これからの目標が決まりました
銀髪というのは特別らしい。
新生児なのに銀色に輝く髪の毛は数日でグングンと伸び、アリソンが百年に一度の『銀髪の乙女』だということが両親や周囲に知られてしまった。
『銀髪の乙女』が生まれたら王家へ通報する義務が生じる。
そして、希少な『銀髪の乙女』が安全かつ適切に養育されるよう、すぐに王宮に引き取られることになった。
両親はそれほど悲しまずに赤ん坊を王宮へと送り出した・・ような気がする。
王家からは十分な補償金を受け取ったし、娘にとってもそれが最善だと考えたのかもしれない。
アリソンは前世でも家族との縁が薄かったので
(まぁ家族なんてこんなもんだろう)
と自分を納得させた。
王都に到着したアリソンは赤ん坊ながら忙しく頭を働かせ続けた。
(髪色が重要なんて誰が考えたんだろう・・・理不尽な世界観だ)
と溜息をつく。
ふとその時、ゲームの中で髪の色で差別されていた攻略キャラがいたことを思い出した。
黒髪のせいで家族に忌み嫌われ、友人も出来ず、誰も信用できない。
(黒髪だけど王子の一人だったから周囲も粗略にすることが出来ず、みんなから腫れ物のように扱われてヤサグレてしまった男の子がいたなぁ)
アリソンはゲームの内容を真剣に考え始めた。
(そうだ。攻略キャラの整理はしておいた方がいい)
一度しかプレイしなかったゲームのことを思い出すのは容易なことではなかったが、彼女は必死で記憶の糸を辿った。
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ゲームの攻略キャラは五人。それぞれ白、黒、赤、黄色、青の髪だった。
それ以外に条件を満たすと開くルートがあって、それがヤバいと友人たちが言っていた記憶があるけれど、どんな条件なのかもどんな攻略キャラなのかも分からない。
聞いておけば良かったと後悔しても後の祭りだ。
とりあえず覚えているのは・・・・
メインの攻略キャラは王太子アラン・ランカスター。
真っ白い髪で冷徹な美貌。文武両道で何でもできる完璧超人。
アリソンが前世で攻略したのはこのキャラだった。
同じ年の異母弟がいることが許せないとニコラス、通称ニックとの仲は最悪だった。
ヒロインを獲り合う熾烈なライバル関係だったように記憶している。
魔法学院では優等生で生徒会長。常に冷静で周囲からは頼りになる完璧な存在だと思われていたが実は脆い一面があり、ヒロインにだけは心を開き弱音を吐くことができた。
「みんなが僕を完璧だと褒め称える。でも、完璧であるために僕が犠牲にしてきたものを誰も気に留めない。君だけだ。僕の努力に気がついてくれたのは・・・。もう離せない。僕のものになって欲しい」
そう言ってアランはヒロインに激しい口づけをする。
そして、その手が下に伸びて・・・(自主規制)
アランの婚約者の公爵令嬢が所謂悪役令嬢で、嫉妬に狂いヒロインをえげつないくらいに苛めぬく。
ヒロインを誘拐して人身売買組織に売り渡そうとしたり、破落戸を雇って襲わせたり、過激な演出でさすがR18の面目躍如たるところを見せつけた。
ヒロインがピンチに陥る度にアランとニックが助けに来る。
アランとニックはヒロインを巡って争い、互いに激しいライバル意識を燃やしていたが、ヒロインのピンチには力を合わせて救出に乗り出すのだ。
白と黒の美形二人が煽情的な表情で魅せるスチルもあり、前世の友人たちが大騒ぎしていたのをアリシアは苦々しく思い出した。
黒髪の攻略キャラは第二王子ニコラス(ニック)・ランカスター。
側妃の息子で王太子と同じ年。
魔力がないことで周囲からは蔑まれるが、抜群の容姿と色気で多くの女性を魅了する。
幼い頃から複雑なコンプレックスを持ちヤサグレたニックは退廃的な雰囲気のモテ男で、アランルートでは悲しき当て馬として大活躍だった。
内心の鬱憤を晴らすかのように多くの女と関係を持つニックは、最初ヒロインのこともやり捨てにする女の一人くらいにしか思っていなかった。
しかし、ヒロインとの心の交流を経て、体だけでなく心と心の結びつきを求めるようになる。
学校で女たちと関係を持っているところをヒロインに見つかる回数が異常に多く、制服を着崩してキスマークのついた首筋をさらけ出すようなスチルがあった。
圧倒的な色気でセクシー担当と言われていたニック。
赤い髪の攻略キャラは教師だったが、やたらと強い魔術師という記憶しかない。アランルートでは出番が少なかった。
黄色い髪は年下の癒しキャラに見せかけて謀略が得意な策士であったとの噂だが、彼もアランルートでは印象が薄くほとんど覚えていない。
(それから青い髪の・・・・なんだっけ?)
青い髪の攻略対象に至っては何の情報もない。攻略したことがないキャラはどうしても記憶に残りにくいが、ゲームに登場したっけ?と思うくらい何も思い出せなかった。
ただ、多くの攻略キャラと出会うのは魔法学院であったことは間違いない・・・と思う。
基本的に貴族は魔力が高いので、その子女は魔法学院に通い勉強することが義務となっている。
だから、入学前に修道院に入ってしまえば、学院に通うこともなく攻略キャラとの縁が切れるのではないかとアリソンは考えた。
(えーっと、この世界にも教会があったはずだ。教会に通い、いかに自分が神への信仰心に篤いかを訴え、生涯を処女として神に捧げたいと言えば修道院に入れて貰えるのではなかろうか?)
彼女の目標は定まったと言えよう。
『入学前に修道院!』
それをスローガンに努力することをアリソンは心に誓った。