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49.出自

その少し前、迅は宮で涼弥の宮の方角が、騒がしいのを感じていた。

父の陸は特に反応していなかったが、迅は常に回りで何かあってはと、結界回りを見る癖がついているのだ。

…義心が来ているのは知っているが、闘気が感じられるような…?

思って見ていると、涼と涼夏の二人が、宮から飛び出して遠ざかって行くのが感じられた。

…まさか…?!

迅は、慌てて宮の外へと向かった。

庭へと出て空を見ながらその気配を詳細に追うと、涼弥の宮から軍神だと思われる気が、多く涼と涼夏の気を追っているように感じた。

だが、涼と涼夏の側には、大きな龍の気を感じたので、恐らく義心以外の誰かが二人を守っている。

何しろ義心の気は、まだ涼弥の宮の中にあるように感じるのだ。

…もしかして、涼弥殿はあの二人を処刑しようとして、龍が止めたのか…?

よく分からないのでイライラしていると、急に大きな気が二つ、この宮へ向かって迫って来るのが感じ取れた。

…この気…!!

あの時、龍の宮で感じたあれだ。

あの巨大で敵うはずのないと思わせる、存在するだけで相手を威圧する気の持ち主。

…龍王がこちらへ来ている…!!

迅が慌てて宮へと取って返そうとしていると、結界外の警備を担っている軍神達が慌てふためいた様子で宮へと降りて行くのが見えた。

…やはり、龍王が来たのだ…!!

迅は、宮へと必死に向かった。

だが、それを追い越すように、その大きな気は迫って来て結界を抜け、宮へと降りて行くのが遠く見えた。

それは二つで、維心と、炎嘉の二人がこの下位の宮へとやって来たのが分かった。

まさか、この宮にも沙汰が…?!

愛羅が居るので、無いはずだった。

現に、義心達は涼弥の宮へと行っていて、こちらには来ていない。

迅は、とにかく対応をしなければと、急いで宮へと入って行った。


すると、臣下達は出迎えの挨拶もせずに、ただ立っているだけの維心と炎嘉から逃げ惑ってあちこちに隠れている。

迅は、そんな臣下達にイライラしながら掻き分けて、二人の前に進み出て頭を下げた。

「お出迎えが遅れ、申し訳ありませぬ。今、父にも知らせが参って奥から出て参るところであります。応接間の方へご案内致します。」

二人は、迅に頷いた。

特に、自分に対して敵意や憤りなど感じなかった。

陸が、慌てふためいて奥から出て来て、二人に深々と頭を下げた。

どうせ、奥で自分はあの妃が居るから沙汰など無いと安穏と過ごしていたのだろう。

「急なお越しに驚きましてございます。お出迎えが遅れまして…。」

じっと黙っている維心に代わり、炎嘉が言った。

「主に用があって参った。今迅が応接間に案内すると言うておったところよ。この際であるから、迅も来い。話がある。」

ニコリともしない。

もちろん、二人を追い返すことなどできるはずはないので、陸は迅と共に、応接間へと二人を案内して行ったのだった。


鴇と木佐が、さすがに王を放って置けないと思ったのか、おずおずと後ろからついて来て共に応接間に入った。

二人を上座へと案内して、何もしていないのだが罪人のような気持ちでじっとその前に座っていると、炎嘉が言った。

「…主の罪とて涼弥と同じぞ。」炎嘉は、いきなりそれを突きつけた。陸は慄いた顔をした。「だが、主の皇子は優秀ぞ。先を考えても、迅なら主より上手く立ち回ろうし、三番目の宮としても対面は保てるだろうと考えて、保留にしただけぞ。いくら旭の皇女が居るとはいえ、沙汰を下したいのなら旭に引き取らせたら良いだけのこと。とりあえず、ここで様子を見ようと思うたのは、迅のこと考えたから。主のためではないぞ。」

…我のために?

迅は、驚いたのと同時に、面倒な事になった、と思っていた。

つまりは、自分がこの宮を出たら、ここに沙汰が下されて愛羅は旭に引き取られてしまうということなのだ。

こうなったら、陸は自分が結界から出ることを、絶対に許さないだろう。

迅が眉を寄せていると、陸が言った。

「え、迅のことをご存知ですか。」

炎嘉は、頷いた。

「下位の編成を考えた時に、全て調べておるわ。いくら宮が上品で財政に困っておらぬでも、王が愚かなら格など上げられぬ。主がそこまで優秀だとは思うておらぬ。問うが、此度の再編成、主、傘下をどのように治めようとしておるのだ。これまで進んでおる経過を申せ。」

迅は、眉を寄せたままじっと様子を見ていた。

これは、恐らく二人は知っている。

陸が、何もしていないという事を。

陸は、え、と顔を上げたが、迅を見た。

「それは…迅から説明を。」

だが、それには維心が言った。

「…主の口から申せ。」

…やっぱり。

迅は思って聞いていた。

黙っていた維心が、強い調子で言うので、陸は震え出した。

だが、言えるはずがない。

…全て息子に丸投げでしたと言うてみたらどうよ。

迅は、そんな陸を蔑むような気持で眺めていた。

炎嘉が、言った。

「…言えぬだろうの。」陸が目を見開いて炎嘉を見上げる。炎嘉は続けた。「皇子に丸投げであろう?己は妃と散歩か。我らが序列の見直しをしておるのに、その只中の宮を監視しておらぬと思うておるのか。我らが信頼して任せておるのに、何をしておるのだ主は。迅が居らねば此度の序列の上昇などあり得ぬところぞ。主の姿勢にはこちらは失望しておる。少し考えねばならぬと思うておるところぞ。何なら、代替わりを勧めても良いかと思うておるぐらいであるからな。」

迅は、固唾を飲んだ。

最上位の王は、こちらを監視していたのだ。

という事は、全て知っているという事で、もしかしたら十六夜は、自分が宮を出たいと言っている事を、この二人に話してくれているかもしれない。

小説の記憶がある迅にとって、いくら最上位の王で気が強くて大きくでも、そこまで恐れてはいなかった。

皆が思っているほど、理不尽に神を罰して処刑してしまう神達ではない事を知っているからだ。

それどころか、できたらそうしないで済むようにと、いろいろ考えてくれている。

こちらが、まずい対応をしなければ良いのだ。

だが、自分は王座に就きたくはない。

そんなものは煩わしいと思っていたし、知っていた。

なので、言った。

「…我は、王座に就くつもりはありませぬ。」迅がそう言ったので、臣下も陸も驚いた顔をした。迅は続けた。「新たに生まれる皇子の方が、血筋もしっかりしておりどこの誰の子が分からぬ我より良いかと思うのです。それに、王など重い責務ばかりで、我には荷が重い。我は、要らぬ争いの元になるのもと思うので、宮を出たいと思うておったぐらいなのです。」

王になど、なるものではない。

これは、頻繁に最上位の王達が言う、言葉だった。

その家系に力を持って生まれてしまったばかりに、こんな面倒なことをしなければならないと、常面倒がっている描写が多かった。

この二人には、我の気持ちが分かるはずなのだ。

炎嘉は、言った。

「…そうか、主は己でも母を知らぬのか。それがその自信の無さに繋がっておるのなら、我が敢えて聞こう。」と、陸を見た。「陸、これの母親は誰ぞ。本来、そんな無粋な事は聞かぬが、此度ばかりは序列の再編成が掛かっておるから詳しく聞いておかねばならぬ。娶っておらずで成した子であろう?これまでは聞く理由が無かったが、今申せ。誰ぞ。」

今さら母などどうでも良いが、それでも生きて苦しんでいるのなら、助けてやれるかもしれない。

迅が思っていると、

陸は、おずおずと口を開いた。

「…実は、その、はぐれの神で。」

炎嘉は、眉を寄せた。

「その女は?」

陸は、観念したのか、深いため息をつくと、訥々と話し始めた。


陸は、成人してすぐぐらいに、結界外の集落ではぐれの神の中の美しい女に出逢い、それに通うようになったが、父王に許されなかったらしい。

だが、その時にはもう身籠っていて、屋敷を与えて迅を産むまでそこへ通っていたらしいが、生まれてしばらくして、その女は忽然と姿を消した。

陸が回りのはぐれの神に聞いたところ、他のはぐれの神に攫われたのだと分かった。

父王に軍神を貸してほしいと頼んだが許されず、しかし生まれた子の迅の気が思っていたより大きかったので、陸の子として育てることを許されたのだという。

更に炎嘉が聞くのに答えると、その女は大陸の話をしていた。

名はユリアといい、読み書きはできず、滅びた一族の末裔で、こちらへ逃れて来てひっそりと暮らしていたのだが、厳しいので嫌になり、出て来たのだと言っていたらしい。

大陸…滅びた一族。

迅は、眉を寄せた。

それは、もしかして。

維心が、考えて居たのだが、口を開いたので迅はハッとした。

「…一族が滅びたと申しておったのだろう。この辺りで、滅びた宮などない。だが、大陸からわざわざこちらへ逃れて来るか…」と、そこまで言ってから、ハッとした顔をした。「来る。居った。」

炎嘉も、あ、と顔を上げた。

「そうか、アマゾネスぞ!」と、陸を見た。「主、もしかしたらそれはアマゾネスの血族だったのではないのか。厳しいとは、もしかして立ち合いもさせられるゆえ、それが嫌で出て参ったとかでは。」

…やはりそうか。

迅は、思っていた。

小説の記憶があるので、二人が何を言っているのか、迅はよく分かった。

だが陸には分からないようで、驚いて手を振った。

「そのような!まだ子供であったのです、あの頃はまだ100ほどで。我もそんなに幼いとは知らずに娶っておったので、そんな大それた女ではなかったかと。」

炎嘉は、首を振った。

「アマゾネスは、こちらで実に200年も我に復讐しようと潜伏しておったのだ。そうして、その間は小さな屋敷に皆で暮らしておった。その中には、小さな子も居た。皆女で、そこで育った軍神も居たぐらいぞ。あちらは女は皆、軍神になるよう幼い頃より立ち合いをさせられる。それが合わぬでもの。それに嫌気がさして、そこから出て来た女だったと考えられる。」

維心は、頷いた。

「名もそうぞ。ユリアという名は、こちらにもあるが、あちらにもある。それに、読み書きぞ。あちらとこちらは言葉が違うし、学べばすぐに覚えるだろうが、そういう環境では書も手に入らぬだろう。ゆえ、話せても読み書きができなんだと考えたら合点がいく。軍神家系なので背も高い。動きがしっかりしておったのは、それでではないか。」

陸は、二人がガンガンと情報を出して行くので面食らいながら、言った。

「では…迅は、アマゾネスの血筋ということに。」と、迅を見た。「これはユリアにそっくりで。目の色は黒いが、それを空色に換えたら、誠に生き写しなのです。もし探せたら…確かに、今ならあれを助けてやれる。」

今さら他の女に呆けておる主などに引き取られて、その母が喜ぶのか。

迅は思ったが、炎嘉は首を振った。

「生きているのか分からぬからの。だが、とりあえず迅にそっくりの女神が居たら、申すように言う。アマゾネスは罪を犯したとはいえ、その女はあれらが襲撃して来た時には、とっくに居なかった。ゆえ、その女には罪はない。迅は、力を継いでおるのだろうが、なので罪はない。つまり、主は過去に罪を犯したのではないという事になる。」と、炎嘉は迅を見た。「主の心地は分かるが、今少し待て。陸の動きを、我らは見ておるのでまた考えるわ。序列の件は、しばらく保留にする。ほかならぬ王自身が傘下を回せるのか確かめねばならぬからの。迅、主は間違っておらぬ。王になど、なるものではない。だがの、民を守るために王族に生まれたのなら、やらねばならぬのよ。我だって、そこから逃れられるのなら逃れたいわ。だが、できぬ。もし、己の父がそれを成せぬのなら、己が成さねばならぬのよ。父を殺してでもな。そういう立場なのだ。」

父を殺す、と聞いて、陸が顔色を青くした。

迅は分かっていたが、殺してまで欲しい宮ではない、と内心思っていた。

殺したければいつでも殺せたが、そんな事をする必要もなかったからしてこなかった。

父としてここまで育ててくれた事には感謝しているし、困っているのはここ最近の呆け具合だけで、この上自分を面倒な存在だと疎み始めたように見えたので、宮を出たいと思っていただけ。

民を率いてどうの、はっきり言って前世の記憶がある迅には、面倒この上なかった。

維心が、言った。

「…本日は、これで戻る。だが、しっかりせよ、陸。このままでは主の序列上昇は保留ぞ。本来、主には沙汰を下すはずであったし、我らも主がどういう対応をするかと見極めるために参ったが、思っていた以上の体たらく。沙汰は無しとは言えぬ。なので、判決も保留。迅に学ぶが良い。…このままでは、迅に譲位を勧めるか、それとも…」と、炎嘉を見る。「どうするかの。」

炎嘉は、険しい顔で言った。

「考えておくわ。とにかく、年明けからの始動が上手く参るのかどうか、我らはそれで精査する。王が宮を率先して回すものであり、それができぬのなら王座を迅に明け渡すが良い。本神は嫌がっておるがの。」

陸は、項垂れて頭を下げた。

維心と炎嘉は、どうしたものかと頭を悩ませながらも、龍の宮へと戻って行ったのだった。

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