悪魔とジャンガウル
*本日二度目の投稿です!あともう数話で完結。ラストスパートかけます。読んで下さっている皆様、ありがとうございます。評価、ブクマ、いいね、感想、誤字脱字チェックもありがとうございます<m(__)m>。作者のモチベーションが上がります(*^-^*)!
気がつくとアリソンは小高い丘の上に転移していた。
神への捧げ物や生け贄がなされるような大きな祭壇があり、ジャンガウルが魔法で祭壇に火を灯した。
灯りのおかげで周囲の様子が分かるようになり、祭壇の上にぐったりと横たわる人物を見てアリソンは目を瞠った。
(ノア様・・・・・!)
ノアもアリソンに気がついた。
「アリソン!?どうしてこんなところへ!?一人で来たのか!?・・・なんて無茶な真似を」
魔法で呪縛されて身動きが取れないらしい。身を捩りながらノアが必死に叫ぶ。
「ご、ごめんなさい・・・でも、他の人を傷つけるのが怖くて。ノア様だって一人で来られたじゃないですか!」
アリソンの台詞にノアは微かに苦笑した。
「確かに・・・しかし、俺は危険があることを知らなかったんだ。この世界は悪魔に操られたジャンガウルに支配されている」
ジャンガウルは
「こロせばイイのに・・・こンナからダに・・・やクニたたなイ」
などとブツブツと独り言を呟いている。
「アリソン、君は逃げろ。悪魔はジャンガウルの体を捨てて俺の体を乗っ取るつもりだ!」
《ほぉ、まだそんなに元気があるとは驚きだ。もっと痛い目に遭わせないといけないかな》
はっとジャンガウルを振り返ると、爛々と目を光らせるジャンガウルの背後に再び黒い煙が立ち上っている。
「悪魔め!!!お前の思い通りにはさせない!!!お前に体を渡すくらいなら自ら命を断った方がましだ!!!」
とノアが叫んだ。
《ああ、そうだ。ジャンガウルの肉体はもう限界だ。長い長い年月・・・よくもった方だろう。だから、お前に懇願しているんじゃないか。お前の肉体を寄こせば望みを何でも叶えよう、と。もう痛い思いをするのは嫌だろう?》
禍々しくも絹のように滑らかな声が響く。
《ジャンガウルの肉体が朽ち果てたら我はこの世界に影響を及ぼせなくなってしまう。どうやって新しい肉体を手に入れるか悩んでいた時にもってこいの人間がやって来た。我はツイている》
悪魔が嗤った。
《しかし、頑固者でな。どんな願いも思いのままだと誘惑しても、どれだけ拷問しても決して悪魔と契約しようとはしない。しかし、うまいこと女が現れた》
アリソンは嫌な予感が止まらない。
《お前が我と契約しないと女を殺すと言ったら・・・お前はどうする?》
顔は見えないが悪魔がニンマリとほくそ笑んだような気がした。
「止めろっ!アリソンは関係ないだろう!アリソン、早く元の世界へ逃げろ!そして扉を閉じるんだ。この世界にもう人間はいない!」
《ジャンガウル以外はな・・・そして、これからはお前がこの世界の唯一の人類となる。かつてジュルングルが逃げ込んだ世界とやらも破壊しつくしてやろうか。ハハハ》
悪魔の言葉にノアとアリソンは青褪めた。
「アリソン、大丈夫だ。俺は絶対に悪魔に屈したりしない」
《ほぉ、随分な自信だな。この女がどんな目に遭っても同じ台詞を言えるかな?》
「私は銀髪の乙女です。あなたが思うほど弱くはない。それに援軍だって来る。あなたはもうここまでよ。諦めなさい!」
アリーはハッタリをかました。
しかし、それを悪魔は鼻で嗤う。
《はっ!ジャンガウルはこの世界の魔力を全て感知することが出来る。誰かが侵入してきたらすぐに分かるんだ。だから、隠れている住人も全て魔力で感知して葬り去った。援軍なんて来ないのは分かっているよ。お嬢さん》
邪悪な悪魔はアリソンを嘲笑った。
《怖いだろう?殺されたくなければ逃げたらいい。歴史は繰り返す。ジャンガウルを見捨てて異世界へ逃れたジュルングルのようにお前も逃げるんだろう?このノアという男もいつかは堕ちる。コレは私の所有物だ!ハハハハハ》
「嫌です。絶対に逃げません。ノア様を絶対に絶対に連れて帰ります!何があっても見捨てることはしません!」
「愚か者がっ!」
既に自分を見失い、皮膚がボロボロと崩れ落ちて骸骨のようになったジャンガウルが咆哮した。
地面から黒く禍々しい蔓のような触手がアリソンに絡みつき締めつけた。
首に巻きついた蔓のせいで気道が塞がれる。呼吸もままならなくなったアリソンの手足に絡まり全身の自由を奪う。
《ハハッ、いいざまだ。ノア!見ろ!しょせん銀髪の乙女の力なんてこんなものだ!我の力を授かったジャンガウルの強さを見ろ!お前もこの力が欲しくはないか?》
「アリソンッ!!!止めてくれ!彼女、彼女だけはっ助けてくれっ!俺の体を・・・」
「ダ、ダメッ!それは言っちゃダメッ!!!」
そこに猛スピードで飛びこんできたマグがジャンガウルの目を突きだした。
首の締めつけが僅かに弱まる。アリソンは渾身の力を振り絞った。
アリソンの全身が銀色の輝きに発光する。同時に黒い蔓が粉々になって砕け散った。
ジャンガウルが獰猛な雄叫びをあげる。
悪魔は媒介としてこの世界の肉体を持たないとその力を及ぼすことが出来ない。
ノアの体を奪われる前にジャンガウルの体を滅ぼせば、悪魔は消えるしかない。
アリソンは全身の力を込めてジャンガウルに攻撃魔法を繰り出した。
が、ジャンガウルは軽々と彼女の攻撃をはねのける。
(くっ、私はどちらかというと防御魔法や治癒魔法の方が得意だから・・・攻撃の決定打に欠ける。でも、続けるしかない!)
自慢の体力にものを言わせてひたすら愚直に攻撃を続けるアリソン。
(こいつだっていつか疲れが来るはず!・・・負けないわ!)
しかし、ジャンガウルが幾多の攻撃をかわして
「ハハハハハハハ!俺は悪魔の力を借りているんだ!お前なんかに負けるはず・・・」
とアリソンを嘲笑った瞬間、ジャンガウルの動きが不自然に止まった。
よく見るとジャンガウルの背中から胸にかけて大きな剣が突き刺さっている。
(一体なにが・・・・)
アリソンが目を凝らすとジャンガウルの背後に誰かが立っていた。
まさか!?
ニック!?
なんでこんなところに!?
ニックがゼイゼイと息を切らしながらジャンガウルの背中に剣を突き立てているのだ。
ジャンガウルの胸から突き出た刃の切っ先がキラッと光る。
「なにをやっているアリーっ!!!いまだっ!やれっ!」
アリソンはすかさず渾身の力を込めた攻撃魔法をジャンガウルの心臓目がけて放った。
ジャンガウルの体が木っ端微塵になり、それぞれの部位が真っ赤な炎に包まれた。
その勢いでニックも後ろに吹き飛ばされる。
《まさか・・・・ジャンガウルが?!・・・・・我が・・・敗れるなど・・・・》
という悪魔の声が聞こえた気がしたが、アリソンはそれどころではない。
慌てて地面に横たわっているニックの元へと駆け寄った。
「ニック!ニック!お願い!しっかりして!」
見るとニックの全身は傷だらけで瀕死の状態だった。
今の爆発のせいじゃない。
魔物の噛み傷のような怪我が至るところにあり血にまみれている
「ニック!こんな危険なところに一人でっ!?どうして・・・?」
泣きじゃくるアリソンは急いで治癒魔法をニックにかけはじめた。
「アリー。アリーを一人で行かせるわけないだろ?すぐにアリーの後を追ったんだが、見失ってしまって・・。微かに光が見えたから、それに向かってずっと走ってきた。でも、やっぱり魔力がないと魔物と戦うのはキツイな。ここに来るまでに結構襲われてさ。情けねー」
ボヤくニックの胸にアリソンは顔を埋めた。そんなアリソンの肩にマグが戻って来る。
「バカっ!なんで私が一人で来たと思ってんの。ニックが大事だからに決まってんじゃない!こんな怪我させたくなかったのに・・・」
「俺にとっては自分よりお前の方が大事なんだ。アリー、これからは俺を置いていこうなんて考えは改めるんだな」
二人の背後でぶふっという笑い声が聞こえた。
すっかり呪縛の解けたらしいノアが嬉しそうに立っている。
「でも、ニックが来てくれたおかげで俺たちは助かった。魔力がないから侵入してきても、悪魔もジャンガウルも感知できなかった。それにジャンガウルへの一撃は見事だったよ。急所を確実に捉えていた。さすが俺の弟子だ!」
ノアに手放しで褒められて、ニックは嬉しそうに頬を染めた。
「それにアリソンも素晴らしかったよ。ジャンガウルが悪魔の力で持ちこたえようとしたところにアリソンがとどめを刺した。二人で力を合わせての勝利だ。よくやった。助かったよ。ありがとう」
治癒魔法のおかげで体を動かせるようになったニックが身を起こすと、ノアが彼を支えるように手を伸ばした。
三人で周囲を見渡すと黒い雲が姿を消し、雲の合間から光が差した。
しかし、むき出しの地面はそのままで荒れた土地に生命が芽生えるのは長い時間がかかるだろう。
「俺は数か月ここで過ごして、魔物以外の生物には一度も遭遇しなかった。ジャンガウルと悪魔が消えたから、もう魔物も出ないだろうが・・・」
「きっとここから新しい生命が生まれてくるわ。一つの文明が終わり、次の文明が栄えるまで時間はかかるでしょうが」
ノアはアリソンに笑いかけると
「そうだな。それはこの世界でのことだ。俺たちは扉を閉じて、二度とこの世界に干渉すべきではない。兄上にもそう伝えるよ。アリソン。ありがとう。君が絶対に俺を連れて帰ると言ってくれた時、とても嬉しかった」
と告げた。
ニックはアリソンを背後から抱き寄せると
「叔父上。いくら叔父上でもアリーは渡しませんからねっ!」
と牽制する。
「それは残念だな。生まれて初めて自分のものにしたいと思う女性に出会ったんだが」
「っ・・・・・・ダメです!」
アリソンを強く抱きしめるニックに
「ニック・・・ノア様は揶揄っているだけよ。心配しないで」
と宥めるが彼は頑なに首を振ってアリソンを離そうとしない。
ノアが楽しそうに破顔した。
「ニック。冗談だよ・・・多分ね。さぁ、みんな心配しているに違いない。俺たちの祖国に帰ろう」
ノアが明るい声で宣言した。