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63.その日の終わり

楽の音が終わる頃には、もう月が高く昇っていた。

さすがに涼夏はもう帰ろうかと思っていると、隣り部屋から宮が出て行く気配を感じて、今日はもう終わりのようだった。

月の宮にはどこにでもある時計を見ると、今は夜の10時過ぎだった。

早寝早起きの神達にしたら、よく起きていた方だ。

何しろ、夜明け前から来ているのだ。

迅は、コントローラーを置いた。

「…本日は出番無しであったな。さて、帰るか。蒼様に聞いて参らねば。」

すると、コンコンとノックの音がした。

「はい。」

思わず答えたが、よく考えたら神世でノックの習慣はない。

自分でも驚いていると、扉が開いた。

「ああ、涼夏も来てたのか。」蒼だった。涼夏は、慌てて頭を下げる。「すまないな、待たせるだけ待たせて。今日はゲームの話にもならなかったよ。明日も朝からメンコで遊ぶみたいだし、ここに来るのは昼からでいいよ。」

迅は、頭を下げた。

「はい、蒼様。」

そして、頭を下げている涼夏を見た。

「涼夏、暇ならまた話し相手にでもなってやってくれ。何しろみんな気分次第だから、いつ興味が向くか分からないんだ。何なら、君もここで迅と一緒にゲームの対応ってことで仕事にしてもいいけど?」

涼夏は、とんでもないと首を振った。

「そのような。我は話しておるだけでありますし、お気遣いは嬉しいですが、大丈夫ですわ。」

蒼は、微笑んで頷く。

「だったらそれで。みんなにも話しておくよ。じゃあ、迅、涼夏を送ってやってくれないか。今日は酒が入っている臣下が多いから、何があるか分からないしな。」

迅は、頭を下げた。

「は。元よりそのつもりでありましたので。では、蒼様。また明日に。」

蒼は、頷いて廊下へと引っ込んだ。

「じゃあね。」

そうして、去って行った。

迅は、涼夏を見た。

「さあ、送って行こうぞ。明日は昼からという事だし、また昼前に迎えに参るわ。その方が良いだろう?」

涼夏は、え、と迅を見た。

「我は良いけど、あなたは明日も我が話し相手で良いの?お兄様に換えて欲しいとかない?」

迅は、笑って歩き出した。

「主の方が気を遣わぬから良いわ。涼輝も良いが、あれにはやはり気を遣うのよ…生真面目なヤツであるしな。」

確かに、お兄様はとても真面目なかただけど。

涼夏はそう思いながら、迅と一緒に宮を出てぶらぶらと歩きながら、屋敷へと帰って行ったのだった。


本当なら飛べば良いのだが、二人は並んで月を見上げて歩いていた。

迅とは、いくら話しても話題が尽きることがない。

何しろ、前世今生と話すことはいくらでもあるからだった。

涼夏は、ふと、思った。

「…そういえば、愛羅様のことだけど。」迅が、涼夏を見る。涼夏は続けた。「ほら、旭様の話をしていたでしょう。あの時、隣りで王達が婚姻の話なんかし出したから最後まで話せなかったけど、あなたこちらへ来てもたくさん情報を持ってるわよね。どっかに情報源でもあるの?」

迅は、苦笑した。

「まあ、我は軍神達とよく話すからな。もう皆と馴染んておるし、それなりに情報ももらう。月の宮は外との交流があまりないのだが、それだけに外の情報となると珍しいのですぐに入って来るのだ。それというのも、結局は我の元の宮の軍神と、仲が良い軍神も居て。元ははぐれの神であるから、我ら下位の宮の軍神達と行き会ったりしたこともあって、その際に知り合っていたらしいからの。我がそこの皇子であったので、よく話す。その筋から、聞いたのだ。」

涼夏は、眉を寄せた。

「…つまり、あなたの軍神だった神と、ここの軍神が友だったってことね?でも、あなたの軍神っていうと陸様の軍神だから、そこからの情報だったら陸様の耳に入ってるんじゃないの?」

迅は、首を振った。

「いいや。今の父上には到底言えぬとこぼしておったらしい。我が、あの宮の情報を知りたいと申したから、話してくれたのだがの。旭様の軍神と、我が宮の軍神は愛羅殿が居る間、よく接して交流しておったのだが、そこら辺から噂が流れたようであった。今ではもう、愛羅殿が戻らぬだろうという事は、臣下達の間では周知の事実であるらしいが、当の王である父だけが知らぬようだ。臣下達は、父上のやる気が失せてしまってはと考えて、漏らさぬようにしておるらしい。皇子の事は案じておるようだが、それは後の事と考えておるようよ。何しろ、神世から試されておるのだからな。一年後にしっかり傘下を回せるようにならねば、主の父の涼弥殿の二の舞になる可能性がある。臣下は、それを案じておるのよ。」

確かに、今の陸のモチベーションは愛羅を取り返すことだろう。

だが、それが宮の序列が上がっても変わらぬとなれば、一気にやる気をなくしてしまい、全く進まなくなると臣下は考えたのだろう。

迅も帰って来ない今、臣下にとって陸だけが頼りなのだ。

一時は、迅を押して陸を追い落とそうとしていた臣下なのに、虫の良い話なのだが、そういうものだった。

涼夏は、言った。

「…そうね。今は言うべきじゃないわね。でも、その迅の弟も、生まれたらこちらへ来るんじゃないかしら。だって、旭様の宮じゃあ臣下にしかならないし、何より気の大きさが軍神にも劣るはずでしょう?あちらじゃ芽が出ないのが分かっているんだもの、皇子にとってもこちらへ来る方が良いはずよ。」

迅は、うーんと遠い目をした。

「どうであろうか…そもそも、母が子をそんなに簡単に手放すのだろうかの?愛羅殿が手元の育てたいと申したら、変わって参るのではないのか。分からぬが、五分五分だと我は思うておる。」

涼夏は、そうよね、と思った。

産んで顔を見たら、かわいいと手放したくなくなるのではないかと思う。

でも、手放してでも帰りたくないのだと思えば、手放すのかもしれない。

愛羅の気持ちは涼夏には分からないので、何とも言えなかった。

すると、その時上空から声がした。

「涼夏、迅?」

え、と上を見ると、兄の涼輝が浮いていて、こちらへ向かって降りて来ていた。

「あ、お兄様。」

涼夏が言うと、涼輝は目の前に降り立った。

「なんぞ、こんな時間に。どこへ参っておったのだ。」

少し、怒っているような顔だ。

迅が言った。

「涼夏は、我が宮で待機しておる間、話し相手になってくれておってな。王が、そのように申してくださったのだ。本日は、結局これまで待っておって、出番は無しであったし、明日は昼頃の出勤で良いと。主こそこの時間にどうしたのだ。今帰りか?」

涼輝は、さすがにこの時間まで妹を放って置いたくせにと言われているようで、バツの悪そうな顔をした。

「まあ、その、宿舎で飲み会だと足を止められてしもうてな。早番の奴らが戻って参ってまた酒盛りだったので、この時間に。」と、涼夏を見た。「王が良いと仰ったのなら仕方がないが、主はまだ成人しておらぬだからの。迅に送ってもらうのなら良いが、一人ではならぬぞ。」

涼夏は、頷いた。

「はい、お兄様。あの、明日も来るようにと王が申されたので、昼頃に我も参る予定ですわ。何なら、お兄様も参られます?」

それには、涼輝は顔をしかめた。

「いや…我は、明日も来いと言われておって。何やら、コンピュータールームにゲーム機があるからとか。明日の予約になっているから、一緒にやろうと誘われた。」

え、あれって予約制だったの?!

涼夏は、自分が飛び入りしてしまったので、びっくりした。

「予約が要るのですか?」

すると、涼輝は頷いた。

「そうなのだ。本日は王族の方々がお使いになるので皆が遠慮するのだとかで、明日からびっしり予約が入っているのだそうだ。ゲーム機自体は多いが、場が狭いゆえ入れる人数が限られておるのだと。我は勝手に人数に入っておったのだ。」

また明日も遊ぶんだと責められているように思ったのだろう。

涼夏は、頷いた。

「良い事だと思いますわ。皆様と馴染まれている証でありますもの。早くこちらに慣れて、お兄様には心安く務めて頂きたいですから。」

涼輝は、ホッとしたように頷いた。

「我もそのように。」と、迅を見た。「迅、今夜も泊まって参れば良いのだ。明日は一緒に出勤なのだろう?ならば、うちで休んで参れ。我も居るし、二人きりなわけではないゆえ。」

迅は、言われて少し、考えた顔をしたが、頷いた。

「そうであるな。では、着物を取りに参ってまた主の屋敷へ戻るわ。」

そうして、三人は屋敷がある集落へと足を進めた。

今夜も、三人は共に同じ屋敷で過ごすことになったのだった。

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