には婚姻したのにまだ残って、と陰口を叩くものも居た。

涼夏の場合は、やはり代わりが居ない上、蒼直々の命なのでとりあえず受け入れられてはいたが、それでも良く思わない女神も、一定数は存在した。

そんなわけで、そんな常識がまかり通っている中なので、神世に女性の重臣など、見たことがなかった。

というか、小説でも居なかったはずだ。

蒼が王の月の宮ならではの事なのだ。

それを、生まれながらの王族で、迅や涼夏のように前世の記憶があるわけでもない兄に、理解できるのかと心配だった。

月の宮の常識は世間の非常識と言われるほど違うので、かなり面倒なことになりそうで案じられた。

涼輝が、言った。

「まあ、何事も試してみるべきだと申しておったではないか?無理だとしても価値はあるだろう。」

言われて佐織は頷いていたが、その物言いに、涼夏は兄がどうせ無理だと思っているのを気取った。

昌士も佐織も気付いていないようだが、何しろ涼夏は最近に、こういったことを気取る能力があるのだと知ったばかり。

もしかしたらと迅を見上げると、迅も涼夏を見ていたので、同じことを気取ったのだろうなと思った。

つまり、恐らく兄は、女神が政務にまで携わる事に理解があるのではない。

佐織が挫折して、おとなしく屋敷に入ってくれることを望んでいるのだろうと何となく知ってしまった。

なので、重臣試験を受ける事に何も言わないのだろう。

だからといって、ここで何か言って雰囲気を壊してしまうのも違う。

なので涼夏は黙っていたが、それでも佐織が試験に受かったらどうするのだろう、と涼夏は思った。

兄はあるはずがないと思っているようだが、月の宮ではあり得るのだ。

蒼を始め、恒、裕馬が元は人であって、性差で役職を決めたりしない価値観なのを、涼夏は知っているのだ。

楽しい花見のはずが、そこから涼夏は何を話していても心ここにあらずになってしまい、結局夕刻まで心から楽しむことはできなかったのだった。

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