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53.再会

涼夏が兄と共に、与えられた屋敷へと戻って居間でこれからの事の話に花を咲かせていると、戸の外に誰かが降り立った気配がした。

二人が戸の方向を見ると、外から声がした。

「涼。涼夏。我ぞ。」

二人は、パッと顔を見合わせて、慌てて涼夏が戸を開きに走った。

そうして、戸を開くと、目の前には少し前までは同じ立場だった、迅が甲冑姿で立っていた。

「…おかしいの。」迅が、声も出せずに居る涼夏を見て、二ッと笑った。「少し前に会ったばかりであるのに。まるで一年も離れておったような気がするわ。」

涼夏は、涙ぐんで迅を見上げた。

「…誠に。もう会えないものだと思うておりましたわ。」

すると、涼が後ろから笑って言った。

「何を主らは。まるで恋仲のようぞ。」

二人は、え、と同時に涼を見て、同時に首を振った。

「あり得ぬわ。知り過ぎておって今さらであるぞ。」

迅が言うのに、涼夏も頷く。

「兄弟のような心地ですから。迅様には我の悪事もいろいろ知られてしもうておりますもの。」

涼は、クックと笑って言った。

「そのような場所で立っておらぬで、中へ参らぬか。」と、口を押えた。「…そうであった、今は地位が全く違う。」

迅は、中へと歩いて来ながら首を振った。

「良い。どうせ我はこちらへ仕えようと思うておるし、主らと同じ立場ぞ。ゆえ、これまでと同じように話してくれたら良いぞ。」

涼夏は、茶器が置いてあるテーブルへと歩み寄りながら、言った。

「お座りになって。お茶をお淹れしましょう。」

迅は、頷いて涼の前へと座る。

涼は、迅を見て言った。

「主まで宮を出て参ったのか?しかも、皇子のままで?何があったのだ。」

迅は、ため息をついた。

「父が我の殺害を企てての。臣下が我に暴露したのだ。それで、もうどうしようもないと思うて、改心してもらうためにも叱責して宮を飛び出して来てしもうたのよ。蒼様が仰っておったが、会合で相当最上位の者達にしぼられたようであるし、ちょっとは必死になって務めを果たすようになっておるらしいから、我はこちらで様子を見ようと思うておる。」

涼も涼夏も、驚いた顔をした。

涼が、言った。

「主に何の罪もないのに?」

迅は、苦笑した。

「ま、予測できたことであったのだ。龍王が訪ねて来て、我が宮を監視していたと明かしての。父があの妃にかまけて全く新しい宮の運営に携わってないのを知られてしもうていたのだ。それを、我がやっておるのも知っておった。なので、我に代を譲らせる勢いで褒めたゆえ、父は己が追い落とされると思うたらしい。いつかは殺しにかかるかと思うておったが、あれほど速くとは思わずで。あれでは、龍王にバレて廃宮にされる。それを説いて、しっかりせよと申して来た。更に、龍王から直接王にならぬかと言われたのだが、断ったのだ。王になど、なりとうないからな。」

涼夏は、淹れた茶を兄と迅の前に置いた。

「…それでも、臣下達は?その計画を、あなた様に暴露したという事は、王にしたいと思うておったのでは。出て来てしまっては、それらを裏切ったことになりませぬか。」

迅は、頷いた。

「確かにそうだが、我はあの宮の王になる気は最初から無かったからの。主らには言わなんだが…幼い頃から、母も分からぬ神だと言うことで、臣下に疎まれて育ったのだ。我は保身のために、必死に学んでいろいろ身に付けて、優秀だと言われるように努力した。そうなって初めて、臣下達は何も言わぬようになった。つまり、そこまでは我は肩身が狭い思いをしたのよ。ここへ来て、結局自分達の益になるから我に王になれと申すわけであろう?勝手だと思うわな。ゆえ、もう良いのだ。今は客だが、蒼様には王として接しさせて頂いておる。神世に許されたらこちらへ移籍するつもりよ。それまでは、扱いは客でも蒼様の役に立つように務めるつもりでおる。なので、軍神達と毎日鍛錬しておるのだ。」

涼は、身を乗り出した。

「おお、我も今日裕馬様にお願いしたところなのだ。我が蒼様のお役に立てるとしたら、軍しかないと思うておって。嘉韻殿から連絡があるだろうと聞かされておる。」

迅は、嬉し気に目を輝かせた。

「ならばまた共に励めるではないか。良かった、基本的な仕組みなどは知っておるから、我が教えてやろう。ここは、しっかりと軍神を育てる仕組みができておってな。龍が多いので皆気が大きくて、遣り甲斐はあるが大変だ。だが、能力は伸ばせるようにとよく技術を教えてくれる。皆とても親切で余裕がある様子であるわ。やはり、月の結界の中で生きておるからであろうかの。」

涼は、それにはため息をついた。

「気の大きさでは皆に敵わないのは分かっておったので、それを聞いて安心した。我も、こちらへ来て思ってもいなかったのだが穏やかに過ごせておるのだ。気があまりにも清浄であるし、疲れておっても楽になる。誠に良い土地ぞ。蒼様のお力であろうな。」

迅は、クックと笑った。

「蒼様は穏やかな王であられるからな。だが、気はどちらかというと十六夜のお蔭であろう。結界を張っているのは十六夜であるから。こちらに居ったらどこで話しかけてもよう答えてくれるぞ。主も、困ったことがあったら話してみると良い。暇なら返してくれるだろう。」

ここは、月の結界の中だからだ。

涼夏は、余裕がなかった初対面の時を思った。

というか、考えてみたら声だけで、まだ十六夜本体とは会った事ない。

それに、迅と小説の話がしたいなあ。

蒼様に、話すかどうかも相談したいし。

涼夏は、言った。

「迅様、お話が。あの、蒼様に人世の気配がするって言われて。」

迅は、え、と涼夏を見た。

「主も?我も同じように。」

今すぐ話したい。

が、涼が居る。

涼には、前世の話は全くしていなかった。

この機会に話した方が良いのだろうかと、迅と顔を見合わせていたのだが、背後の戸から、声がした。

「…涼。居るか。」

涼夏は、ビクリと戸を振り返った。

この声…!あの美しい嘉韻の声だわ!

また顔が見れる、と涼夏が思っていると、涼が戸へと飛んで行って開いた。

「嘉韻様!このように早く、御自らお越しくださったのですか?」

嘉韻は、苦笑した。

「我にそのように申さずで良いぞ。まずは腕前を見たいと思うての。もうすぐ訓練場が空くので、ちょうど良いから見てやろうぞ。参れ。」

涼は、何度も頷いた。

「は!」と、迅と涼夏を振り返った。「行って参る!」

二人は、同じように頷いた。

「はい。行っていらっしゃいませ。」

涼夏は、頭を下げた。

というか、迅と話したいからその方が良かった。

涼は、興奮しながら嘉韻について、飛び去って行った。


それを見送って、迅は言った。

「…未婚の皇女を友とはいえ男と二人で屋敷に残して行くとはの。あれはそういうところが今一気が回らぬようぞ。」

涼夏は、チラと迅を見た。

「お兄様はよく我の事を考えてくれておるわ。それより、あの、さっきの話。お兄様にも話しておらぬから。でも、蒼様から昔の人世の気配がするって、懐かしいって言われて…理由を問われたけど、あなたに相談してからにした方が良いかと思って。」

迅は、頷いた。

「確かにの。我もそのように。というか、主と二人なら力を抜いて良いか。」と、迅はため息をついた。「…正直、人だった方が良かった。神は何かと力勝負になるし、みんな優秀だから自分が情けなくなって来る。記憶がない時も必死だったが、今だって必死だ。いや、今の方が必死かもしれない。人の記憶が、あの時の方が楽だったって何度も頭の中で言うんだよ。お前はどうだ?」

涼夏は、はあとため息をついた。

「私だってそうよ。殺されるとか、そんな事なかったし。誰かの役に立つとか、別にどうでも良かったし。働いて、とにかく自分のために稼いで毎日生きてたら良かったもんね。でも…私は女だし。神世でもそこまで厳しくはないのよ。あなたの方が、人生ハードモードよね。生まれた時から大変だったんでしょ?お母様の出自が分かったの?」

迅は、頷いた。

「そうなんだ。それがな、ほら、維心が石のせいで死んですぐ維斗の子として転生して、まだ子供の大きさ時に維月が攫われた話があっただろうが。アマゾネスが潜んでて、そいつらに襲撃された回。」

涼夏は、ああ、と手を打った。

「知ってる知ってる!え、アマゾネスが絡んでるの?」

迅は、渋い顔で頷く。

「オレの母親。そのアマゾネスが仲間の厳しさについてけなくて、そこから逃げたらしいんだ、100ぐらいの時に。それを、陸が見つけて…って感じ。オレを産んだ後、他のはぐれの神に攫われて行方不明になったらしい。オレにそっくりなんだとさ。」

迅に似てるなら、多分凄い美人だ。

涼夏は、神妙な顔をした。

「でも、あなた頑張ったわよ。私は別に、小さい頃は可愛がられてたしそんなつらい思いなんかしなかったもの。ほら、なんか美人に生まれてるじゃない?だから、そんなに勉強しなくても愛嬌があれば乗り切れたわけ。記憶が戻ってからは、顔だけじゃまずいのはわかったんだけどね。」

迅は、伸びをした。

「自分で言うなよ。あーあ、どうせならもうちょい普通の神に生まれたかったよ。皇子だけど下位の宮だし、しかも脇腹の子で疎まれるわ、やっと努力して勝ち取ったと思ったら血筋が良い弟にその場所も追われるわ。ま、王になんかなりたくないし、できたらどっかの宮の第二皇子ぐらいがいいなって思ってたんだけどな。だから別に、弟を補佐して生きるってのも、悪くはないって最初は思ったんだ。でもさ、これまで生きて来た記憶を考え直してると、前世の自分があほらしいって言うわけだ。なんだってそんなに利用される一生なんだって。確かに、苦労の割には全く報われない位置になるだろうし、面倒ばっかり押し付けられて生きる人生なんか嫌だなあと思った。それでなくても前世事故で死んでるのに、もっと平穏に過ごせる環境に転生させてくれたら良かったのにさ。」

涼夏も、それは思った。

前世の記憶はあまりパッとしないものだったし、若くして事故で死んでしまったんだから、できたら今生は楽に長生きさせて欲しかった。

「…もうここまで生きてしまったし仕方がないわよ。自分で死んだら面倒な事になるでしょ?なんか、薄っすら覚えてるんだけど…黄泉の事?か分からないけど、誰かに念を押された気がするの。苦労するし、途中で投げ出したりしたら一気に面倒な所に堕ちるがそれでも良いか、って。」

迅は、うーんと唸った。

「…それも同じか。そうなんだよな…オレも、誰なのか覚えてないけど、生まれる前に散々言われた気がする。そこのところ、はっきり思い出したいよな。オレ達って、何を思って転生したんだろ。」

涼夏は、ため息をついて首を振った。

「分からないわ。何か意味があると思いたいけど、思い当たる節がないのよね。ま、そのうち思い出すかもしれないじゃない。それより、蒼様よ。きっと気にしていらっしゃると思う。おかしいと思ってるんだろうに、受け入れてくれたのに優しさを感じたしね…ほんと、蒼って小説の通り、凄く優しい人だったわ。でも、見た目は思ってたより男っぽかったけどね。」

迅も、それには頷いた。

「そうそう。オレもそう思った。もっと幼い感覚で居たけど、よく考えたら最初は16歳だった蒼も、今じゃ何百歳だっけ?ああなるよな。」

涼夏は、ニターッと笑って言った。

「実はね、いろいろイケメン見たけど、みんな現実味が無さ過ぎてなんか憧れる気持ちも湧かないんだけど、蒼だけは別。すっごく好みだったんだあ~。でも、後は見てないの十六夜よね。最初、私十六夜がめっちゃ好きだったの。ああいう、力はあるけど面倒そうな感じの、でも優しい人って昔から好みでー。」

迅は、ハイハイ、と呆れたように手を振った。

「あーわかったわかった。オレ、一回見たけどめちゃくちゃイケメンだったぞ?オレがここへ来た日に、維心が維月を連れてここへ来たんだよ。話をするために。その時、維月が来たから十六夜が降りて来てたんだ。小説の描写の通り、髪は青銀だからお前と似てる色で、目は金色だった。で、めちゃイケメン。思ってたより目が鋭くてな。」

涼夏は、ウンウンと頷いた。

「へー!めっちゃ見たいなあ。頼んだら降りて来てくれるかな?駄目だろうなあ、めんどくさがりそう。」

「別にめんどくさくないぞ。」間近で声がして、二人はびっくりして振り返った。「というか、ちょっとその話聞かせてくれや。」

そこには、十六夜らしい人型が浮いていた。

二人は、仰天して目を丸くしながら思った…蒼が、パッと出るなって気持ち、嫌ほど分かる…!!

だが、そんなことよりも、月の結界の中でこんな話をしていて、十六夜が気付かないはずがなかったのだ。

二人は、いよいよ話をしなければならないかと、覚悟したのだった。

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