表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/142

61.宮の中

恒に連れられて広間の前に到着すると、侍女の麻季が驚いたように出て来た。

「まあ、涼夏殿?夜番じゃなかったですわよね。教育係の松殿は、もう交代の時間なので戻られたのですわ。明日も、王は松殿にはお休みをと急に仰られて。」

何かあったのだろうか。

涼夏は、松が心配になった。

何しろ松も元は皇女であって、父王の渡の扱いに耐えられずに宮を出て来た同じような境遇の女神なのだ。

「まあ。お正月は出勤なのだと聞いておりましたのに。何かありましたのかしら。」

麻季は、言いにくそうに言った。

「その…ビール番をしていた侍従が言うには、松殿が知り合いかもしれない王が居るようで。蒼様には、これ以上は出ない方が良いと。」

そうなのか。

松のことは、神世でもここに居る事を知っている神は少ない。

恐らく、なので蒼は知らない方が良いと出さない選択をしたのだろう。

恒が、言った。

「迅が居るだろ?退屈だろうし話し相手にって思って涼夏を連れて来ただけなんだ。でも、松が抜けたら明日の早番は誰が来るの?涼夏を来させる?」

涼夏は、ドキドキした。

最上位の王達の中に立ち混じるのはまだ早い気がするんだけど。

すると、麻季が首を振った。

「そこは予備の侍女が居るので大丈夫ですわ。皆正月は出たがっていたので。」と、涼夏を見た。「じゃあ涼夏殿、あちらの応接間ですの。今は皆様湯殿の宮に行かれたので、しばらくは戻られませぬわ。今のうちに中へ。」

涼夏は、頷いて恒に頭を下げた。

「恒様、ありがとうございました。」

楽しかったと言いたいが、ここでそれを言うと恒と変な噂が立って迷惑が掛かるかもしれない。

なのでそこまでにすると、恒は察したのか微笑んだ。

「ああ、いいよ。またね。」

恒は、そのまま戻って行った。

それを見送りながら、麻季は言った。

「…滅多に侍女など案内なさるかたではありませんのに。恒様とは親しくなさっているの?」

何やら、刺を感じる言い方だ。

涼夏は、慌てて言った。

「いえ、迅殿を訪ねて来たらたまたま行き合って、連れて来てくださっただけですの。恒様は蒼様と同じでお優しいかたですから。」

麻季は、納得したのかウンウンと頷いた。

「本当に。恒様は競争率が激しいのですわ。皆が恒様恒様と、でも全くご興味もないようで。」

涼夏は、苦笑した。

「はい。恒様なんて、我はそこまで身の程知らずではありませぬ。ただの見習い侍女ですのに。」

そもそも恒は主要キャラで私はモブキャラなのに、恋したって大変なのは分かってる。

涼夏は、そう思っていた。

とはいえ、恒が言っていた嫁と娘の事も、名前も出て来ていなかったのでモブキャラと言えばモブキャラだったのかもしれないが…。

向かって広間の右側の部屋の扉を、麻季がノックした。

「迅様?涼夏殿が参られましたわ。」

中から、声がした。

「入るが良い。」

恐らく、臣下同士では向こうが扉を開きに来てもおかしくはないのだが、迅は長く皇子をやっていたし、今も軍神なので侍女よりは地位が高く、こうなるのだろう。

麻季が、扉を開くと、迅は壁の方へと体を向けて、顔だけこちらを見ていた。

「涼夏か。なんだ、王も退屈ならと仰ってくださっておったから、呼びに行こうかと思うておったところなのだ。涼輝は?」

涼夏は、答えた。

「お兄様は宿舎で飲み会なのですって。多分、お帰りになっても遅くになるかと思うて、こちらへ参ったのですわ。」

迅は、頷く。

「どこなり座るが良い。」と、麻季を見た。「すまぬな。王からはまだ何も?」

麻季は、頷いた。

「はい。ですが、どうやら本日はこのまま楽を楽しんで終わりそうだとは申されておりましたわ。また、王からご指示がありましたらご連絡致します。」

迅は、頷いた。

「すまぬな。頼んだ。」と、涼夏を見た。「主も。我の退屈しのぎのためにすまぬな。」

涼夏は、出て行く麻季を見送りながら傍の椅子へと迅と同じように壁を向いて腰かけた。

「よろしいのよ。我も退屈だったら参ったの。」と、扉の方を気にして、声を落とした。「あの、恒様と裕馬様と、コンピュータールームでゲームをしてね。縫製の子達と一緒だったんだけど、先に帰ったので三人で話しておったのよ。それで、迅がこちらに居るから、行くかと聞いてくださって。それで参ったわけ。」

迅は、ククと笑った。

「そうか、何やら麻季の反応が堅い気がしたのよ。恒様は人気が高いゆえ、妬まれたのではないのか?」

涼夏は、頬を丸くした。

「やっぱり?偶然会って案内してもらったって言ったのに。信じてないのか、それとも一緒に居たから嫉妬してるのか分からないけど、嫌だなあ。せっかく何とかうまくやってるのに、見当違いな事でやりにくくなるの嫌なのよね。迅とは何も言われないのに、どういうこと?」

迅は、苦笑した。

「我とは、涼輝の事もあるし、何より幼い頃から宮が近くて幼馴染だと思われておるようだぞ。実際、会ったのは数回だったのにの。」

涼夏は、フッと息をついた。

「そうなんだ。良かった、あなたと話すのまで気を遣うなんて面倒だと思っていたから。でも…あなた、凛々しい顔をしているから、そのうち周知されて来て騒がれ出したら、こうは行かなくなるかもしれないわ。今はまだ、序列もついてないから誰も見向きもしないだけじゃない?」

迅は、少し驚いた顔をしたが、言った。

「…我が凛々しいだって?主の口からそんな言葉が聞けるとはな。」

涼夏は、え、と顔をしかめた。

「嘘はつかないわよ。前世は知らないけど、今は確かに美しい顔よ?最初見た時はイケメン祭りだって嬉しかったぐらい。でも、あなた辛辣だから。すぐに夢は砕け散ったわ。」

最後は笑いながら言うと、迅も笑った。

「我も言うたではないか。黙っておったら主は美しいなと思うたわ。だが、暴れ回っておるのを見て終わりだったがの。」

涼夏は、ため息をついた。

「あの時はね、甘い考えだったの。今は違うわ。分かってるもの。嫁に行くなら少しでも条件の良い所へ行きたいし、しっかり淑やかにやるわ。ま、そんな日が来るのかどうか疑問だけどね。」

迅は、頷いた。

「そうだな。自分を隠して過ごすのも面倒ゆえ、我は独身でも良いかと思うておるのだ。もう皇子ではないし、誰も跡継ぎがどうのと言わぬだろう。好きに生きるわ。蒼様のお役に立ちながらの。」

独身かあ。

涼夏は、思った。

前の人生でも独身のまま死んだし、できたら誰かをとても好きになって、結婚してみたいとも思う。

何しろ、せっかく今生は容姿に恵まれて生まれたのだ。

恋愛ぐらいはしたかった。

「…我は、前世も一人だったし。できたら今生は結婚してみたいかなって思うけどな。相手が居たらだけど。」

迅は、頷いた。

「それも主の選択であろう。良いではないか。ただ、侍女達との間で熾烈な戦いのようであるぞ?人気のある神は決まっておるようであるしな。主は皇女であった女神だし若いゆえ、あれらにとって強敵であろう。しかも、己でも分かっておるようだが美しい顔であるしな。誰でも、狙った男と婚姻できるのではないか?」

涼夏は、迅を軽く睨んだ。

「誰でも良いわけではないのよ。我だって誰かを好きになってみたいし、相手にも自分だけを大切にしてもらいたいと思うの。まあ…罪人の娘ってレッテルを貼られてしもうたから、あまり期待はできないかもしれないけれどね。贅沢も言えないようだったら、独身でもいいわ。ここなら働かせてくださるし。イケメンばっかりで年を取らないから、我が老婆になっても皆、あのままイケメンで居てくれるわけでしょ?それだけでもラッキーよ。眺めて過ごすだけでも幸せだわ。」

迅は、ハッハと笑った。

「主が老婆か。想像が付かぬが、それも良いやも知れぬの。そうなったら共に人世などを眺めに行って、語り合おうぞ。」

涼夏は笑って頷いた。

迅は、兄より前世の記憶を共有しているのもあって、近しい感じがする。

話しているのにホッとしていると、隣りの部屋から何やら遠く、賑やかな声が聴こえて来た。

「…あら。戻られたみたいね。」

迅は、頷く。

「我はずっとこちらで画面と睨み合って出番を待ちながら漏れ聴こえて来る会話を聞いているだけよ。声を落としておったら聴こえぬから、黙っていることはない。自由にしておって良いぞ。」

涼夏は頷いて、聴こえて来る王達の声にこれは誰の声だろう、と思いを馳せながら、迅とボソボソと小声で話し続けたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ