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銀髪の双子


アンジェラと面会した翌朝、ニックと並んで登校したが、アランとリズは欠席だった。


その日の夜に疲れた顔つきで寮に戻ってきたアランとリズは緊急に話し合いがしたいと、ニックとアリソンを呼び出した。


アリソンの部屋で集合した四人は香り高い紅茶を飲みながら、アランたちの報告を聞く。


「あの紫の髪のチャーリー・ジョンソンはエイドリアン・ジョンソンの異母弟だ。ジョンソン伯爵の庶子だな。母親は平民だ。伯爵が正式に認知しなかったので平民として育てられた。近衛騎士団に入団できたのは当時王宮魔術師だったエイドリアンが推薦状を書いたからだ。その後、何故かアリーの護衛に抜擢・・・・なんでこんな奴が抜擢されたのか調査中だ。縁故でゴリ押しされたんなら、ジョンソン伯爵もただでは済まない・・・ふふふ」


アランが黒い微笑みを見せる。


「アリーに解雇された後は近衛騎士団に戻るが、プライドの高い男だから我慢できなかったのかもしれない。しばらくして騎士団を自ら退団している。その後の消息は不明。ただ、アリーに恨みを持っていたことは想像に難くない。エイドリアンと一緒にアリー誘拐を目論んでいたようだ」


アランの説明を聞いてアリソンは子供だった自分の浅慮を反省した。


「ごめんね。恨みを買うようなことをしちゃって・・・」


「いや、そいつがクズなのは間違いないし、クビにして良かった。そんな奴が幼いアリーの近くにいたと想像しただけではらわたが煮えくり返る」


ニックが優しく頭を撫でる。


「コホンッ!エイドリアン・ジョンソンは教師の癖にアンジェラと関係を持っていた。彼女からアリーに関する情報を得ていたことは間違いない。エイドリアンは既に国外に脱出済みだ。フィッツモーリス帝国行きの商船に赤毛と紫の髪の男が目撃されている。チャーリーも同行しているようだな」


アランが咳払いをして話を続けた。


「ジョンソン伯爵は海外貿易担当の事務官だ。国王陛下が外国の商人に関する調査を命じ、それを受けたジョンソン伯爵が、怪しい商社を捜査するという名目でエイドリアンに出国許可を出した。伯爵は勅命に則り信頼する息子を選んで国外調査に乗り出したと説明している。また息子たちの行動を知らなかったと釈明しているが俺は疑っている。事情聴取の名目で伯爵は拘束されているが、エイドリアンたちは逃がしてしまった。もっと早くアンジェラから情報を得ていたらと悔やまれるばかりだ」


アランははぁっと溜息をついた。


「コレット・ウィリアムズも自白したわ。彼女はエイドリアンと関係を持っていたの。彼女は真剣に付き合っていたみたいだけど、エイドリアンは魔道具で情事を録画し、それで彼女を脅してアリーを魔法陣に誘導する役目をやらせたのよ。捕まったら黙秘を貫け。絶対に自分のことを喋るな。他に容疑者の名前が出たらそいつに罪をなすりつけろって指示していたみたい。本当に許せないわ」


リズの語気が強くなり、アリソンもその話を聞いて激しい怒りが湧いてくる。


「コレット嬢は、当初アンジェラに脅されたと主張していたが、エイドリアンの名前を出したら動揺して泣きだした。まったく・・・酷いことをする」


「本当だわ。コレットさんも気の毒に・・・」


「アリー、君は被害者だ。加害者に同情する必要はない」


ニックはまだ怒っているようだ。


「ところで、アンジェラがフィッツモーリス帝国のことを知っていて驚いた。機密情報だったんだが・・・」


アランは純粋に驚いている。


「正直、俺も知らなかったぞ」


とニック。


「私はアランの手伝いをするからその関係で知っていたけど・・・普通は知り得ないはず。だから、アリーの言うように、アンジェラが転生者だという話には信憑性があるわね」


リズの言葉にアランも渋々と頷いた。


「ああ、それに彼女は始祖の女神の名前も知っていたな。創世の神話も王家以外には詳しく伝えられていないはずだが・・・」


「えええっと、私も知らなかったんだけど、ジュングなんとか、だっけ?」


舌がもつれたアリソンを愛おしそうに見つめながらニックが答えた。


「ふふっ、始祖の女神、ジュルングルだ。銀色の髪に輝く金色の瞳をしていたらしい」


「王家に伝わる伝説によると双子だったそうだ。双子の兄はジャンガウルという男神で同じく銀髪に金色の瞳だった。しかし、ジャンガウルは強さと引き換えに悪魔に魂を売り渡し、破壊の限りを尽くした。ジュルングルは忠実な臣下と共に、新しい国を再建したと言われている。ま、神話の物語だ」


さすがアランは詳しい。スラスラと解説されてアリソンは感心した。


「へぇ、そうなんだ。面白い」


初めて聞く話にアリソンは興味津々だ。アリソンがランカスター王国の歴史を勉強した時には子供向けのもっとザックリした神話しか記載されていなかった。


「それで、エイドリアンとチャーリーのことはどうするんだ?このまま放置するのか?」


ニックの問いにアランは難しい顔で首を振った。


「あの二人の追跡についてはフィッツモーリス帝国の皇帝ジェイデンに協力を求めた。そしたら・・・交換条件を持ち出されたんだが・・・」


「「「交換条件?!」」」


リズも聞かされていなかったらしい。三人の声が揃った。


「ああ、魔物を違法取引する商人が帝国にいるらしい。そいつらが逃がしてしまった魔物が増えて人々を襲う事件が帝国で多発している。皇帝は銀髪の乙女に帝国に来てもらい、魔物を退治して欲しいそうだ」


それは確かに大事件だろう。魔物というのは様々な形態をとるが、どんな姿でも共通するのはその狂暴性と強さだ。


最も一般的な魔物は犬や狼などの動物の形をしていて、鋭い牙があり人間を襲う。強い魔力があり傷を負わせてもすぐに回復してしまうので、退治するには魔法を使うのが一番効果的である。魔法無しで魔物と戦うのは至難の業だ。


「そんな!?アリーに頼らないで皇帝なんだったら自分で退治すればいいのに!皇帝なんだから魔力だって強いんでしょ?」


リズが憤然と拳を振り上げた。


「そうはいかないんだ」

「どうして?」


というリズの疑問にアランはふぅっと溜息をついて


「皇帝や皇族を含めて、帝国に魔力のある人間は存在しない」


と言った。

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