かくして『銀髪の乙女』として転生しました
目を開けると満面の笑顔を浮かべた男女が自分の顔を覗き込んでいた。
「なんてお利口さんなのかしら?全然泣かないわ。とても賢そうな・・綺麗な金色の瞳。アリソン。私がママよ」
(・・・・・・・・アリソン?)
「僕がパパだよ。それにしても髪の毛の色が・・・白っぽく見えないかい?」
「そうね、光っているようにも見えるわ。まだほんのちょっとしか生えてないけど、白か・・・まさか銀なんてことはないと思うけど・・」
「まさか!『銀髪の乙女』は百年に一度しか生まれないと言われてる。でも、白でも凄い。男爵家から白い髪の娘が産まれるなんて・・・。王家からも大切にされるだろう」
(・・・・・銀髪の乙女?)
「あなたはロバーツ男爵家に幸運をもたらす天使ね!」
(・・・ロバーツ男爵?)
前世の記憶がそのまま残っていたアリソンは、これが噂に聞く転生というものかと衝撃を受けた。
オーストラリアの森の中でもインターネットは繋がる。日本語が恋しくなると電子書籍を買いまくっていたので異世界モノのラノベや漫画も目にしたことはあった。
(まさか自分が転生するなんて予想もしていなかったけど・・・)
アリソンはどうにか気持ちを落ち着かせると両親の会話から気になる情報を抽出した。
アリソン・ロバーツ男爵令嬢。
髪の色。
銀髪の乙女。
白だと王家から大切にされる。
彼女は密かに溜息をつく。
はぁ・・・・・。
アリソンは自分が因縁の乙女ゲーム(しかもR18)の世界に転生したことに気がついたのだ。
しかも、ヒロインとして (←強調)
ゲーム内でのヒロインのめくるめく体験が次々と脳裏に浮かび上がる。
それが自分の身に起こるだろう将来だと想像するだけで全身が恐怖に震え、アリソンは新生児らしく大声で泣き喚いた。
***
『カラー・ソワレ』というゲームは、髪色にまつわる乙女ゲームである。
ここは魔法や魔物が存在し、髪の色が何よりも重要な世界だ。
(なんだそれ!?)
というツッコミはひとまず脇に置いておく。
ゲームの舞台は人々が平和に暮らす豊かなランカスター王国。
なんと島国である。そして、まるで江戸時代の日本のように鎖国している状態だ。
生活様式としては中世ヨーロッパのような貴族社会だが、非常に閉鎖的で他国との交流は全くと言っていいほどない。国外に行くことは特別な許可を得て、特別なルートを使わないと叶わない。
島国である上に、他国からの侵略を防ぐため強い魔法の結界が張られているのだ。半球型の透明の巨大ドームが国を覆っているイメージと言えば想像しやすいだろうか?
そのおかげで対外的な脅威はない。国内で自然発生する魔物の存在が唯一の脅威と言えた。
他国との交流もなく歴史を重ねたこの国では髪色にこだわるという独自の文化・風習がある。
ランクによって髪の色がほぼ決まっている。髪の色は魔力の大きさも反映しているのだ。
王族は白い髪色。白が最上と言われる。魔力は最強ランク。
高位貴族は、三原色。赤、青、黄色。魔力も強い。
下位貴族は、それらを合わせた色。緑、紫、茶色など。色が混合されてはっきりとは特定出来ない色も多い。魔力はまあまあ。
平民はほとんどが茶色なので、貴族で茶色の髪を持つ場合はかなりバカにされる。魔力は非常に弱い。灯りをつけるとか、日常生活で必須の魔法くらいしか使えない。
黒髪は呪われた髪色として疎まれている。黒い髪の人間は全く魔力を持たない。この国では黒い髪を持った赤ん坊が生まれたら捨てられるか、最悪の場合は殺されることもあるという。
そして百年に一度しか生まれないという希少な髪色が銀色だ。なぜか女性のみに起こる。銀色の髪で生まれた女性は『銀髪の乙女』と呼ばれて特別な存在となるのだ。所謂『聖女』という存在に近い。
ゲームのヒロインは銀髪で生まれる。当然ながら魔力は最高レベルで、彼女の魔力は魔物を寄せ付けない不思議なパワーがあるという。いるだけで悪い魔物が浄化されるっていうんだからすごいご都合主義だ。
ランカスター王国に跋扈する魔物は低級から上級までそのレベルの幅は広い。魔物に襲われた傷は魔障となり後遺症が残ることもあるし、運が悪いと死に至る。治癒魔法が効きにくい魔物の害を軽減してくれる銀髪の乙女の存在は全国民が待ち望んでいるものだと言えよう。
また魔物を寄せ付けないだけでなく、もっと分かりやすい俗物的なご利益もある。
『銀髪の乙女』の身と心を射止めたものは、大いなる力を手に入れこの王国を統べる国王となり、国が隆盛するだろうと伝えられているのだ。
そのため、彼女は正しい交配相手を探さないといけない。
アリソンはゲームの中でヒロインに投げかけられた台詞を思い出した。
『あなたは特別な存在なのです。どんな男でもあなたと結ばれたいと願うでしょう。誰でも自由に選ぶことができるのですよ』
(いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!!!!!!)
アリソンは心の中で絶叫した。
(私は誰とも結ばれたいと思わないし!なんなら修道院で生涯処女を貫くくらいの覚悟があるから!)
まだ赤ん坊だった彼女はひっそりとべそをかきながら、そんな未来を回避するための方策を考え続けた。