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65.相談

迅は、宮へと着いてすぐに、蒼への面会を申し出た。

涼夏には、遅れるのでしばらく図書館にでも行っていてくれと侍女に言って伝えてもらい、じっと待機所で待っていると、蒼の侍女が呼びに来てくれて、迅は急いで蒼の居間へと、侍女について向かった。

蒼は、朝はゆっくり寝ているのだが、さすがに来客もあるし昼も近くなった時間だったので、もう起きて準備していたようだった。

「迅。どうしたんだ、改まって。別に隣りの部屋に居るんだから、話ぐらいいつでもできたのに。」

迅は、首を振った。

「あちらに居ては、最上位の宮の王達も揃われるので。あの…十六夜から、聞いておられますか?」

蒼は、きょとんとした顔をした。

「え、何を?」

蒼は、知らない。

ということは、十六夜も知らないということだろうか。

迅が思っていると、十六夜が目の前にパッと現れた。

「なんだよ、蒼に言うのか?だったら気を遣わずにさっさと朝から言っときゃ良かった。旭の宮のことだろ?」

迅は、頷いて十六夜を見た。

もう、パっと出て来ることに、今更驚いてもいられない。

「そうだ。さっき昌士から聞いて。蒼様に先にご相談しておかないと、最上位の王達の耳に入ったら、我に戻れと大騒ぎになりそうで…。」

蒼は、ワケが分からず顔をしかめた。

「だから何だ?十六夜、旭殿が何かあったのか?」

十六夜は、迅をチラと見たら、自分が説明した方が良いと思ったか、言った。

「実は…昨日の夜中だ。蝦夷の方が何か騒がしいなって見てみたら、旭の宮が大騒ぎになっててな。愛羅が産気づいてたんだ。」

蒼は、目を丸くした。

「え、まだ半年ぐらいじゃなかった?!」

いくら何でも、助からないんじゃ。

蒼が思っていると、十六夜は頷いた。

「それがな…結論から言うと、赤ん坊は死んだ。というか、死んだから愛羅が産気づいたって言った方が良い感じだな。よく見てみたら、どうも赤ん坊の中の命が黄泉へ知ってて帰ったみたいな感じに見えてさ…外の様子を見て、他の所の方がいいと思ったんじゃねぇか。代わりの命があったら良かったが、それが無かったんだろうな。そのまま体だけ生きて生まれる未来もあったが、愛羅の体は排出することを選んだんだろう。命が入ってなきゃ、どうせ生まれても数時間しか生きられねぇし。そんなわけで、愛羅は気を失っちまって、旭が赤ん坊を腹から引き摺り出して、朝、って感じだった。お前に知らせようかと思ったが、正月だしよお。まだ旭も、陸の宮以外には知らせないように臣下に指示してたし、オレも黙っていたんだが、まあバレるわな。迅には伝手があるからさ。あっちの軍神からこっちの知り合いの軍神に知らせて来て、さっき迅に知らせてたってわけ。陸はすぐあっちへ行こうとしたんだが、それを旭は断った。あっちは徹夜で戦ってたから、仕方ないわな。愛羅だってあいつにゃもう、会いたくないだろうしさあ。陸は知らねぇから、宮で悶々としてる。でも、臣下はこの知らせで一気に迅を宮へという流れになってて、陸が知らないところでみんな決めちまってる感じだな。」

迅は、暗い顔をして下を向いた。

蒼は、迅は絶対に帰りたくないのだろうとため息をついて、言った。

「…困ったことになったな。確かにそれがほんとなら、間違いなく維心様達が知ったら、迅に戻れって言うだろう。みんなで寄って集って、陸を下ろして…というか、殺すかもしれない勢いで排除して、迅を据えようとするだろうな。だから迅は、先にオレに話に来たんだ。もし、オレがそれを知ってて話題にしたら困るから。」

迅は、頷いた。

「はい。申し訳ありません、蒼様。まだ、神世では父の宮しか知らぬ事でありますので。我は…我を殺そうとした父の跡目など、考えられぬのです。どうしても、王族に生まれたから戻れと言われるのでしょうか。我はこちらで、蒼様にお仕えして生きる方が幸福だと思うております。」

蒼は、困った。

確かに、蒼だって迅は優秀だし居てくれた方が心強いが、しかし維心達が言うのは、神世が滞りなく回るようにと考えてのことばかりなのだ。

個人個人の希望を聞くなど、蒼ぐらいのものなので、月の宮に一度仕えた者達は、絶対にここを出て行こうとはしない。

だが、あの王達も好きで王座に居るわけではないのも、蒼はもう知っている。

自分だって、王なんて地位は要らないし、できたら誰かに仕えて生きた方が、気が楽だと思うぐらいなのだ。

十六夜が、言った。

「お前の気持ちは分かるが、あいつらだって好きで王座に居るわけじゃねぇ。お前が一番よく知ってるんじゃねぇのか?何しろ、小説とやらで読んでるんだろう?だから、王なんかなりたくないと言うだろうがよ。違うか?」

迅は、唇を噛んだ。

確かに、その通りだからだ。

「…分かっている。十六夜、我などその小説に名前も出て来ないモブキャラだったのだ。それが、今回思い出したと思うたら、己が知らないそれより先の時間の小説の中に居て、こうしてこんなことに巻き込まれている。どうして、そんなに大きな気を持つわけでもない我のような小さな命が、そこまで責務責務と言われねばならぬのよ。我は、働きたくないと言っておるのではない。蒼様に仕えて働きたいと言うておるのだ。それすら許されぬのと言うのか。碧黎様は、こちらで一生を終えたら良いと仰った。我が外へ出て王座について、もしも何かあった時、どうするのだ。我の頭の中には、膨大な記憶があるのだぞ。」

十六夜は、言われて顔をしかめた。

そう言えば、碧黎がそんなことを言っていたのを思い出したのだ。

「…どうする。」十六夜は、顔をしかめて蒼を見た。「そういや親父が言ってたな。だが、そう言われてみたら維心にも言うなって言うぐらい、こいつらの頭の中は大変なことになってるわけだろ。そんな迅を、下位も宮の王にしていいのか。どっかの誰かがそれを知って、利用しようと誰かを攫って脅したりして、迅が協力せざるを得ない状況になったらどうするんでぇ。」

蒼が、言った。

「でも維心様達は知らないから、今回愛羅殿の皇子が死んだことで迅を戻すのが一番だって、陸を退位させてあの宮を治めさせようとするのは手に取るように分かるんだよ。でも、知ったら迅が何でも知ってるから、警戒して今度は迅が別の面倒に巻き込まれるんじゃないかって怖いし。維心様がおかしな反応とかしなければ話すのが一番だけど、今はまだ若いし分からないじゃないか。維月がまだ子供だって言ってたもの。」

迅は、顔をしかめた。

「…まだ赤子から育っておらぬのか?姿ばかりで中身がどうのと、確か最後の方で読んだ気がするが。」

それも知ってるよね、そうだよね。

蒼は思いながら、頷いた。

「最近は成人間近になって来て、荒れて来てるんだよ、龍は本来激しいからね。それを押さえられるようになるには、成人してしばらく経つぐらいでないと無理らしくって。だから、みんななるべく刺激しないようにしてるんだけど。炎嘉様とか気を遣ってくれてるから普通にしていたら大丈夫なんだけどね。」と、十六夜を見た。「本当なら、話して分かってもらうのが一番なんだけどもう少し様子を見ようか。多分、維心様だってこの情報を得るだろうけど…あ、義心だ。結界入った。」

蒼は、いきなり顔を上げた。

十六夜が、目を丸くした。

「え、あいつついて来てたじゃないか。」

蒼は、首を振った。

「夜にはあっちへ戻って様子を見て、戻って来るんだよ。維心様は離れていても宮の様子は逐一軍神達に報告させてるから。」

迅は、言った。

「蒼様、ではもしかして義心なら勝手に調べて知って来ておるのでは。あの軍神は、ちょっとあり得ないほど優秀ですので。」

蒼は、顔をしかめた。

義心が、これを気取らないはずがない。

何しろ、迅が昌士から報告を受けたぐらいなのだから、義心が知らないはずがないのだ。

「…困ったな。ちょっと、応接間に行って来るよ。今はみんなでメンコを見せ合って喜んでるみたいだけど、義心が来たから維心様に報告に行くだろうし。」と、空中に向かって言った。「碧黎様!どうしたらいいですか!いう通りにしますから教えてください!」

すると、碧黎がうんざりした顔でパッと現れた。

迅は息を飲んだが、十六夜と蒼は当然のように碧黎を見た。

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