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アランの誤算


女子寮にあるアリソンの部屋に侵入者があったという報告をアランは直接寮長から受けた。


何者かがアリソンの部屋に魔法陣を仕込もうとしていたらしい。


その狙いは明らかに彼女の拉致だ。


前回のように外国に売り飛ばそうとする勢力がいるに違いない。


同時に諜報から王宮にも侵入者があったことを報告される。


外国への転移も可能な『転移の間』近くまで侵入されたと知り、アランの顔色が変わった。


(王宮の中でも限られた人間しか知らない極秘事項のはずだ!)


やはり内部に裏切者がいることを確信するアラン。


貴族令嬢一人で可能な陰謀ではないと思いつつ、引き続きアンジェラ・ポートマン嬢の動向を見張るよう密偵に命じた。


まずはアリソンの安全の確保だ。


女子寮で他にも魔法陣が仕掛けられている可能性がある。リズにアリソンがよく使う場所を重点的に確認してもらう必要がある。


自分は早急に王宮に戻らなくてはいけないだろう。


アランは溜息をつきながら頭を掻いた。




この国から外国へ行くには二つの方法しかない。


一つは港から船で出航すること。


もう一つは王宮の『転移の間』から魔法陣で転移することだ。


既にアランは港を厳重に警戒するよう指示を出している。




問題は『転移の間』である。


『転移の間』の重要性を知る者は少ない。


国王はそれでなくても忙しいし、簡単に動ける立場ではない。


やはり自分が王宮に行かなければならない。


女子寮の捜索はニックとリズに任せられるが、アリソンを一人で学院に置いて大丈夫かどうか悩んだ。


最近ニックに纏わりついているリリアとかいう令嬢をアランはこれっぽっちも信用していない。


ニックとリズは同じ騎士団に所属し、いわば同じ釜の飯を食った仲間ということで彼女の不審な点が見えていない。全面的にリリアを信用する様子に苛立ちを感じていた。



騎士団は結束が異常に強い。


命がけの戦いに身を投じた時に背中を預ける味方だから、仲間の騎士を信用するということは一番の是であるが、特にニックは純粋で一度信用したら決して相手を疑わない。


苦労して育ってきた割に心根が美しく清らかなのだ。


(そんなニックの純真さを利用する人間がいたら絶対に許さない!〇す!)


と兄バカのアランは考えている。


リリアは騎士団に見習いとして入団し、確かに貴族令嬢にしては頑張っているらしい。


それが純粋に騎士になりたい、戦って国を守りたいという思いなのか、それともよこしまな下心があるのか、アランはいつか見極めたいと思っていた。


ニックやリズの前ではリリアは絶対に本性を出さないだろう。


(でも、アリーと二人きりになったら・・・?)


悪いがアランにとってはアリソンよりもニックが最優先である。


アリソンは拉致されなければいい。


白い髪の王太子が張る教室の結界が解かれることはない。もし解けるとしたらノアかアリソンくらいだろう。


だから、教室から出さえしなければアリソンは安全だ。


それにアリソンの方がリリアより圧倒的に強い。リリアが彼女に危害を加えることは不可能だ。


万が一リリアに下心がありニックに近づいた場合は、アリソンと二人きりになった時に本性を現すに違いない。



・・・・という計算がアランにはあったのだが、まさかあれほど念を押していたのに、リリアが扉を開けてしまうなんてことは想定できなかった。


(まさかリリアがそんな愚かだったなんて・・・)


後にアランは頭を抱えることになる。


策士アランの誤算であった。



***



アランから命令を受けた密偵は、バレないように少し離れた場所からアンジェラ・ポートマンを監視していた。


教室からコッソリと抜け出したアンジェラは、アリソンたちを追って廊下を進む。


アランからは確固たる証拠を掴むまでは泳がせておけと命じられている。また、共犯者がいる場合はそいつらの動きも探れとの指示だ。


(・・・・命じる方は簡単に言うが)


と少々ボヤきたくもなる。


捕まえてしまったらその後の動きを探ることが出来ない。どの程度まで泳がせればいいのか、判断が難しいところだ。


アリソンとリリアが入った教室に結界を張った後、アランたちは立ち去った。


アンジェラは人気ひとけが無くなった廊下で周囲をキョロキョロと見回している。


そこに紫色の髪の毛の男が現れた。二人は目を合わせただけで挨拶もしない。


(・・・・誰だ?共犯者か?)


忘れないようにそいつの顔や特徴を脳に刻む。


沈黙の中、アンジェラが教室の扉のすぐ前に魔法陣を描きだした。



魔法陣が完成するとアンジェラは大きく息を吸って


「誰かっ!誰か助けて!!!」


と叫び声をあげた。


その後すぐにどこかへ向かって走り去る。


「こいつっ!ふざけんなっ!」


という紫髪の男はバシッと自分の腕を殴りつけた。



密偵は迷った。


アンジェラを追うべきか、ここにいるべきか。


しかし、教室の扉は開かない。


しつこいほど教室のドアを開けるなとアランは繰り返していた。


あんな小芝居を信じて、それを開けるほど愚かではないだろう。


そもそもアランの命令はアンジェラの監視である。彼は数秒も迷わずにアンジェラの後を追った。




しかし、アンジェラは転移するための魔法陣を準備していたらしい。


目と鼻の先で彼女の姿が消失しそうになり、密偵は慌てて彼女に飛びついた。


魔法陣の中に消える直前に辛うじてアンジェラを引き留めることが出来た。


「アンジェラ・ポートマン嬢、アラン・ランカスター殿下より密命を受けております。先ほどの魔法陣のことでも話を聞きたい。王宮で事情聴取に応じて頂けますね?」


自分を拘束して連行する密偵を睨みつけながら、アンジェラは悔しそうに歯がみした。

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