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黄色の攻略対象 ~ ドミトリー・エヴァンズ


アリソンは夢を見ていた。


オーストラリアのウルルのてっぺんにいる。前世の夢だ。


かつてはエアーズロックと呼ばれていたウルルは、5億年以上前に形成されたと言われる世界最大の一枚岩だ。


アボリジニのアナング族がドリームタイムと呼ばれる天地創造の神話を語り継いできた。


巨大な一枚岩の上に立って下を見下ろすと多くの黒い髪の人々が集っている。



ウルルの頂上に突然大きな石が出現した。その石の壁面に複雑な魔法陣のような紋様の扉が浮かび上がり、それが音もなく開く。



(違う、ここはウルルじゃない。これは・・・ジンルだ)



俯瞰で眺めているアリソンがそう思った時、扉から銀色に光る髪の女性が現れ、彼女に続いて、赤、青、黄色の髪の人間が次々とウルルに降り立った。


地上にいる多くの黒髪の人々が平伏している。


『神・・』


『光臨』


という囁き声が聞こえ・・・・


『銀髪以外・・・すべて・・・殲滅・・・』


という怨嗟の籠った声と共に、アリソンはハッと覚醒した。




*****




ドンッと乱暴に床に投げ出されたアリソンが顔を上げると、そこはどこかの部屋だった。


部屋の中央にベッドがあり、その脇に一人の男性が立っている。


黄色い髪・・・


アリソンの全身に鳥肌が立った。




ドミトリー・エヴァンズ侯爵令息


攻略対象の下級生!




「やぁ、君がアリソンだね。僕のことが好きなんだってね」


(やばいやばいやばいやばい・・・逃げないと・・・)


アリソンは慌てて窓際に近づいて必死で窓を開けようとする。


恐怖で手が震えて上手く開けられなかったが、かろうじて僅かに開いた隙間から黒い影がシュッと飛び出していったのを確認して、ホッと安堵の息を吐いた。


しかし、その隙にドミトリーはアリソンのすぐ背後に迫る。


肩に手を置かれて、アリソンは悲鳴を上げた。


「ちょ、止めて下さい!」


と慌ててドミトリーから離れる。


「いいねぇ、そういうお芝居ってこと?ノリノリだね。僕も興奮してきちゃうよ」


と笑う美少年顔のドミトリーをアリソンは心の底から気持ち悪いと思った。


「近づかないで下さい!私は本気です!お芝居なんかじゃありません!」

「またまたぁ、好きなくせして・・いいから僕に任せておきなよ」


と手を伸ばすドミトリーの腕を、アリソンはハイキックで思いっ切り蹴とばした。


ボキッと嫌な音がして、ドミトリーが蹲る。


「・・・っってぇなぁ!ざけんなっ!」


怒り狂った形相でアリソンに飛びかかるドミトリー。


アリソンが攻撃魔法でドミトリーを体ごと弾き飛ばすと、彼は物凄い勢いで壁にぶち当たりズルズルと床に倒れ込んだ。


その隙にアリソンは彼を魔法の糸で絡めて縛り上げる。


「な、なんだコレ!?ほ、ほどけない・・・くそっ。茶色がこんな魔力持ってるはずないっ!」


と焦るドミトリー。


アリソンは手をパンパンと叩いて周囲を見回した。落ち着いて窓の外をみると、ここは寮の一室であることが分かる。


(良かった・・・近くにニックたちがいるに違いない)


と安堵した途端に、部屋の床に新たな魔法陣が浮かんだ。


禍々しくチリチリ音を立てる魔法陣から足が現れ、それがあっという間に人型になる。部屋に突然現れた男は閃光のように素早くアリソンに襲いかかった。


アリソンは敵がドミトリーだけだと油断していた。


不意を突かれて動けなかったアリソンの首筋に、紫色の髪をしたその男は注射器を突き刺した。


チクリとした痛みと同時に冷たい液体が首の中に流れ込むのを感じて、アリソンの意識は突然朦朧となった。


(・・なに・・・これ・・・・・意識が・・・・・・)


床に倒れたアリソンが最後に目にしたのは・・・


物凄い勢いでドアをぶち破ったニックの必死の形相のように記憶しているが、あれは願望が見せた夢だったのかもしれない。


・・・・そして意識が途切れた。




***




アリソンが目を覚ますと自分の部屋の天井が目に入った。


頭がガンガン痛んで思わず「うっ」と声が出る。


「大丈夫か?」


聞きなれた声を聞いて、思わず安堵で目の奥が熱くなった。


「・・・ニック?」


ニックは心配そうな顔つきでベッドサイドの椅子に座っている。


「大丈夫か?すまなかった。お前を置いていくべきじゃなかった」

「私・・・注射針を・・・意識がなくなって」

「ああ、危ないところだった。マグのお手柄だ。突然飛んで来てビックリしたが・・・マグの後をついていったらあの部屋に辿り着いたんだ」


ぴーっぴーっぴーっと鳴きながらマグが飛んできてアリソンの肩に着地した。


「マグ・・・良かった。お前がニックたちを連れてきてくれたのね」


魔法陣で転移させられた時に、ドミトリーの部屋でアリソンが真っ先にしたのは窓を開けてマグを逃がすことだった。


マグの小さな頭を撫でると嬉しそうにさえずる小さな鳥は堪らなく可愛い。


「それよりも体は大丈夫か?強力な痺れ薬を打たれたんだ」

「私は大丈夫。ありがとう。それより何があったか教えてくれる?もう、何がなんだかわからなくて・・・」

「ああ、そうだな・・・」


とニックは順序立てて何が起こったのかを説明してくれた。




アリソンとリリアが待機していた部屋の入口に魔法陣の罠が仕掛けられていた。


教室の外でアンジェラが男に襲われている演技をして部屋の扉を開けさせて、アリソンを魔法陣に引きずり込んだ。


アリソンはドミトリーの寮の自室に転移させられ、そこで彼と逢引する予定だった。


少なくともドミトリーはそう勘違いしていた。


ドミトリーはアリソンが自分のことが好きだと思っていた、自分は利用されたと主張しているらしい。


「確かに・・・私が彼のことを好きだとかなんとか言ってたような・・・?」

「ああ、奴はアンジェラ・ポートマン公爵令嬢に唆されたと言い張っている」

「そうだったの・・・」

「以前アリーに魔法陣を仕掛けたコレット・ウィリアムズ子爵令嬢もアンジェラに脅されたと証言している。二人も証人がいれば取り調べる十分な証拠となる」


アリソンはコレットの怯えた顔つきを思い出した。


「アンジェラは逮捕されて現在王宮で取り調べを受けている。彼女はドミトリーの一件は認めているが、コレット嬢の誘拐事件については関与を否定している。・・・まあ、自白するのも時間の問題だと思うけど」

「そうなのね」


「ただ、今回アンジェラには協力者がいた。紫色の髪の男なんだが、悔しいことに逃げおおせた。そいつがアリーに痺れ薬を打った奴だ。アリーを攫うつもりだったようだな。別な魔法陣が準備されていて、そいつは逃げおおせた。ただ、アンジェラによると・・・」


言いにくそうに口ごもるニックに、アリソンは先を促すように頷いた。


「紫の髪の男はアリーに恨みがある、とアンジェラが証言している。アリーへの恨みを晴らしたいとアンジェラに近づいてきたそうだ。ただ、アンジェラは注射器で意識を失わせて誘拐することまでは依頼していないと主張している。男に襲わせるだけでも処刑に値する犯罪だと俺は思うけどなっ!」

「私に恨み・・・・?」


あの紫の髪の男はどこかで見たことがあると思っていた。


(最近じゃない・・・子供の頃だ・・・)


「コレットの一件については何も知らないとアンジェラはしぶとく言い張っている。まったく信用できないが・・・」


ニックが苛立った口調で続ける言葉を聞きながら、アリソンは必死に記憶の糸を辿る。


(私が知っている人間は限られる。修道院時代には男性と口をきいたこともなかった。それ以前に会った男性と言えば、神官・・・王宮の侍従・・・護衛騎士・・・っ!)


「思い出した!あの紫色の髪の男は昔私の護衛騎士をしていたわ!」

「なに!?本当か!?」


ニックも声をあげる。


「そうなの。道端で倒れているニックを助けてくれなかったの。私、腹が立って解雇してしまって・・・・・・そうね。彼なら私を恨んでいるかもしれない」

「アリーの護衛騎士なら王宮の記録に残っているはずだ」


そう言ってニックは小さな紙に何かを書き込むと


「マグ。頼めるか?アランに届けて欲しい。アランだ。ア・ラ・ン!」


とマグに声を掛けた。


驚くことにマグはぴょんとニックの手に飛び乗った。


足にメモを付けられている間も、マグは大人しく待っている。自分の役目が分かっているようだ。


ニックが窓を開けるとマグはヒュンッと飛び去って行く。


「大丈夫だ。マグは賢い」


とニックはアリソンを振り返って、再び椅子に座った。


「それで・・・リリが教室の扉を開けたそうだな?悪かった。彼女がそんなことをするとは思わなかった」


あまりに色んなことがありすぎてリリアのことをすっかり忘れていた。


彼女のことを思い出すと嫌でも胸が重くなる。


突如として顔が鉛色になったアリソンを見てニックは心配そうに「どうした?」と声をかけた。

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