表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/142

54.告白

涼夏と迅は、十六夜を前に固まったままだった。

全てを聞かれていただろうことは分かったが、何を話せばいいのかすぐには判断できない。

十六夜は、床に降りたって、言った。

「…別に責めてるわけじゃねぇ。お前達に混じってる人の懐かしい気と関係あるのか?」

涼夏は十六夜の人型を初めて見て圧倒されているのもあって、言葉を失くしていたので、迅が答えた。

「…恐らくは。我らも、隠すつもりはなかったが、言うべきか否か話し合おうとしておった。」

十六夜は、腕を組んで言った。

「…その、維心が一回死んで維斗の子として転生したのも知ってるのが関係あるか?」

迅は、観念して頷いた。

「そう。何もかも知っておるのだ。それが…」と、涼夏を見た。「信じてもらえるのか、疑問なんだがな。」

涼夏は、余計な事を言ってしまいそうで口を開けない。

十六夜は、ため息をついた。

「ま、座れ。」と、自分も椅子に座った。「で?いいから話してみろ。信じるかどうかはこっちが決める。悪い気は感じられないから、悪意が無いのは分かってるが、またややこしい事になったらまずいんでぇ。腹ぁ割って話しな。」

涼夏が、迅に頷く。

迅は、ため息をついて話し始めた。

「…我らは、いやオレ達は前世人だったんだ。その記憶が何の因果か最近になって戻って来て。オレが車で恋人に会いに行く途中の道で、こいつが赤信号無視して飛び出して来て轢いてしまった。オレは避けようとして側の石碑に激突してから記憶がないから死んだんだと思う。」

十六夜は、顔をしかめた。

「まあ、ここには記憶を戻すやつも多いし今さら驚かねぇが、それとこっちの事情を知ってるのと何が関係あるんでぇ。」

迅は、また涼夏を見た。

涼夏は、答えた。

「あの…ここは、小説の世界で。」十六夜の目が、点になった。涼夏は続けた。「だから!ネット小説なの!この、あなた達の世界が!私達はその読者で、私はその最新話をスマホで読んでる時に赤信号に気付かなくて飛び出して、人の迅に轢かれたの!だからあなた達のことは、嫌になるほど詳細に知ってるわ。全部。」

思ってもいなかったことらしい。

十六夜は、目を点にしたまま、言った。

「…ええっと、これが作り話だってことか?お前もオレもここに居るのに?」

涼夏は、首を振った。

「いえ、だから違うの。迅が記憶が戻ってから人世に調べに行ってくれたんだけど…。」

迅が、頷いた。

「まさか、と思ってな。オレが生きてた世界と全く違う所に来てると思ったから、でも自分が生きてた記録がもしあったらって。」

十六夜は、半信半疑のようで、怪訝な顔をしながら言った。

「…で?あったのか。」

迅は、頷いた。

「あったんだよ。全く違う世界の中に来ちまったと思ってたら、オレの戸籍が抹消されてる記録があった。だから、同じ世界の神世ってのが、ここだったんだって知ったんだ。」

十六夜は、ぽかんとしていた。

涼夏は、十六夜が分かっていないと必死に言った。

「だから、私達から見たら十六夜達はみんな小説の中の登場人物でね、ここまでずっと10年ぐらい読んで来たの!それこそ、蒼がまだ学校に行ってた時から読んでたわ。十六夜に気付いた後、近くの公園で毎夜ハンバーガーとか大福を持って練習してたでしょ?初めて実体化したのも、蒼が頑張ってその公園でだったはずよ。私、覚えてるもの。」

十六夜は、呆気に取られていたが、真剣な顔になったかと思うと、涼夏をじっと見た。

「…蒼の兄弟は?」

涼夏は、頷いた。

「上に有、産婦人科医になったでしょ?人のままで死ぬのを選んで黄泉へ行ったよね。妹が涼、外科医になってお父さんを看取ってからここへ来たわね。李関と結婚したけど、二人共今は亡くなった。それから遙と恒の双子。遙は仙人だったけど亡くなってて、恒は裕馬と一緒に神格化して今も臣下として蒼を助けてる。裕馬は蒼の彼女だった子と結婚したけど…離婚してここへ来たのよ。」

迅が、頷いて続けた。

「祟り神にやられて維月が死んで、十六夜の片割れだったその時の陰の月の命をもらったんだよな。だから維月は、陰の月になった。今は地の陰も兼任してる。蒼は、維月と十六夜の間の命が宿って月になったけど、まだ人の体を使ってる。ええっと、他に何が聞きたい?とにかく、オレ達が読んだ最新話は維心が正月に月の宮で遊んで、月の宮に倣って龍の宮でもひと月4休を取り決めたところだったんだ。つまり、オレ達が記憶を戻した時点でもうそこで、ここから未来の事は分からないままだってことだ。」

十六夜は、目を丸くしていたが、段々に言っている意味が浸透して来たのか、真顔で頷いた。

「…合ってる。お前らが読んでた、小説ってのがネットにあって、その内容がオレ達のことだったってことだな?それを最近思い出したのか。」

迅は、何度も頷いた。

「そうなんだよ。黄泉でのことは全く覚えてないから分からないんだが、前世の事は覚えてる。ハッキリとな。」

涼夏は、頷いた。

「そうなの。過疎ってたからそんなにたくさんの人が読んでたわけじゃないから、私達が一緒にここに転生してるのは何か意味があるのかも知れないんだけど。私達は活字でしか知らなかったあなた達に実際に会えて、舞い上がって話してた感じなの。私から見たら、あなた達は憧れの存在なのよ。」

十六夜は、まじまじと迅と涼夏の二人を見つめた。

とんでもない事を言っているが、まだこの二人が生まれていない大昔の、蒼と人の世に生きていた頃のことまで詳細に知っている。

そんな事は神世のどんな記録にも残っていないので、今は十六夜、蒼、維月、恒、裕馬の頭の中にしかない。

維心でも、出会ってない時の事は知らなかった。

十六夜は、これは妄想でもなんでもないと思い、言った。

「…スマホってことは、まだ電波を使えてた頃の時代から来たんだな。かなり前だぞ?」

迅は、頷く。

「そうなんだ、ポールシフトの前だから、かなり前。オレが思うに、多分蒼達が人世に居た辺りからちょっと経ったぐらいの時間軸に生きてたんだと思う。まだ衛星に個人情報とかまとめてなかった頃だしな。」

涼夏は、頷く。

「そうよね。インターネットが盛況になってた頃だもんね。今はどう?」

十六夜が答えた。

「…昔のネット環境は海底に張り巡らされた地下ケーブルで世界を繋ぐ形に変わってる。何でも有線でなきゃ通じないから、山の上にも接続スポットがあるぐらいだ。電波が一切使えないからな。めっちゃ昔の無線の周波数ぐらいならいけるから、船とかそれだけどな。海上にもブイが浮かんでで接続スポットを作ってるぐらい、昔みたいな節操無くあちこち電波が飛び交うような事はなくなってる。電車の中でも天井から接続ケーブルが吊り下がってて取り合いになるんだ。」

それは面倒そうだ。

つまりは、地球上はそのケーブルで繋がっているのだ。

「…衛星からの電波は拾えるの?」

涼夏が思わず訊くと、十六夜は頷いた。

「何とかな。それも昔の周波数でだけどな。」

どちらにしろ、今の人世で生きるのは難しそうだ。

迅は、言った。

「だから、蒼がオレ達を見て懐かしいって言った時、記憶のせいかって思ったんだ。だが、こんなことを言って信じてもらえるか?落ち着いて信頼関係を築いてから言った方がいいかって思ってた。でも、十六夜の結界の中だし聞いてるよな。」

十六夜は、首を振った。

「オレだって全員の会話を聞いてるわけじゃねぇ。だが、お前がここを訪ねたのが見えたから、聞いてただけだ。涼は知らねぇんだな?あの感じだと。」

涼夏は、頷く。

「知らないわ。言っても信じないと思うし。それに、私達が知ってるのは最後に読んだところまでなの。つまり、今年のお正月の辺りのことよ?その後何が起こるかまで、わからないわ。だから、役に立たないから黙ってたの。お正月、ここで羽子板やったり双六やったりして遊んでたでしょう。双六は翠明が一番乗りだったわ。」

迅は、言った。

「オレが王がどんなものなのか知ってたのも、維心の前で特に物怖じしないのも、全部小説を読んでたからなんだ。龍王が恐れられてるのは知ってるが、維心がみんなが言うような、誰かれ構わず気分次第で殺すような神じゃないのを知ってるから。」

十六夜は、聞けば聞くほどいろいろ合点がいって、この二人が本気で言っているのを悟った。

そもそも嘘なら分かる。

この二人は、心の底から真面目に話しているのだ。

十六夜は、ため息をついた。

「…分かった。お前達は嘘は言ってねぇ。にわかには信じがたいことだが、正月のことだって末端の宮に居たお前達がそんなに細かい所まで知れるはずがないからな。とりあえず、蒼に話してみる。また呼ばれるかも知れねぇぞ?また同じ事を話さなきゃならねぇが、いいな?」

迅も涼夏も頷いた。

「ええ。信じてくれるならいくらでも話すわ。」

迅も、頷く。

「神らしくしてるから大丈夫だ。あれもオレ、これもオレだ。」

十六夜は、ため息をついて足を戸へと向けた。

「全く…今まで無いことを持って来ちまって。」と、戸を開きながら振り返った。「あ、涼夏お前な、イケメンだなんだ言うなよ。蒼が好みでもオレが好みでもお前の勝手だが、面倒は起こすな。知ってるだろうがオレは維月だけ。ややこしい事になってから、他には興味は向けない事にしたんでぇ。」

涼夏は、真面目な顔で頷いた。

「分かってる。瀬利と天媛と軽い気持ちで命を繋いでややこしかったもんね。別に私はイケメンを見てるだけで幸せだから心配しないで。」

それも知ってるのかよ。

十六夜は思って複雑な顔をしたが、そこを出て行ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ