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紫髪の騎士


その後、アランとリズに再度合流したアリソンとニックは、お互いの気持ちを確かめ合ったことを報告した。


「まったくあの嘘つき女には腹が立った。ニックの世界一美しい純粋なハートを利用しようとする醜悪な心を持つ女たちが寄って来る。アリー、君もニックを少しでも傷つけたら・・・俺が許さないからね」


黒い笑顔のアランは怖かったけど、リズは心から祝福してくれた。


リリアは二度とニックに近づかないと誓ったらしい。というかアランが強制的に誓わせたとリズから聞いた。


「アラン、リズ。ありがとう。あんなに一生誰のことも好きにならないって言っていたのに、恥ずかしいけど・・・」


「まぁ、いい。ニックさえ幸せなら」

「おめでとう!私は二人が幸せになってくれたら何より嬉しいわ!」


とアランとリズに祝福されて、アリソンは面映ゆい気持ちで照れくさくて堪らない。


「本当にありがとう。ところで、アランが私の魔力を感じることが出来るなんて知らなかったわ。さすが、すごいわね!」


「え?あんなの信じたのか?俺もリリアは胡散臭いと思ってたんだ。だから、カマをかけてみた。ニックは一度信用すると疑わない純真さがあるから、それを利用してるんじゃないかって心配だったんだよ」


あっけらかんというアランにアリソンは絶句した。


「結果オーライだったからいいだろう。リズもあの女は怪しいと思ってたんだ」


「彼女は騎士団に居た頃はねぇ、貴族令嬢なのに頑張り屋だと思ってたの。でも、最近の態度は明らかに変だったわ。まさかあんな下心があったとは思わなかったけど」


「まったくだ・・・。すっかり騙された」


ニックはまだ落ち込んでいるようだ。アランが励ますようにニックの肩を叩く。


「それだけニックの心が清いという証拠だよ。気にすることはない。でも、お兄ちゃんは心配なんだよ。アリーだって・・・万が一ニックを裏切るようなことがあったら・・・分かってるね?〇すよ?」


「ニックを裏切ることは決してありません!」


と慌ててアリソンは誓った。伏字の脅しが強烈に怖い。



「ま、ニックとアリソンが幸せそうで俺も嬉しいよ」


アランは満足気に頷くと手元にあった書類をパラパラとめくった。


「それで本題なんだけど。アリーを注射器で襲った紫髪の男は子供の頃、アリーの護衛騎士だったという話だな?」


「うん。どこかで見たことあるって思ったの。間違いないと思う。私がクビにしてしまったから恨みを持たれていても不思議じゃないし」


アランとリズが意味ありげに顔を見合わせた。


「銀髪の乙女と接触があった人間は全て記録されている。そいつはチャーリー・ジョンソンという元騎士だ。アリーの護衛をクビになった後、近衛騎士団に戻ったんだが、しばらくして騎士団も辞めて姿を消したらしい。勿論、解雇の際には口封じの魔法を掛ける。アリーが銀髪の乙女だということを他人には話せないようになっているはずだ」


「チャーリーのことは覚えているわ。平民出身でね。平民には珍しい紫色の髪だっていうことを物凄く自慢にしていたの。魔力も強くて優秀な騎士だったし、貴族との強いコネがあったみたい。じゃなかったら、平民出で近衛騎士に選ばれるのはすごく難しいわ。でも、アリーの言う通り、傲慢で思いやりのある人間ではなかった。エリート意識が強くて自分が一番エライと思っているタイプだから、アリーに解雇されたのを恨みに思っていても不思議じゃないわ」


アランとリズの言葉を聞いてニックは拳を固く握り締めた。


「恨みって言うか逆恨みだろう。あんな注射を打たれて身動きが取れなくなったアリーをギリギリのところで助けられて良かった・・・。あのままアリーを連れて魔法陣で転移されていたら、と想像するだけでゾッとする。絶対に許さない!」


アリソンはニックの袖をちょんと摘まんで


「ありがと。でも、私は大丈夫よ」


と背伸びして耳元で囁いた。


剣呑だったニックの眼差しが甘く緩む。


アランとリズが『げ、勘弁してくれ』という顔をした。


恥ずかしくなったアリソンが話題を変えるように


「そのチャーリーとアンジェラさんはどこで組むことになったのかしら?公爵令嬢と退団した元騎士の間に接点なんてある?チャーリーがアンジェラさんに近づいたって・・接触するのだって難しいんじゃない?」


と問いかけた。


「まぁ、偶然っていうのはどこにでも転がってるもんだけどな」

「うーん、そうね」


アランの呟きにリズが同意する。


「あとね。王宮で取り調べを受けているアンジェラなんだけど、彼女は何故かアリーが銀髪の乙女であることを知っているのよ。ね、アラン?」


「「えっ!?」」


アリソンとニックはそれを聞いて驚愕した。


アランは既に報告を受けているらしく、更に詳しい情報を教えてくれた。


「加えて妄言というか・・・訳の分からないことを喚いている。自分は悪役令嬢だから最後は絶対に勝つとか・・・アリソンは負けヒロインだとか。げえむ?聞いたことのない言葉もあったな」


アリソンとニックは顔を見合わせる。


そして震える声で


「あの・・・どうか、私をアンジェラさんと直接話をさせてもらえないかしら?お願いします」


とアリソンは懇願した。


「いや、それは・・・。現在捜査中の犯罪事件なんだ。被害者のアリーに会わせる訳にはいかないよ」


アランの正論は尤もなのだが、どうしても同じく転生者であろうアンジェラと話がしてみたかった。


「アラン。アリーが直接話した方がいいと思う。規則に反しているのは分かるんだが、この場合は融通を利かせてもらえないだろうか?」

「ぐっ・・・・」


可愛い弟のお願いにアランが言葉を詰まらせた。


「ダ、ダメだ!いくらニックの頼みでも、私情に流されてはいけない!」


それでも、アリソンはアンジェラと話がしてみたかった。彼女だけが知っている『カラー・ソワレ』の情報があるかもしれない。


「アリー、ちゃんとアランに説明した方がいい」


とニックは暗に前世の話をした方がいいと示唆する。



アリソンは大きく息を吸うと、自分の前世をアランとリズに説明することに決めた。


男性恐怖症になった経緯などは全て省いた。前世の記憶があり、乙女ゲームと呼ばれる物語の世界に転生したことをかいつまんで告白した。


そして、恐らくアンジェラも転生者であることを伝えると、呆然と話を聞いていたアランとリズが頭を抱えた。


「そんな話・・・とても信じられない」


と呻くアランにリズが


「でも、アンジェラも乙女ゲームっていう言葉を使っていたわ。アリーは悪役令嬢とか負けヒロインとかって意味も分かる?」


と尋ねた。


「分かるわ!それはね・・・」


と前世の知識を総動員して解説すると、アランたちは全員深く溜息をついた。


「なんだか複雑なのね・・・。つまり、アンジェラが悪役令嬢で、でも実は自分が真のヒロインだと思っている。アリーはこの世界のヒロインなんだけど、悪役令嬢に敗れてハッピーエンドにならないから負けヒロインってこと?」


「うん。そうね。そういうことを彼女は言ってるんだと思うわ。ただ、私はそもそも戦うつもりがないし、ひっそりと生涯を終えたいと思っているの。だから、負けヒロインでもなんでもいいから放っておいて貰えたら有難いくらいなんだけど・・・」


アランはまだ半信半疑の表情だ。


「アラン!頼む。アリーを信じてくれ!アリーがアンジェラと面会する時には俺も立ち会うし、絶対にアリーを守るから」


ニックの必死の訴えにアランは不承不承頷いた。


「俺とリズも一緒に立ち会う。それでどうだ?もしかしたら、他に人がいるとアンジェラは喋らないかもしれないが・・・」


「アラン。アンジェラは誰が来てもペラペラ喋ってるから大丈夫じゃない?」


リズの後押しもあり、アリソンとアンジェラの面会日が整えられた。

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