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41.遭遇

塔矢は、維心と炎嘉の背を追っているうちに、何やら向こうから流れて来るあり得ないほどおぞましい気が、全身に纏わりつくようで圧力を感じて息苦しさを感じて来た。

まだ遠いというのに、あの気の大きさは、大きくなって来ているように思う。

祟り神だとしたら、こんなに側まで行くのは自分は初めてだ。

祟り神の存在自体は書で読んで知ってたが、まさかこれほどまでに面倒な気であったとは。

塔矢の飛ぶ速度が落ちているのを感じた炎嘉が、振り返って寄って来た。

「塔矢?主、無理をするでないぞ。我らでも鬱陶しいと感じるぐらいであるから、主はキツイであろう。宮へ戻るが良い。これが本当に祟り神だったとしたら、主は飲まれるぞ。」

塔矢は、頷いた。

「は…。足手まといになってはならぬので、我は離れておりまする。ですが、何かあったら必ず箔炎殿と高彰殿、駿殿にお知らせを。宮には帰りませぬ。」

炎嘉は、何とか役に立とうとする塔矢に、頷いた。

「わかった。だがなるべく遠くにの、何があるか分からぬから。特に維心は、気を暴走させたら回りなど見えておらぬからの。行け。」

塔矢は、頭を下げた。

あの龍王が暴走したら、炎嘉もただではすまないからだ。

そんな所へ臆せず赴く、炎嘉には心から平伏していた。


迅は、清の宮から感じていた、微かな母の佳織の気が、全く感じられなくなったのを気取った。

慌てて父の陸へと話したが、父は煩そうにするだけで、もう関係ない、と言い放った。

父にとってはそうかもしれないが、自分にとっては母親なのだ。

確かに最後は面倒な事になっていたかもしれないし、我が儘も言うので困った事も多かったが、それでも乳母と共に、自分達兄妹を育ててくれた。

とはいえ、妹の奏多は涼の妹の涼夏のように、目覚めていろいろ学ばうとか、そんな気にはなってくれないようで、未だに何も分かっておらず、毎日庭で走り回ったりして遊んでいる。

新しい母である愛羅も、やんわりとそろそろ落ち着かねばと躾けようとしてくれているのだが、奏多はあいにく、そんな様子では全く言うことなど聞かない。

聞くのなら、とっくに学んでいただろう。

なので、こんな事があっても全く相談もできなかった。

…涼に言うか。

迅は思ったが、よく考えたら今日は、涼夏が例の祟り神の話をしに、塔矢の宮へと行っているはず。

聡子も涼夏も知らない仲ではないし、幼馴染だ。

聡子一人を訪ねて行くのなら、噂もされるかもしれないが、二人を訪ねるのなら問題ないかもしれない。

迅は、急いで塔矢の宮に先触れを出した。

…聡子殿と、涼夏殿に母の件で話しがある。

迅は、そう急いで書きつけて、塔矢の宮へと送った。


「…え、迅殿から?」

涼夏が、聡子の部屋で言った。

一緒に居た、恵麻が言う。

「迅殿が、なんと?」

聡子は、文を差し出して、言った。

「迅殿のお母様の件でお話があると。もしかして、涼夏殿のお母様の件と同じようなことでは…?」

恵麻は、頷いた。

「すぐに来てもらうように。この際、聞けることは聞いておきましょう。王がお戻りになったら、お話できることもあるかもしれませぬ。」

聡子は、頷いて急いで返事を書いて、侍女に渡した。

侍女は、それを受け取って速足でそこを出て行った。

「…どうなさったのかしら。昨日も、お兄様に同じ件でお話をしておりましたの。我も、その場に同席しておって。お互いに、案じられると申して…。」

恵麻は、言った。

「どちらにしろ、迅殿はより多くの事を知っておられるようですし。お待ちしましょう。」

涼夏は頷いたが、落ち着かなかった。

なんだか分からないのだが、とても落ち着かないのだ。

胸の内から何かが急き立てるように、早く、早くと不安を煽って来る。

じっとしていることができないぐらい、何かの予感のような物が突き上がって来て苦しいほどだった。

「…少し、見て参ります。」

涼夏は、立ち上がった。

聡子が、慌てて言った。

「待っておれば近いのですからすぐに来ますわ。」

涼夏は、首を振った。

「じっと座っておるのがつらいのですわ。少し外へ出るだけですので。」

聡子はまだ心配そうな顔をしたが、恵麻が涼夏の気持ちを察したのか、聡子に首を振った。

聡子は腰を浮かして立ち上がりかけていたのを、そっと座り直して、涼夏が窓から外へと歩いて出て行くのを、見送ってくれた。

涼夏は、どんどんと大きくなって来る不安を紛らわせるように、しばらく歩いてから浮き上がって迅の到着を待ったのだった。


迅は、塔矢の結界へと入って、宮へと向かった。

塔矢の宮は、遠目に何度か見ていたが、もうすっかり建ち上がっていて、それは美しい。

だが、今はそんなことを考えている暇もなく、宮の結界へと近付くと、覚えてのある気がその辺りの宙にうろうろとしているのが感じ取れた。

…あれは、涼夏では。

迅がそちらの方へと近寄って行くと、思った通り涼夏が、結界のすぐ内側をウロウロと外を見ていた。

「何をしておる。」迅は、中へと入りながら言った。「部屋で待たぬか。」

涼夏は、迅を見てホッとしたように飛んで寄って来た。

「落ち着かなくて。迅殿、塔矢様が炎嘉様にお話に行ってくださったの。だから、今頃は祟り神の可能性を話してくれてるはずなのよ。さっきから、なんだか嫌な予感ばかりがして…お母様のあの面倒な気も、よりハッキリ感じるような気がするし。」

迅は、頷いた。

「我もそのように。それとは逆に、我が母上の気が全く気取れなくなったのだ。父上に申し上げたが、もう関係ないの一点張りで。ここへ来たら、塔矢殿が聞いてくださるかと思うて来てみたのだが、居らぬのだな。」

涼夏は、頷く。

「ええ。でも、迅殿のお母様の気が感じ取れないって、まさか…?」

迅は、ため息をついた。

「恐らくは。遠くから気取れぬほど小さくなっただけなのかもしれぬがの。だが、いくら何でも母なのだから、その生死ぐらいは知りたいと…」

そう言った時、不意に南西から西へと向かって、大きな気が物凄いスピードで移動しているのが感じ取れた。

「…なに?あれ…。」

「…龍王ぞ。」迅は、グンと浮き上がった。「鳥王と共に移動しているのだ!あの方向は、高峰殿の宮の方角!」

涼夏は、口を押えた。

まさか…まさかお母様が?!

「ど、どうしたらいいの?!もしかして、お母様が、た、祟り神に…?!」

迅は、震える涼夏の肩をガシッと掴むと、言った。

「我らにどうにかできると思うか。龍王が行ったのなら、何とかしてくれる!落ち着け、我らが足掻いたところでどうにもならぬのだ!」と、一気に辺りの気の流れが、西の方角へと吸い込まれるように向かっているのが感じられた。「う…?!これはなんだ?」

「龍王様が気を放つために一帯の気を吸い上げておられるのよ!」振り返ると、そこには恵麻が浮いていた。「早く中へ!この量を一気に放たれたら、その反動でこちらも吹き飛ばされるわ!王の結界の中なら、大丈夫よ!」

龍王は、こんなに気を吸い上げることができるの…?

涼夏は、ガクガクと震えて来る体を必死に抑えようとしたが、無理だった。

あの、龍王が放とうとしている力の先には、もしかしたら母が居るかもしれないのだ。

迅は、恵麻に腕を引っ張られて結界の中へと降りて行きながら、恵麻に言った。

「お待ちを!我の母の気を、つい先刻から全く感じなくなったのです!なので、生死も定かではないと、これに意味があるのかとこちらへ訊ねに参っただけ。我は、清殿の宮へ参ります!」

こんな時に、もしかしたら母までどうにかなってしまうのでは。

迅がそう思っているのは分かったが、恵麻は、そんな迅の目を鋭い目で睨むように見ると、言った。

「気が感じられないということは、お母様はもう絶望的だと思われた方が良いわ。もしまだ息があったとしても、清様がお傍に居るのですから対応できるのならしておるでしょう。できないのなら、それなりの理由があるということ。落ち着くのです、迅殿。あなたが同じように危険に晒されることを、お母様はお望みになるの?ここは、最上位の王達に任せて、あなたはこちらで潜んで待つのです。ただ犠牲になるのは、愚か者がすることよ。死ぬのなら、意味のあることで死になさい。」

迅は、言われてグ、と黙った。

そうして、迅と涼夏は恵麻に連れられて、宮の結界の中へと入ったのだった。


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