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67.捜索

その少し前、まさか蒼の膝元で、もう母が見つかっているなどと知らない迅は、急いで結界を出ようと飛んでいた。

すると、それを気取った昌士が、急いで飛んで来て言った。

「迅?どうしたのだ、どこへ行くんだ?まさか、宮へ帰るのか。」

迅は、首を振った。

「いや、我は己の母を探して来なければならないと思うて。詳しくは言えぬのだが、我がどうあっても父の下へ帰りたくないので、ならば碧黎様が、母を探してみよと申して。」

昌士は、顔をしかめた。

「…確かに、己を殺そうとした父の下へなど、帰りとうないわな。」と、構えた。「それで、どこの集落ぞ?我は元々はぐれの神であるから、集落には詳しいぞ。共に行こう。」

迅は、昌士が来てくれるならと、ホッとした顔をした。

「誠か。主、非番であるのに。良いのか。」

昌士は、苦笑した。

「良い。我は父を知らぬから、父が居ったらどんなものかと憧れもあったのだが、主の話を聞いて、そう良いものでもないなと諦めもついたのだ。なので、感謝しておるし。行こうぞ。」

迅は、頷いて昌士に並んだ。

「まずは、父の宮の近くの集落から探してみようと思うておる。」

昌士は、頷いた。

「参ろう。あの辺りは穏やかであるから、そこに居ったら恐らく生きておるぞ。我もそこから来たしな。」

二人は、並んで飛んで結界を抜けながら、眼下に月の宮の断崖を見下ろして、その集落の方へと飛んだ。

迅は、飛びながら言った。

「主は、我の宮の結界外の、東にあるあの集落に居ったのか?」

昌士は、飛びながら頷いた。

「そう。子供の頃に見つけて、それからそこへ住んでおったのだ。我は父は分からず、母とは別れてたった一人でさすらっていたので…落ち着く場所を探しておってな。他の集落は、荒くれものが多くて落ち着くには不似合いであったし、どんどんと北へと流れて行って、気が付くとあの集落へとたどり着いていた。そこは穏やかでの。それは、品は無いがあんなものだろう。皆落ち着いていて、どうしてかと思うておったら、主の父の宮が、はぐれの神にもいくらか着物などを分けてくれておったのだ。軍神達に持って来させておった。それを定期的にもらえるので、皆落ち着いて過ごしていたのだ。それで、我もその恩恵に預かって、その時に主の宮の軍神達と仲良くなった。立ち合いなども幼い頃に遊びで教えてくれてな。月の宮が我らのような者を受け入れていると教えてくれたのもそれらだった。」

迅は、そういえば結界の側で暴れられては困るので、どうせ余っているからとあの集落に、陸が着物や生活物資を軍神達に持って行かせていたのは知っていた。

だから、昌士は月の宮へ来る前から、陸の宮の軍神達に教わって、それなりに立ち合いなどもできたのだ。

「…主は、苦労したのだの。我とてはぐれの神から生まれたが、父が何とか祖父に頼んで我を宮へと入れたゆえ。陰口は叩かれたが、それでも命の危機を感じて生きる必要はなかった。主は、子供の頃にさすらっていたというか。」

昌士は、笑った。

「皆そんなものではないか?父も分からぬような子供など…母だって、好きで我を産んだのではないと思うし、継父に嫁いだわけではなかったと思う。母はの、我が腹に居るのに、他の男に攫われて、監禁されておったのだ。我が腹に居るのを知った時、男は我を殺そうとしたらしいが、我の方が気が強かったので、死なずに済んだようだ。そのまま生まれて、地獄のようだったわ。何度も殴られるので、母を連れて逃げようとしたが、母は自分が一緒に行ったら男が追って行くだろうと申して。我のために残った。あれから、顔も見に行けていない。一度、前に住んでいた小屋を訪ねたことがあったが、もう誰も住んではいなかった。もう、死んでおるであろうの。」

迅は、そんな過酷な環境が想像できなかったが、小説を読んでいたので、はぐれの神達の大変な境遇は知っていた。

どこかの宮へと仕えてその結界内に居た方が、何より楽だし安心して過ごして行ける。

外は、何が起こるか分からないし、何がいつ襲って来るのか分からないのだ。

迅が、そんな事を思って深刻な顔で黙り込んだので、昌士が苦笑して言った。

「我の事はいい。それより、主の母ぞ。どのような容姿であると?」

迅は、ハッとして昌士を見た。

「ああ、父に聞いたところによると、我は母にそっくりなのだそうだ。我の瞳を青くしたらよく似ておるとか。まあ、女であるから感じは違うのだろうが。」

昌士は、飛びながらうーんと足元の森を見た。

「…難しいの。環境が環境であるから、顔つきも変わって来るのだ。険しい顔つきというか、すれたというか…とにかく、過酷な環境であるからの。どんなに美しくても、皆痩せてやつれた様になる。なので、主と似ておるとて集落の中の女神をひと目見て、これだとは分からぬのではないかの。」

迅は、ため息をついた。

「やはりそうか。確かに、結界内の女神と、外の女神では顔付きが違うからの。我に似ておると申して、我が安穏と暮らして参ったのに分かるはずがないか。」

昌士は、ため息をついた。そして、空中で止まって、言った。

「ならば、まずは宮ではないか?」迅が、え、と驚いた顔をすると、昌士は続けた。「そら、王ははぐれの神を拾っておるのだから。その中に、もしかして主の母が居ったら、分かるのではないのか。我は、まだ月の宮へ来たばかりで宮の中までそれほど行く任務がないから、侍女などの顔も知らぬが主なら元は皇子なのだし、見て回れるのでは?外を探すのは、それからぞ。我もついでに己の母を探そうかと思うておったが、主の方が己の顔があるのだから分かりやすかろうしな。」

迅は、昌士を見た。

「主も、母を探そうと思うたのか。」

昌士は、頷いた。

「主が探すのなら、ついでにと思うたまで。生きているとも思うておらぬから、そこまで真剣に思っておったわけではない。それに、我は母ではなく、父に似ておるそうで。ちなみに、色は母譲りぞ。」

迅は、言われてじっと昌士を見た。

そういえば、昌士の顔をじっくり見たのはこれが初めてだ。

神世では、そんなにガン見するのは失礼だと言われているので、じっと見ない習慣があるのだ。

「…どこかで見たような。主には、最初から何やら親しみがあるのよ。ただ、青い瞳は違うがの。」

昌士は、頷いた。

「我もぞ。我が世話になっていた宮から来た皇子だと聞いておったので、何か力になれればと思うておった。父に殺されかけたと聞いておるしの。我は継父に何度も殺されかけたが、気で弾き返せたのでなんとか。軍神が出来ているのもこの気のお蔭。実父には感謝しておるよ。どこの誰だが分からぬがの。」

迅は、目の前に迫った集落を見ながら、言った。

「…では、また後で。先に宮の侍女達や、細工や刺繍の女神とか、治癒の女神とかの中に居ないか探してみよう。もしかしたら、それらから情報ももらえるかもしれぬし。」

昌士は、頷いた。

「その通りよ。では、一度戻ろう。」と、踵を返した。「そも、この集落には黒髪青い瞳の女神は居らなんだ。皆、薄い色の髪か、茶色の髪。瞳も緑か茶色が多い。集落の中で縁付くゆえ、皆そうなるのだろうの。我だけが、外から来たゆえこうだったのだ。」

迅は、そうだったのか、と思った。

ただ闇雲にここはやめておこうと言ったわけではなく、迅から母親の詳細を聞いて、それならここには居ない、と判断したのでああ言ったのだ。

「主は頼りになる。」迅は、本気でそう思って言った。「はぐれの神ではもったいなかったの。よう月の宮へ来たものよ。」

昌士は、クックと笑った。

「まるで主があちらの皇子のような言い方よな。」迅は、そうだ、自分は皇子が抜けないから、と恥ずかしく思って下を向くと、昌士は首を振った。「そういう意味ではないわ。主とてよう父から逃れて月の宮へ参ったことよ。これから共に励もうぞ。」

迅は、良い友が出来て良かった、と思いながら、昌士と共に月の宮へと戻って行ったのだった。

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