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世界の秘密


「え?どういうこと?ごめん。分からない」


戸惑うリズにアリソンとニックも共感した。


魔力を使える人間が存在しないとはどういうことなのだろうか?


「いいか。これから説明することは王家の直系しか知らない極秘事項だ。絶対に誰にも漏らすなよ」


真剣なアランの眼差しに全員がコクリと頷いた。


「この世界で魔力がある人間はランカスター王国、つまりこの島にしか存在しない」


「黒髪以外は魔法が使えるんじゃなかったのか?」


ニックの台詞にアランは「そうだ」と答える。


「だから、帝国の人間はすべて黒髪なんだ。いや、この世界では島の外の人間は全員黒髪だという方が正確か」


アランの爆弾発言に三人が凍りついた。




『ランカスター王国のある島を除いて、この世界の人間は全員黒髪である』




という新事実が脳に浸透するのに多少の時間が必要だった。



「だから、この世界で魔法が使え、黒以外の髪色があるのはランカスター王国だけなんだ」

「え、それじゃあ、魔物を退治するのは・・・?」


アリソンが呆然と呟く。


「当然、魔法の使えない人々にとっては難しいだろうな。しかし、魔物自体がランカスター王国にしか存在しない」



ここでまた新しい事実が登場した。




『魔物が発生するのはランカスター王国だけ』


『魔物を退治できるような魔法が使える人間もランカスター王国にしかいない』




「島を覆う結界があるが、それはどちらかというと魔物を外に出さないようにするための結界なんだ。魔物が国外に出ないようにランカスター王家が厳重に管理をするという締約を帝国や他の国々と結んでいる。その代わりに諸外国はランカスター王国に手を出さない。そうやって我が国は生き延びてきた」


「魔物を外に出さないようにするための結界・・・?それってまるで・・・・」


アリソンは声が震えるのを止めることが出来ない。


「そうだ。危険な俺たちの島を封じ込めるものだ」


アリソン、ニック、リズはそれを聞いて絶句した。


島を囲む結界は自分たちを守る防御だと思っていたが、実は自分たちを魔物と一緒に閉じ込める檻だったのだ。


ニックもリズも顔が青い。


「帝国の商人が秘密裏に魔物を国外に持ち出したことは我々の責任ではない。それは皇帝も認めている。ただ、その魔物が制御できずに人々に被害をもたらしているので我々の助けが必要だということだ。特にアリーに帝国に来てもらいたいと言っている。銀髪の乙女は存在するだけで魔物が消えるというからな」


アランの言葉を聞いてアリソンも納得した。


人々が魔物に苦しめられているのであれば、アリソンは協力したい。


「はい。私でお役に立てるなら喜んで伺います!」


アリソンの返事にニックが慌てた。


「おい、待て!アリー、危険すぎやしないか?どうしてわざわざアリーが帝国に行く必要がある?魔物を退治できる人間を派遣すればいいだろう!?」


「でも、存在するだけで魔物が消滅するのは銀髪の乙女だけよね。皇帝がアリーに来て欲しいと要望するのは当然かも」


リズのコメントでニックは自分の味方がいないことに気がついた。


「アリー、君は帝国に行きたいのか?」

「自分が役に立てるなら行きたいわ!」


何故かニックが意気消沈する。


しかし、困っている人々がいて、自分に出来ることがあるなら逃げたくはない。


「分かった。ただし、俺もアリーに付いていく!」


諦めたようにニックが宣言した。


「分かってる。ニックが一緒に行くのは当然だ。俺とリズも付いていくし、他にも信用できる騎士を選んで連れて行く。大丈夫だ」


そう言われてもニックの顔色は悪いままだ。



ニックはふと顔を上げると


「そういえば、叔父上は帝国に派遣されているんじゃないのか?」


と尋ねた。


その問いにアランはビクッと肩を揺らす。


「・・・・叔父上は帝国にはいない」

「じゃあ、どこにいるんだ?・・・・まぁ、俺が尋ねても答えてはもらえないんだろうな?」

「すまない。それは国王陛下と俺しか知らないことなんだ」


アランの表情が苦痛を堪えるように歪んだ。


父親である国王が一番頼りにしているのはアランだ。


優秀な嫡男であり後継者でもあるアランだから当然だと分かっていても、暗に自分は息子として役に立たないと言われているようでニックは劣等感を覚えずにはいられない。


アリソンとリズは、彼らの叔父であり王弟のノア・ランカスターが王宮にいないという事実も知らなかったが、アランの顔つきを見てこれ以上は掘り下げない方がいいだろうと判断した。


「・・・王弟殿下のことは、今回の魔物退治の依頼とは直接関係ないのね?」


緊張を隠しきれないアランは、リズの台詞にホッと安堵したように頷いた。


「じゃあ、今は帝国行きのことに集中しましょう。アリー、ニック、少なくとも一週間程度は滞在することになると思う。私とアランはまた王宮に戻って準備をするから、アリーたちは荷造りを始めてて?」


そう言って、リズはアランと一緒に足早に部屋から出て行った。



***



アランとリズが去った後、アリソンとニックは冷たい紅茶を前に気まずい沈黙に耐えていた。


「・・・ニック、ごめんね」


アリソンがポツリと言う。


「どうして?」

「だって、ニックは私に帝国に行って欲しくなかったのよね?心配かけてごめん。でも、ニックたちが居てくれるし、そんなに危険なことはないと思うの」


彼の気持ちを引き立てるように言うが、ニックの表情は曇ったままだ。


「アリー、違うんだ。勿論、心配だけど、それだけじゃなくて・・・・」


ニックは俯いてハァーーーーっと息を吐いた。


「スゲーみみっちくて情けないんだが・・・。俺が心配なのはアリーを皇帝に奪われたらどうしようって・・・」


「は!?どういうこと?」


「アンジェラが言ってただろう?皇帝ルートがどうとかって・・・。攻略キャラっていう奴なんだろ?皇帝の正妃になるとか・・かんとか。相手は皇帝だし、もしアリーの心が別の男に動いたらって・・・そっちの方が心配で・・・」


「そんなこと・・・心配する必要ないのに」


「万が一アリーを失ったら、俺はもう生きていく自信がない!」


頭を抱えるニックを見て、アリソンはこみ上げてくる愛おしさをどう処理していいのか分からなくなった。


恥ずかしそうに彼女を見上げるニックという男が可愛くて堪らない。


「悪い・・・こんなに情けなくて、愛想を尽かされるかもしれないけど・・・。俺にとってアリーはすべてだから。アリーさえいれば他に何もいらない・・・本当にそう思ってる」

「ニック・・・・」


アリソンは立ち上がると、ニックの頭を腕で包み込むようにして抱きしめた。


「ニック。私の心はニックだけのものよ。他の誰にも移ろうことはないわ。何十年も男嫌いできた私が初めてこんな気持ちになったのよ・・。何も心配することないわ」


ニックがアリソンの目を切なそうに見つめる。


「嬉しい・・・すごく。でも、幸せ過ぎてたまに怖くなるんだ。アリー」


そう囁くとニックは縋りつくようにアリーの背中に手を回した。


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