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魔物退治


ジェイデンが去った後もアリソンたちは内輪だけで話し合いを続けていた。


「・・・・ジョンソン伯爵はランカスター王国で拘束されている。が、息子のエイドリアンとチャーリーの不始末については関与していないと主張しているんだ。二人を逮捕できたらいいんだが」


アランの言葉にニックが敏感に反応した。


「おい!アリーを囮に使おうなんて考えていたら怒るぞ!」


「勿論、そんなことを考えてはいない・・・が、考えていなくても向こうから勝手に来る場合もあるだろう?」


「おい・・・アリーの安全確保に彼女だけランカスター王国に戻して・・・」


「ニック。ダメよ。まず魔物退治をさせて欲しい。それが私たちの目的でしょ?途中で誰かに狙われたとしてもニックや他のみんなが守ってくれる。ジェイデンも最大限の警護をつけると約束してくれたわ。だから、大丈夫よ!」


「そりゃそうだが・・・」


アリソンに関して極度の心配性のニックはそれでも不安そうだ。


ニックが自分を心配してくれるのは純粋に嬉しいとアリソンは思った。でも、守られているだけでなく役に立ちたいというのが今の強い気持ちである。


もし、囮として役に立つのならたとえ危険があったとしても試してみたいと思うが、そのせいでニックを心配させるのは申し訳ない。


アランはきっとその辺りも配慮しつつ自分の気持ちを汲んでくれるだろうと、アリソンはアランの目を真っ直ぐに見つめた。


アランはちょっと眩しそうに目を瞬かせたが、大丈夫だとでも言いたげにニッとアリソンに笑いかける。


「魔物退治にはジェイデンも出来る限り同行してくれるそうだ。皇帝が一緒にいれば最高レベルの警備になるだろう。わざわざそこでアリーを誘拐するような馬鹿な真似はしないんじゃないか」


というアランの言葉の後に翌日の確認をして散会となったが、最後まで姿を現さなかったフレヤはどうしたのだろうとアリソンはふと考えた。



***



翌日は朝早くから魔物が目撃されたという現場に向かう。


『銀髪の乙女』の伝説は子供向けの童話のような感覚で民衆に浸透しているらしい。


「え~、本当にいるんだ!?」

「すごーい!」

「綺麗な髪・・・」

「銀色だけじゃないのね。白も青も素敵だわ~」


と全般的に好意的に受け入れられているのは素直に嬉しい。


アリソンは子供たちから手を振られると笑顔で手を振り返し、きゃ~という歓声を浴びていた。


魔物が目撃されたという場所をただ歩き回るだけで本当に魔物を退治しているのかは分からない。


しかし、一週間ほどかけて主だった目撃場所を回った後、目撃情報がピタッと無くなったことは事実で、


『居るだけで魔物が消えるなんて素晴らしい!』


という評判が広まった。


ジェイデンは忙しいらしく巡行に同行できたのは最初の数日だけだったが、手厚い警護は滞在中ずっと続いていた。


しかし、魔物退治の巡行最終日に小さな事件が起こった。


なんと本物の魔物が姿をアリソンたちの前に現したのだ。


青い炎に包まれた柴犬程度の大きさの魔物であったが、それでも魔力を行使し人々を攻撃したら大変なことになる。魔力のない普通の人間では殺されてもおかしくない。


しかし、アリソンの目の前に走り出た魔物は彼女の視線を受けた途端にあっという間に消失した。


威嚇する間もなく消えてしまったことで『銀髪の乙女』の大いなる力が一層もてはやされることとなった。


皇宮に戻ったアリソンたちを迎えたジェイデンは上機嫌だ。


「アリソン嬢の活躍の評判は皇宮まで届いている。君が巡行を開始してから、魔物の目撃情報は無くなったし、今日現れた魔物があっという間に消えたことで君の能力が証明されたことになる。見事な働きに感謝する」


「い、いえ・・とんでもございません。私は何もしていないので。お役に立てれば幸いです。ただ、もし商人が魔物をこの国に持ち込んでいるのなら、私が帰国した後再び魔物が現れる可能性があります。これまで犠牲者は出ていないと伺っていますが、密輸組織を摘発することが急務ではないかと・・・差し出がましい口をきいて大変申し訳ありません」


「正論だな・・・。ランカスター王国の赤髪と紫髪のお尋ね者については指名手配してあるし、密輸組織の摘発と併せて捜査を続行する。捕獲したらすぐに知らせよう。現段階ではこれ以上アリソン嬢の手を煩わせたくない。予定通り明日には帰国の途についてもらって構わない。今宵は最後の夜だ。晩餐会を準備したので是非参加して欲しい」


労いの言葉にアリソンたち一行が礼を述べて、晩餐会の支度のためにそれぞれ自室に戻っていった。



***



アリソンはニックと同室で寝泊まりしているが、予想通りというか何というか、本当にまったく何も起こっていない。


アリソンは浴室で着替えなどを済ませ、別々のベッドで休む。


寝る前にお茶を飲んでその日あったことや思ったことなどを話し合うし、常に一緒にいるので互いの距離が縮まった感触はあるが、男女の恋愛的な進展があったかというとこれがハッキリ言って皆無なのである。


アリソンのトラウマを理解しているニックの忍耐力のおかげだと感謝しながらも、若干の物足りなさを感じるアリソンであった。



晩餐会までにはまだ少し時間があるので、二人はお茶を飲みながら談笑していた。


「やっと明日には国に帰れる」


ニックがホッと安堵したように息を吐く。


「そんなに帰りたかった?」


「ああ、正直言うとあの皇帝とあまり一緒に居て欲しくない。それにアリーに見惚れる男が多すぎる。他の男たちの視線に晒されるのが嫌なんだ。ごめん・・・俺は思ってたよりも独占欲が強いみたいだな。アリーを俺だけのものにしたいんだ」


熱烈な告白にアリソンは顔を赤らめた。


「そんな大袈裟よ。私はそんなにモテないから」

「アリーは自分を知らなすぎる。もっと危機感を持って欲しい」

「はい・・・」


自分を心配して言ってくれるニックの気持ちを考えて、素直に返事をするアリソン。


「ところで今夜はどのドレスを着るんだ?」

「あのね。このラベンダー色のドレスにしようと思うんだけど・・・」


ニックがクローゼットに近づいてきた。


ドレスを胸に当ててみせると、ニックはハァーーーーッと大きな溜息をついて深く項垂れる。


「え・・・似合わない?変かしら?」

「いや、逆だ。似合いすぎる。可愛すぎて、他の奴に見せるのが嫌だ」

「ま、またまた~。言い過ぎ。ニックは大袈裟なんだから~」


ニックはムッとしたように腕を組んだ。


「大袈裟じゃない。・・・アリー、抱きしめていいか?」


突然の要望にアリソンはピョンと飛び上がった。


「い、いきなり何?」

「嫌なら無理する必要はない。ただ、なんか突然俺の存在意義が脅かされた・・気がする。自分の生きる意味を感じたいんだ」


アリソンはよく分からなかったが頷いた。


ニックはとても慎重に距離を測ってくれているし、軽いハグくらいなら大丈夫だろうと思ったのだ。


案の定、ニックは背中に軽く手を回す程度の軽いハグしかしなかった。


しかし、微かに鼻をヒクつかせると


「・・・いい匂いだ。アリーの香りが好きだ。甘い・・・甘すぎる匂いが美味しそうで食べたくなる」


と心臓が飛び跳ねるようなことを言い出した。


「え!?ニック!?それはダメ!その・・・ごめん」

「分かってる。アリーが嫌がることは絶対にしないよ」


少し哀しそうなニックの笑みにアリソンの罪悪感がチクチクと刺激される。


「あのね・・・ニック。私はその・・・身体的接触というものが一生できないかもしれないの。だから、その・・・それが嫌だったら他の子を選んだ方が・・・」


アリソンが言い終わらないうちにニックの瞳に怒りが灯る。


「アリー、君は俺をそんな風に見ていたのか?」

「ち、ちがうわ!でも、私のせいでニックが我慢しているのが申し訳なくて・・・」

「俺は君と一緒に居られるならどんな我慢だって辛くない!俺の気持ちをそんな簡単に考えないで欲しい。他の女のことを考える気はさらさらないから!」


ニックは憤然とソファに戻り、冷めた紅茶を飲み干した。


拗ねたようにそっぽを向いて座っている彼の後ろ姿を見て、アリソンは愛おしさと申し訳なさを同時に感じた。


(ニックはこんな私でいいって言ってくれる。とても嬉しいし感謝しているけど・・・本当にそれでニックは幸せなのかしら?どうしたらいいんだろう?)


アリソンはゴールが分からないままでも自分の気持ちを伝えようと決めた。


論理も順序もぐちゃぐちゃだが、自分の今の気持ちを精一杯伝えることが彼の気持ちに応える誠意だと思ったからだ。


「ニック・・・あのね。これまで私にとって男の人って恐怖の対象でしかなかったの。一緒に居て安心できると思ったのはニックだけ。ニックはいつも私の気持ちを一番に考えてくれる。そんなニックだから私も惹かれたのよ。でも、ニックのことが好きだから、余計にニックに我慢させていたりとか、満足させてあげられなかったりすることが申し訳ない気持ちになっちゃうの。もし、私が言ったことがニックの気持ちを傷つけてしまったらごめんなさい。でも、私なんかでいいのかな、他にもっといい子いるんじゃないかな、っていう不安な思いはどうしても無くならないの」


ニックは幼い子供にするようにアリソンの頭を優しく撫でる。


「俺の気持ちを全部アリーに見せられたらいいのに。アリーが不安に感じる必要は何もないんだ」


そう言うニックの微笑みはやはりどこか寂しそうで、どうしたら彼を心から笑顔にすることが出来るんだろうかとアリソンは思い悩んでしまうのであった。

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