青の攻略対象
教会トップの枢機卿であるローガンはランカスター王家を毛嫌いしていた。
憎んでいたと言っても過言ではない。
その原因は彼女の生い立ちにある。
***
ローガンの母親は先王の第一王女キャロラインであった。
キャロラインは、アランの父親である現国王の姉に当たる。
キャロラインは専属護衛騎士だったリックと恋に落ち妊娠してしまった。
当時キャロラインは十四歳、リックが十八歳である。
父親の先王は激怒した。
すぐにリックを処刑するというのを周囲が必死に止めた。
キャロラインも自分はリックを愛していると必死に父親に訴えた。リックも土下座をして謝罪し、真剣にキャロラインと付き合っている、心から彼女を愛している、どうか結婚を認めて欲しいと懇願した。
確かに年が若いだけで、あと数年も経てばお似合いのカップルになるだろう。
リックは青い髪の伯爵令息であり、騎士としても優秀で将来有望な青年だった。
キャロラインの父親である先王は
「生まれてくる赤ん坊が白い髪だったら二人の結婚を認めて王族として遇しよう。しかし、白い髪でなかったらその男を即座に処刑する」
と宣言した。
そして、生まれてきたローガンは青い髪色をしていた。
無慈悲な先王は容赦なくリックを処刑してしまった。
その後、キャロラインは食事が喉を通らなくなり痩せ細って死んだ。
独り残されたローガンは教会に引き取られ、そこで養育されることとなる。
教会で成長し、どのように両親が亡くなったのかを知ったローガンは髪色差別と王家に対して深い憤りを感じるようになった。
先王が亡くなり、ローガンにとっては叔父にあたる現国王が即位してからは多少ましにはなったが、貴族階級の間で髪色差別が無くなることはない。
学生時代にフレヤと親しくなったのも、黒髪差別に対する反発が根っこにある。
せめて教会では髪色に対する差別を少しでも減らすようにローガンは努力をした。
そんな時、銀髪の乙女が敬虔で信仰心に溢れているという評判を聞いた。
ローガンは教会に通いたいというアリソンの願いを叶えた。熱心に奉仕活動に従事するアリソンはとにかく可愛いかった。
いつも一生懸命に働き、勉強し、周囲の人たちへの思い遣りも忘れない銀髪の乙女はまさに聖女のようだとローガンは思い、彼女の願いは何でも叶えてやりたいと愛おしんだ。
そして、瀕死のニックを救ったアリソンは髪色差別に対して強く反発した。髪色差別に憤るアリソンを見て、ローガンは鏡で自分自身を見ているような気持ちになった。
これは運命だ!
とローガンは感じた。
愛らしいアリソンはローガンと同じ信条を持ち、そして生涯結婚したくない、信仰に生涯を捧げたいと言っている。
自分と同じ価値観を持つアリソンにローガンは惹かれた。
実は教会でローガンに恋する聖職者や女性信者は多い。
告白されたことは何度もあるし、強引に迫られたこともある。
しかし、アリソンに出会ってからローガンの気持ちはずっと彼女に向いていた。
一生結婚しないと主張しているアリソンが大人になった時に、片腕として自分の隣に居て欲しい。ローガンの願いはそれだけだった。
「・・・これも失恋というのかな?」
アリソンが照れくさそうにニックと一緒に婚約の挨拶に来た後、ローガンは独り言ちた。
「アリソン様もニコラス殿下も幸せそうで、本当に良かったですなぁ!」
と感激の涙を流しているイケジイに
「そうだな。一緒に乾杯してくれるか?」
とローガンはグラスを差し出す。
アリソンの幸せそうな笑顔を思い返し、
(これで良かったんだ)
と琥珀色の液体を眺めながら、ローガンは口の中の苦さを飲み込んだ。