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独白 ~ フレヤ・フィッツモーリス

*フレヤ視点です。


「お母さま!またご本を読んで!」


幼いフレヤは銀色の髪の美しい男女が描かれた表紙の絵本を母親に差し出した。



フレヤはフィッツモーリス帝国の皇帝の娘である。


母は皇帝の正妃であり、同じ母から生まれた兄のジェイデンは皇嗣として遇されている。


両親とも彼女に甘い。


望んで叶わないことは何もなく、我儘で独善的な側面が生じてしまったのは不可避だったのかもしれない。


フレヤは幼い頃から何の憂いもない晴れやかな生活を送り、生涯それが変わることなんてあり得ないと思っていた。


彼女のお気に入りの本は『ジャンガウルとジュルングル』という銀髪の双子の物語だ。


魔法が使える美しい男女の双子は二人で助け合い多くの苦難を乗り越えるが、最後に兄ジャンガウルが悪魔に乗っ取られてしまう。


ジュルングルは泣きながら愛しい兄を倒すという美しくも悲しい物語に、フレヤは魅せられた。大好きなその本を何度も何度も読み返した。



成長するにつれて、フレヤはその物語が隣国のランカスター王国の伝承であることを知り、の国に興味を覚えた。


しかし、父親も兄もフレヤがランカスター王国に関心を持つことに良い顔をしない。


「あの国は鎖国していて交流は全くない。興味を持っても無駄だ」


と兄からキツイ言い方をされたこともある。


しかし、フレヤは諦めなかった。


帝国で一番古い書庫で様々な文献を調べ学者たちに会いに行き、ランカスター王国の伝承や文化を真剣に勉強した。


さらにそこに行ってみたいと駄々をこねるフレヤに父親の皇帝も手を焼いていた。


ランカスター王国には魔物が出る。


危険だからの国も鎖国政策を貫き外国人を受け入れないのだと説明しても、フレヤは納得しなかった。


そんなフレヤが十歳くらいの時に、ランカスター王国に渡航したという商人の記録を偶然目にしてしまった。


商人がランカスター王国に行って戻って来られたのなら、そこまで危険な場所ではないのでしょう?とフレヤは父親に詰め寄った。


それでも渋い顔をする父親を説得するのは諦め、フレヤはランカスター王国に渡航した商人に直接接触を図った。


ジョナサン・コナーという名の商人は驚くほどの美形で、皇女だと知ると慇懃に彼女を迎え入れた。


ジョナサンは喜んで彼女にランカスター王国での経験を話してくれた。


フレヤは感動した。こんなに鮮明に憧れの国について話してくれる人はこれまでいなかったからだ。


様々な色の髪を持ち、魔力を自在に操る王国。


なんて素敵なんだろう!


彼の話を聞いて、フレヤはますます隣国への憧れを募らせることになる。


そして、密かにフレヤはジョナサン・コナーと連絡を取り続けた。




ランカスター王国には魔法学院という学校があり、魔法が使えない黒髪でも特例として受け入れる場合があるとジョナサンから聞かされて、フレヤは我慢できなくなった。


父親と兄に直談判し、十五歳のフレヤは留学生としてランカスター王国の魔法学院に通うことになる。


但し、フィッツモーリスという名は隠して欲しいと要請され、母親の旧姓であるシャープを名乗り入学することになった。


同級生の中にローガンという不思議な魅力を持った青い髪の女生徒がいた。先帝の落胤だという噂があったが、実際は現国王の姪に当たる。


ランカスターという苗字を嫌い、ただローガンとしか名乗らない風変りな生徒だったが、高貴な血筋であることは確かで、他の生徒たちから一目置かれていた。


魔法が使えない黒髪をバカにする生徒は多かったが、ローガンは常に庇ってくれた。ローガンが後ろ盾になってくれたおかげでフレヤは守られていたと言ってもいい。


また、エイドリアンという名の赤毛のクラスメートもフレヤに優しく接してくれた。


卒業後、ローガンは教会で司祭になり、エイドリアンは魔術師になった。


フレヤは帝国に戻って来るように命じられたが、どうしてもランカスター王国に残りたいと父親と兄を説得した。


フレヤはどうしてもローガンと離れたくなかった。


それにランカスター王国の鎖国を解き、国と国との交流を促進したいという夢を忘れずに持ち続けていたのだ。


その後、彼女はローガンと共に教会での活動に邁進し、ローガンが枢機卿に、フレヤが大司教になったのはご存知の通りである。



ローガンが枢機卿になった頃、幼い銀髪の乙女が教会に出入りするようになった。


銀髪の乙女であるアリソンは幼いのに信心深く修道院に入って生涯を終えたいとローガンに訴えた。


ローガンもフレヤも彼女の敬虔さに感動した。


彼女の願いを叶えるべくローガンは国王を説得した。


「アリソンは結婚する必要などない。生涯私の傍にいればいい」


そう妖しく笑うローガンがアリソンのことを特別に寵愛していることは明らかで、フレヤが嫉妬を感じることもあった。


教会の聖職者は結婚を許されていない。しかし、代わりに同性同士の恋愛については寛容な風潮が存在した。


ローガンはアリソンが大人になるのを待っているではないか?とフレヤは疑っていた。




そんな中、突然国王がアリソンの還俗という勅命を出した。


国王の意図は掴めなかったものの、いつになく強硬な姿勢で教会として否と言うことは出来なかった。


アリソンが還俗し魔法学院に通い始めると、様々な思惑を持つ人間たちが動き始めた。


その内の一人が帝国の商人であるジョナサン・コナーだ。


ジョナサンの営む事業は帝国で最大規模の商会に成長していた。


フレヤはジョナサンとの手紙のやり取りを続けていたが、銀髪の乙女に関する国家機密は口封じの魔法を掛けられていることもあり、当然ながら伝えたことはない。


しかし、何故かジョナサンはアリソン・ロバーツという茶色い髪の転入生が銀髪の乙女であることを知っていた。


実はジョナサンはエイドリアン・ジョンソンと共にランカスターの国王から直々に銀髪の乙女に関する密命を受けていると説明された。


ジョナサンと元クラスメートのエイドリアンが知己である事実にも驚いたが、その二人がアリソンの正体を知っていることでランカスター国王の密命という話が現実味を帯びる。


鎖国しているランカスター王国において貿易高はごく僅かだが、ジョンソン伯爵は対外的な貿易に関係する役職に就いている。その息子と帝国の商人であるジョナサンが知り合いであっても何も不思議なことはない。


しかし、フレヤはそこに運命的な偶然を感じてしまった。


更に国王の密命の内容を知らされてフレヤは衝撃を受ける。


アリソンを架け橋にして、フィッツモーリス帝国とランカスター王国の国交を開き、互いの国を自由に行き来できるような交流を始めたいと言われて、フレヤは有頂天になった。


これまで自分がずっと望んでいたことが実現するかもしれない!


そう信じたフレヤはジョナサンに何でも協力することを約束した。


一年間という約束で修道院から還俗したことや、アラン、ニック、リズを護衛であること、変装して学院に通っていることなど、フレヤが知り得る情報はすべてジョナサンに伝えた。


また、帝国の商人が魔物や国民を攫い売買を行っているというような謂れのない疑いに対して断固として否定を続けてきた。そんな悪い商人が帝国に存在するはずがない。


そして、史上初めてランカスター王国からフィッツモーリス帝国への代表派遣団が編成されると聞き、フレヤは長年の夢がついに叶うと喜びに震えたのだ。


しかし、現実は思い通りにはいかなかった。


実の兄であるジェイデンは彼女の楽観的な考え方に冷や水を浴びせるように


「この代表団の目的はあくまで魔物退治であり、今後国同士の交流が開かれる予定はない」


と言い切った。


帝国に滞在中、何度も言い争いになったが、皇帝ジェイデンは聞く耳を持たない。


「ランカスター王国には国を開く用意がある!」


と説得しようとしても「お前は騙されている」としか言わない兄に苛立ちが募った。


確かにアランや宰相などからランカスター王国が鎖国政策を転換する予定はないと言われていたが、国王には国を開きたいという秘密の願望があるとフレヤは思い込んでいたのだ。


フィッツモーリス帝国滞在の最終日、フレヤはジェイデンと大きな口論をした。


「・・・帝国の方針は賛成できませんわ!!!絶対にお兄さまの言いなりにはなりませんっ!!!」


と叫び、部屋を飛び出すと目の前にアランたちが目を丸くして自分を見つめている。


決まりが悪くなり、そのまま自室へ向かって走り去った。


そこで何者かに口を塞がれそのまま拉致された。急に意識が遠のいたのは口を塞ぐ布に何か薬品が沁み込ませてあったのだろう。



***



フレヤが目を覚ました時、目の前にはジョナサンとエイドリアンの他に会ったことがない紫の髪の男が立っていた。


その後のことは考えたくもない。


脅され、拘束され、アリソンと引き換えるための人質にされることを聞かされた。


兄は正しかった、自分は騙されていたと気づいた時にはもう遅い。


自分の馬鹿さ加減に慚愧の念に堪えない。


情けない。


悔しい。


涙が止まらない。


しかし、人質交換の手続きは進み、アリソンと自分が交換される魔法陣に歩を進める。


(・・・アリソン・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい。私のせいで・・・)


魔法陣が光を帯び、足元が温かく痺れたようになった瞬間に意識が飛んだ。

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