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13.このままでは

救いを求めて祖父を見たのだが、祖父は何やら難しい顔で祖母の言葉に言い返さない。

これまで、何か小言を言われていても、祖父は自分を庇ってくれたものだった。

それが、今の言葉に、全く言い返す様子が無いのだ。

涼夏がまさか同じ意見なのではないでしょうね、と祖父の袖を掴んで呼び掛けた。

「お祖父様?」

祖父は、一瞬苦しそうに顔をしかめたが、すぐにスッとその手を袖を引いて離した。

「…咲奈の言う通りぞ。身に合わぬ身分は、涼夏のためにならぬな。ここで皇女として生きるのは、荷が重かろう。」

涼夏は、愕然とした。

無くなるかもしれない宮に、帰れと言うの。

「そんな…やれと言われたら、きちんと振る舞えるようになりましたわ!誰も見ておらぬ宮の中なら、それは気を抜いておる時がありますけど…。」

祖母は、首を振った。

「誰も見ておらぬ?何を言うておるのです。侍女や侍従があなたの行いを見ておらぬと思うのですか。我だって、部屋に居る時には羽を伸ばしておるものですが、あなたとは度合いが違います。袴も履かずに暑いからと窓から外に足を放り出して軍神達に見咎められてしもうたり、滝つぼに足をつけてわけの分からない歌を歌っておったり、そんな事はしませぬ!そんな皇女は、我は見た事もありませぬもの。」

涼夏は、確かにそうだが、暑いのに空気の調節ができる気の大きさがないんだから仕方がない。

侍女達の気配が、どんどん仕切り布の向こうに増えて来るのが感じられて、皆がこれを聞いているのが分かる。

高峰が、険しい顔をしていたが、困ったように表情を崩して、咲奈を見た。

「…だが、百年の間にあれが宮を立て直せねば、誠に宮は地に落ちるのだ。我も真実どうなるのか、当事者ではないゆえ分からぬのだが、次の会合ではしっかり聞いて参るつもりよ。いくら礼儀のなっていない皇女でも、さすがに放り出すのは哀れではないか。」

やっぱり、祖父が庇ってくれる。

涼夏がホッとすると、仕切り布の向こうから、声が割り込んだ。

「…なりませぬ。」驚いてそちらを見ると、筆頭重臣の辰也と、次の王となる第一皇子で涼夏の母の兄の、安峰が立っていた。「父上、辰也から会合の内容をざっと聞きました。今の状態で涼夏のような皇女をこちらの皇女として養女にするのは、自殺行為でありまする。分かっておられましょう。」

高峰は、それを聞いて視線を落とした。

咲奈が、戸惑ったように安峰を見た。

「…何のことです?我は、王から涼弥殿の宮が危ういとしか聞いておりませぬが。」

安峰は、辰也を見た。

辰也は、頷いて進み出た。

「王妃様、事は下位の宮だけのことではないのです。我は、会合について参っておりましたので、王から内容の事は全て聞いておりますが、最上位の王達は、宮の序列を、その品格から調べておったのだとか。ここに至るまでのひと月に、最上位の宮から下位の宮へと重臣と軍神が送られ、それらが宮の困りごとを聞くと申して、中へと参ってその様子をつぶさに調べて、王に報告をしたのです。その中には、一番問題となっている財政問題だけではなく、品位の問題もあったのだとか。陸様の宮は、あれだけの財力を誇りながら、ゆえに上から三番目に上がれぬのだと炎嘉様が直接に申し上げたらしいのです。今、下位の宮ではそのことで持ち切りで、宮を残したければ、まずは財政だが次は礼儀だと、休む暇もない様子に心が折れて参っておるようで。今は下位の宮を精査しておりますが、次は我らかと、他の三番目の序列の王達も戦々恐々としておったのだとか。宴の席で、確かに我も側で聞いておりましたので、知っておりまする。今、涼夏様のような品位のないかたをこの宮の皇女とお迎えすることは、我ら臣下一同、賛同することはできませぬ。」

涼夏は、たかが臣下に品位の無い皇女、と断じられて、悔しさに唇を噛んだ。

父の宮の臣下達は、絶対にそんな事は言わなかったのに。

だが、言えなかっただけかもしれなかった。

父を王と仕えているので、言いたくても言ってしまえば宮の結界を放り出されてしまうかもしれない。

なので、黙っていただけかもしれないのだ。

高峰は、じっと涼夏を見ていたが、ため息をついて、目を反らした。

「…分かった。そうであるな、宮を地に落とすわけには行かぬ。せっかくに咲奈を娶って宮の格が上がり、三番目の中の序列五位にまで上り詰めたのに、ここで品位がと言われて、同じ三番目の序列どころか、下位にまで落とされでもしたら亡き父に申し訳が立たぬ。ここは…どうなるか分からぬし、一旦涼夏は、あちらへ帰そう。」

涼夏は、まだ来てからひと月半しか経っていないのに、と目を丸くした。

確かに基本的なことは学んだが、それでもまだ細かい事を教わって日々精進していたのだ。

それを、普段がだらしないからと、見放されてここを追い出されてしまうというの。

涼夏が茫然としていると、安峰が冷たい視線で涼夏を見下ろした。

「…主、迅の袖も掴んだらしいの。そのような事、下位の皇女でもせぬのだぞ。いったい、どう育ったらそうなるのよ。夏奈に一言申しておく。とにかく、さっさと帰るが良い。荷物は後で送らせる。」と、傍に控えていた、輪に言った。「輪。これを輿に入れて宮へと送り返すのだ。涼弥殿には後から父が文を書く。我からは、夏奈に文を送るとな。」

輪は、膝をついて頭を下げた。

「は!」そうして、立ち上がると涼夏に言った。「さ、こちらへ。出発口までいらしてください。」

ここへ到着した時の、あの温かい声ではない。

輪は、あの時手を取って輿から下してくれたのに、今はその面影が全くなかった。

聡子の声が、頭の中を過ぎった。

…女神には身を守る武器はないが、しかしそれが必ず己の身を守る術になるだろうと…。

「さあ!」

安峰が、グイッと腕を掴んだ。

「イタ!」

思わず、涼夏は悲鳴を上げた。

だが、安峰はフッと鼻で息をつくと、輪に言った。

「少々手荒にしても問題ない。裸足で駆け回っていたほどぞ。気で掴んで輿に放り込め。」

そして、涼夏を床へと放り投げた。

これまで、そんな乱暴に扱われたことが、人の時でもなかった涼夏は、驚いて見動きが取れなかった。

ガクガク震えていると、輪は乱暴に気で涼夏を持ち上げると、言われた通り宙づりにしたまま回廊を歩いた。

臣下達が、何事かと回廊に出て来て、吊り下げられている涼夏を見上げている。

まるで、囚人が護送されて行くようだった。

「皇女様!」

世話をしてくれていた、帆波の声が聴こえた。

だが、その時にはもう出発口へと到着していて、置いてあった輿へと放り込まれると、そのまま出発の声も何もないままで、涼夏は空へと持ち上げられた。

…どうして、こんなことになったの。

みるみる祖父の宮は遠ざかる。

誰の見送りもなく、来た時の晴れがましい姿の面影もないままに、涼夏は惨めな様子で父の宮へと突き返されたのだった。


涼弥の宮では、涼弥を前に臣下達が議論を戦わせていた。

今回会合について行った涼と、筆頭重臣の朱理は、そんな様を険しい顔で涼弥と共に黙って聞いている。

臣下の一人、重臣二位の那良(なら)が言った。

「職人を育てる間、どれほどに宮の運営に困ることか。今でもギリギリでありますのに、百年も無理でありまする!臣下に政務をする紙さえ始末しろとおっしゃるのですか。それで職人が育たぬ時は、どうなさるおつもりなのです。」

朱理が、言った。

「だからこのままでは宮自体が力を失くすのだぞ!主にはその意味が分かっておらぬ、王が、今は下位の第二位であられるのに一気に別の宮の臣下のように扱われ、王とは名ばかりになられることになるのだ!誰の傘下になるのかは分からぬが、共に幼い頃から励んでいらした陸様か、吉賀様の下に下られることになるのだ!主らも、もうあの宮の臣下達に気軽に話すことも叶わぬようになるのだぞ。あれらの臣下のように扱われて、それで良いのか。」

言われて、皆ぐ、と黙った。

これまで同じ立場と話していたあちらの宮の臣下が、全て自分達より上の立場になって、水汲みの臣下にすら頭を下げねばならなくなる。

それが、やっと分かったようだった。

涼弥は、言った。

「主らも着物にも困る暮らしになるとしばらく苦しいだろうが、それは我ら王族もぞ。吉賀は、現にそうやって宮を挙げて励み、五十年で自立を成し遂げた。我らには百年あるが、皆で励めばもっと早く楽になるやもしれぬ。ここで、皆で踏ん張らねば朱理が言うた通り、我らは神での立場を失うのだ。」

他の臣下が、言った。

「それにしても…炎嘉様にもなんと情のないことを…これまで、王族の婚姻で支援されて、問題なく回っておりましたのに。」

涼弥が、言った。

「炎嘉様のせいではない。我らが甘えておった。先の戦でも、我らに何かできたか。ただ己の結界内に籠って、最上位の王達がなんとかしてくれるのを待つのみだった。宮の歴史で知っておるが、昔は軍神は何かあれば己に縁の王の所に参上し、その命を受けて戦ったもの。今それができる軍神がこの宮に居るか。高峰殿に求められて、戦に出る事ができるのか。我と涼しか、できる者が居ない。我らは、太平の世に甘えておったのだ。」

そう、昔は軍神も強かった。

気は大きくないものの、それを感じさせない技術があった。

それが、今はここまでになってしまった。

そんな、役に立たない宮を、なぜに養わねばならぬのだと炎嘉は言っていたのだ。

ここで、しっかりと意識を変えてしまおうというのだ。

涼が、言った。

「…主らも、もし共にできぬと申すなら、宮を出るが良い。」皆が、凍り付いた。涼は続けた。「それだけ我らも養う者が減るゆえ負担が軽うなる。役に立つ者だけ宮に召して、皆で励もうぞ。父上、臣下の精査をご進言致します。これより、一人一人話を聞いて参りましょう。」

臣下達は、身を震わせて涼弥を見た。

涼弥は、それを見て大きく一つ、頷いた。

「…では、これより精査を始める。全員を謁見の間に集めよ。そこで、一人ずつ精査し、宮に残すものと解任するものを決める。」

臣下全員が慄いて顔色を無くしていた。

騒然となったその時、筆頭軍神の嶺がそこへ駆け込んで来た。

「王!只今涼夏様が、高峰様の筆頭軍神に送られて到着口に!」

涼弥は、顔色を変えた。

「なに?」

涼弥が何が起こっているのだと戸惑っていると、涼が険しい顔で言った。

「父上は謁見の間へ。我が対応致しまする。」

涼弥は頷き、涼は嶺と共に、到着口へと走って行ったのだった。

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