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リリアの本心

黄色の攻略対象であるドミトリー・エヴァンズ侯爵令息は現在魔法学院の二年生だ。


あられもない姿で寝台に横たわる彼は、アンジェラ・ポートマン公爵令嬢を背後から抱きしめた。


魔法学院の男子寮と女子寮は互いに行き来ができない決まりになっているが、いくらでも抜け道はある。


ドミトリーはしょっちゅうアンジェラの部屋に忍び込んでは逢瀬を楽しんでいた。


真剣な付き合いではない遊びが前提だから、気楽な関係が心地いいドミトリーにとっては都合の良い相手と言える。


「・・・それで、僕のことが好きだっている女の子がいるの?」

「そうよ。アリソン・ロバーツっていううちのクラスの生徒なんだけど」


「あれ?ニコラス殿下の彼女じゃなかったっけ?狙ってる男が多かったけどガードが堅くて近づけないって噂を聞いたことがあるよ」

「ニックとはうまくいっていないみたい。もうすぐ別れるんじゃないかしら?もっと、気楽に情事を楽しみたいんだって」


「へぇ。滅茶苦茶スタイルがいいって噂は聞いたことあるよ。顔も結構可愛いんだよね?髪は茶色だけど・・・」

「ふふっ、そうなの。それで、彼女ね、乱暴なのが好きなんだって。だから、抵抗しても止めちゃダメよ?強引にしてあげて。そうすると喜ぶから」

「へぇ、エロイな。楽しみだわ」


ドミトリーはニヤリと笑って唇を舐めた。



***



翌日の放課後、寮長が血相を変えて魔法学院にやって来た。


赤毛の担任教師エイドリアン・ジョンソンが


「・・・女子寮に侵入者があったらしい。現在寮の安全管理を確認中なので、寮に戻っても入ることが出来ない。帰宅の許可が出るまで教室で待つように!」


と生徒に指示をする。


「どろぼう・・・?」

「侵入者って、あんなに魔法で守られている建物が?」

「ちょっと怖いんだけど」


ジョンソン先生が教室を出た途端、生徒たちが一斉に騒ぎ出した。


「アリー、ちょっと来てちょうだい」


リズに声を掛けられて、アリソンが教室の外に出るとアラン、ニック、リリアが待っていた。


「アリー、俺たちは捜査に協力するから今から寮に戻らないといけないんだ。だから、君は別室でリリアと一緒に待っていてくれないか?俺がアリーたちのいる教室に魔法で結界を作るから絶対に誰も侵入できない。・・・それとも教室で待っていた方がいいか?」


アランの提案にアリソンは迷った。本当はアランたちと一緒に捜査に参加したかったが、素人の自分がいても迷惑なだけだろうと口には出せない。


クラスメートと一緒に教室で待つのは少し怖い。むしろ別教室に一人で待っている方が気が楽だ。


「別室で待つ方がいいかも・・・でも、リリアさんに申し訳ないから私一人で・・・」

「いや、一人はダメだ」


ニックが食い気味に止める。


「だったら私も一緒に寮に戻って・・・」

「アリー、寮で侵入者があったのは君の部屋なんだ。恐らく狙いは君だと思う。まだ侵入者が隠れている可能性があるから、出来たら君は安全な場所に居て欲しい」


アランの言葉にアリソンはしぶしぶ頷いた。


「リズが残るって言い張ったんだが、出来たら彼女には協力して欲しいんだ。女子寮のことを一番分かっているのは彼女だから・・・。代わりにリリアがアリーの護衛をしてくれるって言うから・・・」


リズは何か言いたげだったが、アリソンの肩をギュッと掴んで


「アリー。とにかく絶対に教室から出ちゃダメよ。何があっても私たち以外は外から扉を開けられないようにしておくわ。絶対に内側から扉を開けないで。いいわね?」


と強調した。



***



結局、アリソンはリリアと同じ部屋に案内され、そこで再度「絶対に外には出るな」と念押しされた。


アランが厳重な結界の魔法を掛けた後、アリソンはリリアと二人で部屋に残されて非常に居心地の悪い思いを味わっている。


リリアは最初の挨拶をした後は黙ったまま腰かけているだけだ。


アリソンがリリアに話題を振っても、彼女は木で鼻を括るような態度を崩さない。


アリソンが気まずい沈黙に耐えていると不意にリリアが口を開いた。


「アリソンさんは、ニックやアランの幼馴染なのよね?」

「え、ええ」


「男爵令嬢で王族と幼馴染になるって珍しいわよね?教会の慈善活動で一緒になったって聞いたけど・・・王族と仲良くなれる機会だと思って狙ったの?子供の癖にスゴイわね。したたかっていうか・・計算高いっていうか。ニックには何を聞いてもそれ以上教えてくれない。アリソンさんにも何も訊くなって言うの。なんなの?たかが男爵令嬢の癖に、なんでそんなに特別扱いなのよ?」


こんなに不機嫌そうなリリアの表情は今まで見たことがない。


(訊くなって言われている割にはっきり訊いてくるわね・・・はぁ、答えようがないのよね)


アリソンは内心戸惑いながら慎重に言葉を選ぶ。


「特別扱いかどうか分からないけど、アランやニックより前から私は教会の活動に参加していたわ。王族と仲良くなれるなんて考えてもいなかった。申し訳ないけど、私じゃなくてアランたちに聞いてもらえる?」


「聞いても教えてもらえないからあなたに聞いてるんじゃない?!なんであなただけ大事に扱われてるのよ!?それに、ニックの恋人のふりをするなんてズルい!どうしてよ!?教えなさいよ!」


普段ニックたちと話している時は朗らかで可愛らしい感じなのだが、突然攻撃的な態度を取られてアリソンは困惑した。


「彼らが言わないことを私の口からは言えないわ。ごめんなさい」


頭を下げるアリソンにリリアはチッと舌打ちした。


「あなたはニックのことをどう思っているの?好きなんでしょ?」

「はい。大切な友達です。好きだと思っています」


「恋愛的な意味で?」

「いえ、恋愛的な意味とは言えませんが・・・」


「じゃあ、どうして恋人のふりなんてしてるのよ!もう止めてあげてよ!私はずっとニックが好きだったの。騎士団で訓練している姿に一目惚れして、彼を追いかけて騎士団に入ったんだから!私とニックは結ばれる運命なのよ!あなたが横やりを入れなかったら、もう付き合っていたはずなんだから!私たちの邪魔しないでよ!」


リリアの言葉を聞いてアリソンは胸が締めつけられた。息が苦しい。


(私のせいで・・・ニックとリリアさんの仲を邪魔しているってこと?)


「あの・・・ごめんなさい。お二人のことは全然知らなかったの。ニックは仕事だから構わないって・・・」


「その仕事っていうのも何なのよ!?なんで王子二人が専属の護衛について恋人のふりまでするの?あんたなんてたかだか男爵令嬢でしょ!?何様なのよ!?なんでそんなに大事にされているのよ!?あんただけ特別扱いってズルいわ!」


「ご、ごめんなさい」



アリソンには謝ることしかできない。


悲しくなって俯くと長い茶色の髪がサラリと胸元にこぼれた。カツラの下に隠れているマグが首筋にクチバシをそっと擦り付けるのを感じて、アリソンはちょっと気持ちが慰められた。


「謝るくらいなら、もうニックにつきまとうのを止めてちょうだい!恋人のふりも今すぐ止めて!」

「それはニックたちに相談しないと・・・」


「なによ!生意気な!大体あんたなんて狙う人はいないわよ!なんでそんなに守られてんのか全然分かんないわ!今日だってそうよ。いきなり呼び出されてアリソンを守るようにってこんなところに二人で閉じ込められて。何があっても扉を開くなって・・・王太子直々に魔法を掛けて結界を作るなんて・・・どんだけ特別扱いなの!?もう学校から出て行ってよ!あんたなんて消えたって誰も気にしないわよ!出て行け!!!」


そう叫びながらリリアはグイグイとアリソンの背中を押して扉の方に連れて行く。


絶対に扉を開けるなと言われていた手前、どうしようと困っていると扉の向こう側で女の子の悲鳴が聞こえた。


「誰かっ!誰か助けて!!!」


という悲鳴の後に


「こいつっ!ふざけんなっ!」


という男の声とバシッと殴るような音が聞こえて、アリソンは焦った。


(廊下で誰かが襲われてる!?どうしよう!?でも、扉は開けられないし・・・)


逡巡するアリソンを見てリリアが呆れたように


「誰かが襲われてても助けようともしないの!?酷い女ね!こんなののどこがいいのかしら!?」


と言って、大きく部屋の扉を開けた。




開いた扉の目の前には紫色の髪の男が立っている。


(あれ・・・どこかで見たことある?)


と一瞬アリソンに油断が生じたのかもしれない。その男がアリソンの腕をグッと掴んで教室から彼女を引っ張りだした。


アリソンがたたらを踏んで一歩教室の外に足をつけた瞬間に足元に魔法陣が現れる。


(な、また魔法陣!?)


とパニックになっている間にアリソンは再び魔法陣に引きずり込まれた。


今度は一緒に来てくれるニックはいない。


目の前が一瞬真っ暗になり、アリソンは一人でどこかに飛ばされた。

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