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異世界


翌日、ニックはアーロンたちと魔物と戦う装備などの準備で忙しそうにしていた。


アリソンや周囲が必死で止めたがアランとリズも付いてくると言って聞かず、現在アランは自分が留守にする間の仕事の割り振りを宰相と話し合っているし、リズも調整役として忙しく立ち働いている。




彼らの多忙をいいことに、アリソンはコッソリと国王に謁見していた。


「アリソン。他の者に知られないように儂に話があるとは?何があった?」


アリソンは前夜からずっと考えていたことを国王に伝える。


「陛下。どうか異世界には私一人で行かせて下さい!お願いします!」


それを聞いた国王は呆気に取られた。


「アリソン・・・お前はノアと同じことを言う。無茶だ。銀髪で最強の騎士であるノアでさえ戻って来られなかったんだぞ」


「でも、私は大切な人たちに傷ついて欲しくありません。魔物は私を襲わないことが分かっています。すぐに戻って来るので私一人で行かせて下さい。他の人が傷つくのを見たくありません!」


「特にニックが心配か?」


意味ありげな国王の視線にアリソンは顔を赤らめた。


「ニックは強いです。剣技も体術も国内でもトップレベルです。でも・・・」


「魔力はない」


「・・・・はい。魔物相手だと圧倒的に不利になります。でも、ニックに来ないで欲しいとは言えません。私は人が傷つくのが嫌なんです。自分一人が無傷で他の人が傷つくのを見ているだけなんて・・・耐えられません!」


「だったら、最初から一人で行きたいと」


「ノア様が最初に部隊を引き連れて行った時もノア様以外は重傷を負ったんですよね?だから、ノア様が一人で行ったんですよね?だから私も・・・」


アリソンの必死の懇願に国王は深い溜息をついた。


「どうか!どうかお願いします!危険を感じたら、すぐに戻ってきますから・・・どうか・・・お願いします」


土下座せんばかりの勢いで懇願されて国王は考え込んだ。眉間に深い皺が出来る。


「アランたちは一週間後に出発するために準備を進めているが・・・」


「明朝出発させて下さい。自分なりに準備して行きます。大丈夫です。死ぬつもりはありませんから」


「・・・そうか。アリソン、君のその自己犠牲の精神は賞賛すべきものだ。だが、同時に君を愛する人間を裏切る行為だと分かっているかい?」


「わかって・・・います。でも、自分だけ無事で他の人が傷ついているのを見るのは・・・私には無理です。お願いします!」


ニック、アラン、リズは激怒するだろう。


自己犠牲という認識は正直なかった。魔物は自分の言うことを聞くという自信があるからかもしれない。



帝国でジェイデンがランカスター王国の起源を語ったとき


「分かった。銀髪の人間だけは害が及ばないように約束しよう。魔物たちは銀髪のしもべとなろう!」


と悪魔はジャンガウルと約束したと言っていた。



魔物たちは恐らく銀髪のアリソンの言うことを聞くだろう。


異世界でノアを探し、見つからなかったとしても何か手がかりを得られるかもしれない。


しかし、安全なのはアリソンだけだ。自分だけが安全で大切な人たちが危険に晒されるのは耐えられない。


我儘で独りよがりかもしれないが、どうしてもアリソンには譲れなかった。




渋る国王を無理矢理説得したアリソンは、翌朝まだ夜が明けきらないうちにジンルにある扉の前に立っていた。


「君にもしものことがあったら儂は息子らに殺されるだろう。この国の国王を失いたくなかったら、必ず無事に戻って来て欲しい。少しでも危険だと思ったらすぐに戻るんだ。いいかい?」


ただ一人見送りに来てくれた国王は悲しそうな顔をしていた。国王の護衛騎士も泣きそうな顔をしている。


護衛には絶対に内密だと事情を打ち明けている。


罪悪感がチクチクするが、アリソンはしっかりと顔を上げて


「大丈夫です。必ず無事に帰ってきます!それに長居するつもりはありません。アランたちに気づかれないうちに・・・夜になる前には戻りますから」


と言い切った。


国王はコクリと頷いた。アリソンは真っ直ぐ前を見ながら扉を抜ける。


その時にひゅっと言う羽音と共にマグがアリソンの肩に止まった。


「マグ!?どうしたの?王宮を抜けてきたの?」


マグはずっとアリソンと一緒に王宮で世話をされている。


賢い子だから何かを感じ取ってアリソンに付いてきたのかもしれない。


扉の向こうに帰してもきっとまた戻って来てしまうだろう。


「マグ、ちゃんと私の髪の下に隠れていてね。危ないことがあったらすぐに飛んで逃げるのよ」


優しくアリソンが声を掛けると、マグは小さくぴぃと鳴いた。




扉の向こうの異世界は前世とも今世で生まれ育った世界とも全く違っていた。


どす黒い雲に覆われた薄暗い世界。太陽はまるで見えないから、本当に朝なのか疑いたくなる。


荒野と言っていいだろう。目を凝らしても木や草のような存在は感じられない。


時折魔物らしきものが蠢くのが見えるがアリソンに向かって手出しはしない。



(やっぱり銀髪は安全なんだわ)



正直怖い気持ちはあったので、少しホッとした。


何か当てがある訳ではない。周囲を見回して自分の位置を確認しようとするが薄暗くてほとんど何も見えない。


足元がジャリッと音を立てる。


荒い土の上を慎重に歩くと、何か黒い影がヒューッと音を立てて通り過ぎた。



(魔物かな・・・怖い。こんな世界だったなんて。ここに人間が住む文明があったなんて信じられないわ)



その時、空の一点が光った。星かと思ったが、こんなに厚い雲があるのに星が見える訳ないと考えた瞬間、物凄い衝撃を感じてアリソンはとっさに身を伏せた。




強い風が巻き起こり、周囲の土を噴き上げる。


身を伏せたままじっとしていると、恐ろしいほどの静寂が訪れた。


アリソンが顔を上げると、そこには男が一人立っていた。


銀色の髪をした美丈夫だが、顔や全身の皮膚がところどころひび割れて、そこから空気が漏れるようなプスーッ、プスーッ、という変な音がする。


「おマえはァ?ジュルングルかァい?」


泥酔しているような呂律の回らない口調に加えて、両目の焦点が全く合っていない。


うわごとのように


「・・ジュルングル・・じゅルんぐル・・じゅる・・・ハッハぁ・・」


と繰り返す様子はとても正気の人間とは思えず、アリソンは背筋がゾッとした。緊張のせいで冷たい嫌な汗が背中をつたう。


「私はジュルングルではありません。あなたは誰ですか?」


できるだけ友好的な言い方で笑顔を心がけたが成功しているとは思えなかった。


「・・・おれェ?おレはァ、ジャンガうルだァよっ」


謳うように告げるジャンガウル。


そんな予感はしていたとアリソンは思った。



(でも、ジャンガウルとジュルングルが生きていたのは遥か大昔のことだ。悪魔の力で寿命を延ばすことが出来るんだろうか・・・?)



「あぁア、もうこの体はダめだなァ。うまクうごかナイ・・・」


ジャンガウルが左腕を上げようとしたら、あり得ない方向に肘が曲がった。


アリソンは『ひぃぃっ』と内心悲鳴を上げたが、ジャンガウルを変に刺激したくない。



その時、陽炎のように黒いオーラがジャンガウルの背後に立ち昇った。


《ジャンガウル。何をしている?早く捕まえろ!》


頭の中に突然声が響く。


禍々しく邪悪な声にアリソンの全身に鳥肌が立った。


ジャンガウルは「ああ、忘れていた」と呟きながらアリソンを抱えあげると転移魔法を唱えてその場から消えた。

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[一言] アリソン頑張って!
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