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23.婚姻

迅は、新しい宮に入るという、女神が到着するのを父と共に到着口で待っていた。

ことここに至るまで、それは大変だった。

新しい奥宮を建て増すのもだが、それ以上に義母の佳織の暴走が大変だったのだ。

宮に、新しい妃が来ると聞いた時には暴れて古い奥宮が大変な事になったが、しかしそこはもう奥宮ではなくなるからダメージはそうでもない。

しかし、その皇女が上から二番目の序列の宮から来ると聞いて、発狂したようになってしまった。

なぜなら、それはその皇女が必ず正妃になるという事だからだ。

下位の、ましてこの宮の支援を受けているような宮から来た、自分が太刀打ちできるはずなどないと知った佳織が、髪を振り乱して暴れる様は、迅も見ていられなかった。

結局、旧奥宮の一室に何とか籠めて、今日は皇女を迎える事になっていたが、不安はぬぐい切れていなかった。

侍女達が言うには、閉じ込めてからは恐ろしいぐらいに静かで不気味なほどだそうだ。

迅も陸も、ひたすらにため息をつきながら、正装で皇女の到着を待った。


旭は、やっとの事で愛羅が娶られるので、ホッとしていた。

しかも、序列こそ低いが財力はかなりある、しっかりとした宮だ。

礼儀だけが問題なのだと炎嘉からも聞いていたが、確かに少々侍女達が無邪気だなとは思ったが、そこまで酷い感じでもない。

しかも、娘のために長年使った奥宮を捨てて、新しい宮まで建ててくれた。

ここまで待ち侘びていてくれるのだから、きっと大事にされるだろう。

そうして、今回は愛羅の妹の、麗羅(れいら)も連れて来ていた。

麗羅の方はまだ260歳なので、そこまで急いでもいないのだがしかし外へ連れて出て、少しでもいろいろな神の目に触れさせておかないと、愛羅の二の舞になってしまう。

そんなわけで、本州に来るのなら連れて来ると、同行したのだ。

愛羅は、花嫁衣裳で豪華に着付けられて、ベールの中で不安そうにしている。

旭は、言った。

「心配はないぞ。主のためにわざわざ宮を建ててくれたのだ。しかも、我に意見を聞いてくれたので、主のあちらの部屋と同じような設えにして建ててもらえた。安心して良いのだぞ。下位とはいえ、我は炎嘉殿にも話は聞いたが、後は誠に礼儀だけなのだそうだ。それさえ何とかなったら、上に上がる。ゆえ、主は何も案じることなく好きに直した方が良い所を指摘していたらいいのだ。問題ない、我がどこへ出しても恥ずかしくないように育てたのだから。」

愛羅は頷いたが、それでも知らない土地に来たわけなので、不安そうだった。

そして、輿は陸の宮上空へと到着し、そうして到着口へと滑り込んで行った。


「…来たの。」陸が、見上げて言った。「迅、あれが叫び出したりしたら、すぐに音を遮断する膜を張るのだぞ。遠くから来る若い皇女が、不安に思うておるのは想像に難くない。ゆえ、少しでもおかしなことは見せぬようにせねば。せめて、今日だけでもの。」

迅は、真剣な顔で頷く。

「は。お任せを。」

そう言っている二人の前に、輿が滑り込んで降りた。

陸がじっと待っていると、中から旭が降りて来た。

「陸。待たせたの、やはりここは遠いわ。」

陸は、会釈した。

「旭殿。遥々よう来てくださいました。」

旭は、満足そうに頷くと、輿に手を差し出した。

そして、中からベールに包まれた手がスッと伸びて来たかと思うと、まるで羽のように軽やかな様で、夢のように美しい女が降りて来て、頭を下げた。

陸が、散々美しいと聞かされてはいたものの、これほどとは思っていなかったので驚いて絶句していると、旭が自慢げに言った。

「これが、我が娘の愛羅ぞ。手塩にかけて育てたゆえ、主らの宮の問題はすぐに解決するだろうて。愛羅、これが陸、主の夫となる王ぞ。」

陸は、じっと見つめた。

愛羅は、そっと顔を上げて、上げていた扇をベールの中で静々と降ろすと、顔を見せた状態で、言った。

「初めてお目にかかります。愛羅と申します。これよりは、心よりお仕えして参りますので、なにとぞお導きのほど、よろしくお願い申し上げまする。」

なんと美しい。

陸は、こんな様は龍王妃や翠明の妃の綾ぐらいしか見たことがなかったので、面食らった。

なので、口をパクパクさせていたが、やっとのことで声を絞り出した。

「なんと…これほどに美しい女神を見たのは初めてぞ。あまりの事に言葉もなくて…」と、旭を見た。「旭殿、誠に我で良いのですか。これでは、あまりにももったいないのでは。」

愛羅が、驚いたような顔をした。

旭は、ハッハと笑った。

「だから我が己から宮へ乗り込んで精査したではないか。ここは、大変に裕福な宮ぞ。あちこちの宮に見返りも求めずに友のよしみで支援したり、我は知っておるぞ。主は心根の優しい王であるわ。豊かで心根が良い男なのだから、我は良いと思うた。それに、愛羅のために宮まで建ててくれたであろう?主に任せたいと思うておるぞ。」

宮を新築して良かった。

陸は、誠に良いのかと何度も心の中で思ったが、旭から愛羅の手を受け取った。

…心底、幸福にせぬではバチが当たりそうぞ。

陸は、内心思いながら、先に宮の案内かと考えていると、旭がまた輿へと手を差し出して、何事かと振り返ると、これまた美しい女神が一人、降りて来た。

…え?

迅も、固まって見ている。

旭は、またドヤ顔で言った。

「これは、愛羅の妹の麗羅。今、260なのだ。まあ、迅は160であるから無理であろうが、またどこに縁があるか分からぬし、この機会に連れて参ったのだ。」

ちなみに愛羅も美しい白い髪に澄んだ紫の瞳だったが、麗羅も白い髪に、桜色のような瞳だった。

こちらでは珍しい色の瞳だったが、よく見ると旭の目が桜色だったので、遺伝したのだろうと思われた。

「ならば、すぐに麗羅殿の部屋もご用意させましょうほどに。」と、臣下に頷き掛けた。そして、歩き出した。「こちらへ。まだ立ち上がったばかりの奥宮を、旭殿にも見て頂きたいのだ。まだ我も、本日から入るのでそちらで生活しておらぬのだが、なので主らが初めてという事になるのだが。」

旭は、麗羅の手を引いて歩き出しながら、微笑んだ。

「誠か。真っ新の宮など珍しいよの。楽しみであるわ。」

そうして、旭と陸は、二人を連れて歩き出した。

迅は、これは母を見ておかねばと、一人旧奥宮の方へと向かったのだった。


その頃、涼弥の宮では奥が大変な騒ぎになっていた。

夏奈が、何としても帰らないと寝台の柱に抱き付いて離れなくなっていたのだ。

困った顔を兄と見合わせた涼夏だったが、こうなって来ると哀れな気もした。

前世の記憶が戻ってから、どこか母というよりは一人の女神を遠くから眺める心地になっていたのだが、必死に戻らないと抵抗している様子に、そんなつもりはなかったのだと一目で分かる。

兄は、作業を中断している侍女達に、続けろと身振りで促して、父が母に向き合うのを見守った。

父は、言った。

「仕方のないことなのだ。主の父が迎えとると申して宮に来ておる。主は父に従って戻るが良い。元より我は、あのように上位の王に逆らえるわけがあるまいが。」

母は、ブンブンと首を振った。

「本心からではないのですわ!王がどうしてもとおっしゃってくだされば、父は我を置いて戻るはずです!どうか父に申してくださいませ!」

父は、ため息をついて首を振った。

「幾度そうすれば良いのよ。」母は、ピタリと止まった。父は続けた。「こう何度もとなればこちらも疲れた。そもそも、主は今この宮がどんな状況なのか知っておるのか。皆で総力を上げて宮を残そうと立ち向かっておるのだぞ。お陰で何とか見通しが立って参った。そんな中で、こうして煩わされておっては宮を失う。我は宮のためにも、こういうことは元から絶たねばならぬと思うたのだ。主は父王の言う通りあちらへ帰れ。我は、もう高峰殿と話すつもりはない。」

母は、それを聞いてハッとしたように言った。

「そうですわ、支援。宮がこのような時に父から見放されたら、その見通しもまた先が見えぬようになるのではありませぬか。我が帰れば困るはずです!」

父は、首を振った。

「涼夏が、嫁いでくれると言うておる。相手は上位の王ぞ。なので問題ない。なに、百年もせぬ間にこちらへ返してもらっても大丈夫になろうし。なので主は案じることはない。」

父は、わざとそう言っているのだ。

涼夏を嫁がせるつもりはないと、今の状態でそんな奇特な王はいないと言っていたのは父なのだ。

「そんな…!我は、用済みだとおっしゃるのですか。」

ハラハラと涙を流す母に、父は首を振った。

「そうではない。だからといって、主に帰れと我から言うたことがあったか。主の父が、我に主を返せと言うからよ。仕方のないことよ。我は上位の王には抗えぬ。」と、脇で悲しげに立つ、真木を見た。「主はよう励んでくれたの。礼を申すぞ、真木。」

真木は、思ってもいなかったらしく、驚いた顔をして頭を下げた。

「そのような…我などに礼など。」

父は、首を振った。

「我は全て知っておる。見ておったからの。主はようやってくれた。とりあえずは最低限の礼儀だけでも保てたのは、主の功績ぞ。もし残りたければ、主は残れるように頼んでも良い。どうする?残るか。」

真木は、迷うように涼夏を見てから、母に視線を落とした。

そして、じっと考えた後、首を振った。

「ありがたいお話なれど、我はこの生を夏奈様と共にと若い頃に決めたのです。ですから、共に戻ります。」と、母に優しく言った。「さあ、夏奈様、王がお待ちですわ。こちらではもう、王妃ではあられないのです。共に戻りましょう。涼弥様は、全てご存知であられたのです。それでも、これまで大切にしてくださった。父王がおっしゃることには逆らえませぬわ。参りましょう。」

それでも母は、涙を流して駄々をこねた。

「嫌です!我はそんなつもりでは…!ただ、王にこれまでのようにお側に居て欲しかっただけなのに!」

父は、背筋を伸ばした。

「王妃は宮の危機に我が儘など言わぬもの。主はそこを間違っておる。このままなら、嶺に引き出させることになるが、そんな無様な様を皆に晒して良いのか。これは決まっておることなのだ。」

軍神に引き出させる…。

涼夏は、自分が祖父の宮から出された時のことを思い出した。

あの時のような、扱いを母に受けて欲しくない。

「お母様。」涼夏は、進み出た。「どうぞご自分で歩いてお出ましになってください。我は…祖父の宮で、輪に気でがんじがらめにされて臣下達の中を見せしめのように引かれて輿に放り込まれましたの。同じ思いは、して欲しくありませぬ。」

夏奈は、想像も付かない事だったようで、顔色を青くした。

そして、父を見上げた。

「…どうしても、と。」

父は、頷いた。

「決まったことぞ。主の父からそう言われたのだ。里へ帰るがよい。」

そうして、父はそこを出た。

兄に促されて涼夏もそこを後にしたが、真木に慰められながら、母が泣き崩れていたのが見えた。

それが、母を見た最後だった。

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