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乙女心?


「おい、アリー、なに怒ってんだ?」

「え!?」


昼休みにニックがリリアと連れ立って消えた日の放課後、アリソンは彼と並んで歩きながら突然言われた台詞に衝撃を受けた。


「私、別に怒ってないよ!」


むしろ、そんな風に疑われたことが腹立たしい、と頬とぷぅと膨らませる。


「・・・そうか?」

「そうよ!」


その後、気まずい沈黙が降りてきたが、アリソンは何を言っていいのか分からない。


ニックはどことなく気恥ずかしそうにポリポリと鼻の頭を掻いた。


「でもさ、アリー、何も話さないじゃん。いつもはもうちょっと口数多いのに・・・。それに、リズから、アリーがリリのこと気にしてるって言われたから・・・」


(リリ・・・!?『リリ』なんて、ニックが愛称で女の子を呼ぶなんて!)


ニックとリリアの近い距離感に、何故かアリソンはガーンと頭を殴られたような気持ちになった。


(そりゃ・・・ニックにだって仲の良い女の子がいても当然だよね。女嫌いって言っていたけど・・・特別な女の子がいておかしくない。バカだな、私。自分がニックと幼馴染だったからって、一番の女友達だと勘違いしてたみたい)


アリソンはふぅっと大きく息を吐いた。ニックは少し頬を赤らめて何かを期待するかのように彼女を見つめている。


「ニックと私が付き合ってるってリリアさんが勘違いしたら申し訳ないなって・・・それが心配だったの。変な態度をとって、ごめんね」


「いや、リリは俺たちが付き合っているフリをしてることを知ってるから大丈夫だ」


ガーーーーン


再度衝撃をくらうアリソン。


(偽装恋愛って極秘事項だと思ってたんだけど、ニックはリリアさんをそんなに信頼してるんだ)


「・・・あ、そっか・・・なにも私が心配することなかったね。ごめん。余計なお世話だった。でも、リリアさんが嫌かもしれないから、もう偽装恋愛なんてバカな真似は止めた方が・・・」

「リリは別に嫌がってないぞ?」


(もう、何回もリリ、リリって・・・)


アリソンは突如悲しくなった。


「アリソン。リリは伯爵令嬢なんだが、子供の頃から騎士になりたいって夢があって、騎士団に見習いで入ってきたんだ。俺にも男友達だと思って欲しいって言ってきたから付き合いやすい。それに騎士団ではリズや俺がずっと面倒をみてきたから・・・」


「そっか~!それで仲良しなんだね!私はニックとちょっと仲良くなれたと思ってたから、リリアさんのことが羨ましいなって・・ちょっとヤキモチ焼いちゃったのかも。ごめんね。でも、自分にそんな資格がないのは分かってるから!あ、そうだ。マグのエサを取りに森に寄っていくから、ニックは先に帰ってて」


出来るだけ明るい口調で言うように心がけた。そうしないと、目から透明な液体が出ちゃいそうだ。『なんでこんなに悲しい気持ちになるんだろう?』と心の中で呟いた。


「俺はお前の護衛だぞ。アリーを一人にする訳ないだろう。森に行くなら、一緒に行くから」

「あ、ありがとう。でも、今日は一人になりたいの。・・・お願い。一人にして」

「ダメだっ!俺は護衛としての仕事を怠る訳にはいかないんだ。それくらい分かるだろう?子供じゃないんだから」


呆れたような口調にアリソンの胸はグサグサと傷ついたが、それを表には出さないように気をつける。


「そ、そうだよね。ニックは仕事熱心だから。ごめんね。分かった。急いで寮に戻ろう」


寮の部屋に戻れば一人になれる。



その後は黙って二人で並んで寮まで歩いた。


ニックが何度も何か言いたそうにアリソンの方を見ていたけど、彼女は気がつかない振りをした。


「ん、じゃあ。また明日」


というニックに


「あ、明日はリズと一緒に学校に行くから、私のこと待っててくれなくて大丈夫よ!ニックもリリアさんと話したいことがあるんでしょ?」


とアリソンは無理に笑顔を作った。


ニックは躊躇していたが


「分かった。アリーがそうしたいなら」


と言って、軽く手を上げるとそのまま去って行く。


彼は一度もアリソンの方を振り返りはしなかった。



***



「ねぇ、本当にいいの?ニックとアリーが別れるかもって噂になってるよ」


ランチを食べながらリズが呆れたように言った。あれ以来ニックを避けて、リズとずっと一緒に過ごしている。


「うん。だって、ニックに甘えてばかりはいられないし。きっとずっと迷惑だったのにニックは優しいから言えなかったんだよね」

「なんでそんな風に思い込んじゃったんだか分かんないけど、ニックは喜んで恋人役やってたと思うよ」

「うん・・・でも」


彼の口からもう『リリ』という呼び方を聞きたくない、なんて子供じみたことは言えない。


落ち込むアリソンにリズは肩を竦めた。


その時、肩の上でピーピーピーと鳴きだしたマグにアリソンは昼食のサンドイッチのハムをちぎって与える。


「それで・・・ニックの代わりのボディガードが鳥な訳?」

「だって、もう大人になったから自然に帰そうとしたんだけど、ずっと離れないんだもの」


アリソンの肩に乗ったマグはハムを食べると満足そうに羽根づくろいを始めた。時折、アリソンの茶色いカツラにクチバシを突っ込んで毛づくろいまでしている様子はとても可愛らしい。


「・・・悪目立ちしている自覚はあるわ」


周囲の生徒たちがアリソンの方を指さしながらヒソヒソ話をしている。


アリソンは、はぁぁぁぁっと溜息をついた。


「ま、いいわよ、アリー。気にしなくて。学長から許可を取ったし、先生方にも通達されているから授業を邪魔したりしない限りは問題ないわ」


賢いマグは、授業中はじっとアリソンの机の上に置かれたハンカチの上で大人しくしている。退屈すると休み時間に窓の外に飛び出して、授業が終わった後に戻って来ることもある。


必ずアリソンのもとに返ってくる黒と白の美しいマグパイは学校でも密かに評判になっているが、貴族令嬢の振舞いとして奇矯であることは間違いない。


「いつも鳥を連れている変わり者の令嬢に近づく男なんていないんじゃないかしら?」

「まぁ・・・・そうね。あっ・・・!しまった!」


とリズが見た方向に視線を向けるとニック、アランとリリアが立っていた。


三人もリズとアリソンに気がついたようだ。


アリソンは慌てて目を背ける。


「ごめんっ。ついっ目が合っちゃった!」


と謝るリズに


「リズが謝ることなんて何もないわ」


とアリソンは笑顔を作る。それがいかにも無理している笑顔でリズは胸が痛かった。


「おい!アリー、リズ!」


ガタンと椅子を鳴らして同じテーブルに座ったのはアランだ。


「俺はしばらく忙しかったから何が起こってるか分かんないんだ。何があった?アリーはなんでニックを避けてるんだ?!」


アランは明らかに苛立っていて、アリソンはなんと答えていいのか分からずに口ごもる。


「・・・あの・・・その・・・」


アリソンの様子が可哀想で耐えきれなくなったのだろう。リズが助け舟を出した。


「アリーの乙女心を分かってやってよ。ニックもニックよ。ずっとリリと一緒じゃない。当てつけなのかって考えたくもなるわよ!」

「乙女心・・・?リリアがなにか・・・?・・・・っと!おい!やめろ!やめさせろ!」


アランが騒ぎ出す。


マグがアランの顔をクチバシで突きだしたのだ。目を狙うので結構怖い。


「マグ。止めなさい。大丈夫よ。私の友達だから」


アランに向かって笑顔を見せると、マグは攻撃を止めてアリソンの肩に戻った。


「スゲーな・・・・怖・・・」


とアランが絶句する。


「それにしても・・・そうか、問題はリリアか?」

「ち、ちがうわ!ニックにだって仲良しの女の子がいてもおかしくないし!私が何か言うことじゃないし!ただ・・・二人の邪魔をしたくないって・・・」


赤くなって俯くアリソンを見て、アランは何故か機嫌が良くなった。


「そうか。分かった。なんとかする」


というアランの言葉にアリソンは焦る。


「なんとかって何するの?ニックに変なこと言わないでよ!お願い!ニックの大事なお友達との仲を邪魔しちゃったら・・・私、申し訳なくて本当に今度こそ修道院から一生出て来られないから!」


それを聞いてアランが思いっきり困った顔をした。


「おい・・・・マジか?なんでこんなに拗れてんだ?」

「こういう時は周りが何もしない方がいいのよ」

「大人だね~!」

「実年齢が高いからね」


とリズが苦笑する。


アリソンはそんな会話を聞く余裕もない。ニックとリリアは一緒に昼食をとるのだろう。二人でメニューを見ながら楽しそうに喋っている。


(どうして、ニックとリリアさんの姿を見ると泣きたくなるんだろう・・・?)


アリソンは内心落ち込んでいるが、アランはもう何も言うまいと決めたらしい。


「アリー。それよりも大事な話があるんだ。リズも聞いてもらいたい」


「なに?」


アリソンは慌ててアランの話に注意を向けた。


「ニックから聞いたんだ。アリーが学院で敵意を向けられているのはアンジェラ・ポートマン嬢なんだろう?だから、コレット嬢との繋がりを調べて欲しいとニックから頼まれた」


ニックは前世やゲームのことを伝えずに上手く説明してくれたようだ。アリソンはホッと胸をなでおろす。


「なにか証拠がある訳じゃないんだけど・・・」


「アリー、心配しなくて大丈夫だ。コレット嬢にアンジェラ嬢に脅されてやったのか?と尋ねてみたんだ。そうしたら、これまで完全黙秘だったコレット嬢が頷いた」


「やったじゃない!アラン、これでアンジェラを捕まえられるでしょ?」


リズが嬉しそうに言うがアランは苦笑して首を横に振った。


「いや、リズ。そんな簡単な話じゃない。曲がりなりにも公爵令嬢だ。コレット嬢が嘘をついている可能性を否定できない以上、もっと確たる証拠が必要なんだ」


「なんだー、残念。アンジェラはアリーを目の敵にして嫌がらせしてたわよ?それも証拠にならない?」


「それじゃ弱いな。でも、リズ。何かアリーの周囲でおかしなことがあったらすぐに知らせてくれ。頼りにしてるよ。アリーも身の回りに気をつけて。じゃ、またな。アリー、リズ」


アランはウィンクをすると立ち上がり、ニックたちと合流するために去って行った。

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