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フィッツモーリス帝国の事情


魔物たちが出現しても退治できるように魔力を温存することが、ランカスター王国王家の使命となった。


ジュルングルは忠臣の一人と結婚し子供を儲けたが、子供の髪色は白かった。


世代を追うごとに髪色は混じってくる。特に黒髪の住民たちとの婚姻が増え、茶色の髪も増えてきた。


つまり、魔力が徐々に衰えていくということだ。


魔力が減ると魔物退治が出来なくなる。


それを防ぐために髪色を保持できるよう王家と高位貴族は長年腐心し続けてきたのである。



(髪色が重要だという考えにも理由があったんだ!?乙女ゲームの変な設定だと思ってた!)


とアリソンは衝撃を受けた。


だからと言って髪色差別を容認するつもりは全くない。


しかし、髪色の保持が使命だと考えている王家の方針に他の貴族たちが影響を受けてきた歴史的背景があったことは理解した。




「まぁ、そういう訳で、魔物を外に出さないように封じ込めるのはランカスター王国の責任なんだよ。それなのにこっちの大陸に魔物が現れたんだ。何とかしてもらわないと困る」


ジェイデンが肩を竦めた。


「お言葉ですが、ジェイデン。帝国の商人が魔物を大陸に持ち込んだ疑いがあります。一方的に私たちの責任にはして欲しくありません」


「まあ、アランの言うことも一理あるんだが・・・。それはこっちのお家騒動でな。俺とフレヤの母親は父上の正妃だった。しかし、側妃が産んだ異母弟がいる。キャメロンというんだが・・・。キャメロンと側妃は野心家で、特に側妃は俺を廃してキャメロンを皇帝にしようと躍起になっている」


絵に描いたようなお家騒動だとアリソンは感心した。


ジェイデンが苦笑いしながら説明を続ける。


「父上と母上が亡き後、キャメロンと側妃は勢力を伸ばした。ただ、俺が父上の後を継いで即位するのは止められなかった。当然だがな。まぁ、俺が甘すぎると批判する臣下もいる。本来なら皇帝の権威を傷つけるような勢力は滅ぼすべきなんだろうが・・・俺は暴力的なことは苦手で出来たら避けたいんだ・・・。だから、甘いと言われてしまうんだが」


「何もされていない内から滅ぼすというのは私も抵抗があります。陛下は優しいのだと思いますわ」


自嘲するようなジェイデンの表情を見ていたら、アリソンの口から勝手に言葉がこぼれてしまった。


ビックリして目をまん丸くするジェイデンが


「銀髪の女神に言われると嬉しいもんだな」


と破顔した。


「た、大変申し訳ありません・・・。差し出がましいことを申し上げました」


と小さくなるアリソンにアランとニックの冷たい眼差しが降り注ぐ。


アランはコホンと咳払いをして話題を元に戻した。


「そのキャメロン殿下が商人と結託して魔物を帝国に持ち込んだ可能性があるのではないですか?」

「そうだな。魔物の力を利用しようなんて愚かな真似はアイツのやりそうなことだ」


ジェイデンが悲しそうに肩を落とす。


「キャメロンは『銀髪の乙女』のことも狙っている」

「わ、わたしですか?!」


いきなり自分のことが話題に上り動揺するアリソン。


「銀髪の乙女の身と心を射止めた者は大いなる力を手に入れ、国を統べる存在になるだろう」


ジェイデンがゆっくりと発する言葉を聞いて、アリソンは膝がガクガクと震えるのを止められない。


「え!?だって・・・そんなの・・・迷信で・・・」

「ま、迷信だと思っていないから、キャメロンは裏でずっと君を狙っていたんだろうな」


ジェイデンが溜息まじりに言う。


「キャメロンが商人を雇い、君の誘拐を試みたと聞かされても俺は驚かない。証拠がないのが残念だが、今後国を挙げて捜査する予定だ」


その時、苛立ちをぶつけるようにダンッと机を叩いたのはニックだ。


「くだらんっ!アリーをなんだと思っているんだ!?そもそも銀髪の乙女が心から満足しないとそんな力は手に入らないんだぞ!」

「心から満足・・・え・・・そうなの?」


昔、枢機卿ローガンも似たようなことを言っていた微かな記憶があるが、それは単なる気休めだとアリソンは思っていた。


「そうだ」


とアランが重々しく頷く。


「俺が初めてアリーに会った時、俺は彼女を怒らせてしまった。俺は傲慢なガキだったからな。アリー、覚えているかい?」


「そう・・・ね。覚えているわ」


「あの後、数十頭の魔物がジンルから現れたんだ。銀髪の乙女の逆鱗に触れるとそういうことが起こるという伝承があったから、叔父上が待ち構えていて全部退治してくれた・・・。あの時は父上からこっぴどく叱られた」


初めて聞く事実にアリソンは口をポカンと開けるしかなかった。


「なるほど。無理矢理アリソン嬢を奪っても力は手に入らないということだな。ただ、キャメロンがそれを理解するかどうか・・・。どんな女でも俺に抱かれれば幸せだろうと本気で思ってるっぽいからな・・・」


「うわ・・・さむ」

「イタイ奴だな」


ずっと黙って話を聞いていたリズと騎士団長代行のアーロンが思わず呟いた。


「ランカスター王国でアリー誘拐を目論んだのは、エイドリアン及びチャーリー・ジョンソンだと分かっている。彼らが帝国商人と結託しアリーを誘拐するつもりだったのだろう。その背後にキャメロン殿下がいると判明した場合、ジェイデンはどうする?」


すっかり遠慮がなくなったアランが真剣な顔で訊ねた。


「その場合は厳正に処罰する。恩情をかけるつもりはない。キャメロンにも側妃にも罪は償ってもらわなくてはならないからな」


先ほどまでの屈託のない表情を消して、真顔のジェイデンがきっぱりと言い切った。

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