表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/56

魔法陣


この日、森で魔法実習の授業が行われた。


魔物との戦い方を学ぶ実習である。


最後に男女ペアで実際に低レベルの魔物と戦う実戦形式となり、当然の如くアリソンはニックとペアを組むことになった。


ニックと組みたかった女子生徒たちから憎々しげに睨みつけられて、アリソンはますます気分が落ち込んだ。


彼女は先日アランから言われたことをまだ引きずっている。


昔は自分のことしか考えていなかった。修道院に入らないで欲しいといったニックの言葉をどうしてもっと真剣に捉えなかったのだろうとアリソンは反省している。


自分のせいで幼いニックの心に傷がついてしまったのだとしたら、その傷を癒すために出来ることは何だろうと考えた。


傷つけた本人との恋人のフリなんて一番良くないことだろうと中止を申し出たが、ニックに電光石火のスピードで拒否された。


落ち着いて考えたら、仕事に誇りを持ち完璧主義のニックにいきなり『お前はクビだ!』と言わんばかりの言動で、彼の気を悪くしてしまったのは当然だ。


自分の浅はかさ、情けなさに涙が出る。


アランからは


「俺が余計なことを言ったせいだ。すまなかった。ただ、ニックの気持ちを思うなら卒業後も修道院には戻らないと言って欲しかったんだ」


と謝罪を受けた。


アランの気持ちは有難い。彼は強火ニック担だから、ニックが二度と傷つかないように心配しているのだろう。でも、自分が修道院に行くのを撤回したからと言って、ニックの過去の傷が癒せるとは思えない。


アリソンはニックにどう接したら良いのか迷っていた。



同様にニックの態度もぎこちなくなった。


「・・・悪かったな。俺と組みたくはないだろうが、一応恋人役は続いているからな」


というニックにアリソンは必死で首を横に振る。


「私がニックにお願いする立場だから!本当にありがとう!ごめんね。恋人役をアランに頼めればニックに迷惑を掛ける必要なかったのかもしれないけど・・・」


アリソンの言葉にニックの顔が冷たく凍りつく。再会したばかりの頃のニックを思い出した。


「・・・アランだと女子生徒からの人気が高すぎて面倒くさいことになる」


現に今もアランの周囲には多くの女子生徒が群がっていて、彼はあらゆる感情を捨てた埴輪のような表情をしている。


そこに・・・


「やほー!遅れてごめんねー」


明るくリズが現れるとアランの顔が輝いて


「リズ!俺と組んでくれないか?」


と一生懸命手を振った。



リズが苦笑しながらアランに近づくと、女子生徒の怨念の籠った視線が纏わりつくが彼女が気にする様子はない。


(こ、こわ・・・。リズはさすが強いなぁ。私もしっかりしないと)



アリソンは無表情のニックに深々と頭を下げた。


「本当にごめん!私なんかと組まなきゃいけないニックはハズレくじみたいで申し訳ないわ。ニックは優しいしカッコいいし、もっと素敵な女の子の方がお似合いなのは分かってるの。恋人役で優しくしてもらったからって勘違いしないから安心して」


と言うと、彼はまじまじとアリソンの顔を見つめた。


「お前はさ、俺と付き合うフリをする前は色んな男から告白されたじゃん?」

「うん・・」


「スゲーモテてたよな?」

「モテるっていうか・・・(ゲームの強制力のせいだから)私の魅力じゃないと思うの」


「もっと自己肯定感高くてもよくね?誰とも付き合おうと思わなかったわけ?」

「うん・・・」


「昔からそうだよな。お前は一生誰とも恋愛することないって言ってたし」

「うん・・・・」


「だから修道院に行こうと思ったんだろうけど・・・なんでか聞いても教えてくれないし。俺は信用されてないんだなってずっと思ってたよ」


アリソンは慌てた。


「そ、それは違うよ!そうじゃない・・・話しても信じてもらえないと思ったから・・・」

「・・信じないかどうか試してみろよ!」


(だって、前世のトラウマとか・・・幼い彼に言ってもいい話だとは思わなかったから)


心の中で言い訳するアリソン。


(今だったら、ちょっとは分かってもらえるんだろうか・・・?)


眉間に深い皺を寄せるニックに睨みつけられて、アリソンは蛇に睨まれたカエルのように竦んでしまった。


「うん、じゃあ、機会があったら・・・今度聞いてくれる?長い話になるだろうから」


オドオドとそう言うと、ニックは少し目を見開いて僅かだが機嫌が良くなったようだ。



**



その日は、実際に低級の魔物を使った実践訓練を行う予定だったが、準備していた魔物がすべて浄化されて消えてしまい、結局模擬訓練を行っただけで授業は終わった。


学院長、副学長、寮長以外はアリソンが『銀髪の乙女』であることを知らない。彼女の力で魔物が浄化されたことに気がつく教師はいなかった。


「そういえば最近魔物が減ったって噂になってるよな」

「いいことなんだが、訓練用の魔物まで消えてしまうとなぁ」


という会話が聞こえてきて、アリソンは疑われていないことに安堵した。



結局授業は早く終わるようで、生徒たちは担任教師からの指示を待ちながらワイワイと喋っていた。


そんな時に担任教師のエイドリアン・ジョンソン先生(赤毛の攻略キャラ)が


「おい!ニック、ちょっとこっちに来てくれないか?手伝って欲しいんだ」


と声を掛けてくる。



「あ!?他の生徒に頼んでもらえますか?」


面倒くさそうにニックが返事をした時に、アリソンの肩をちょんちょんと叩く生徒がいた。


「あの・・・アリソンさん。実はお話があって・・・」


振り返るとクラスメートのコレット・ウィリアムズ子爵令嬢が所在なげに立っている。


クルリと跳ねる緑色の髪の毛が可愛らしいが、大人しい女子生徒でアリソンとはこれまで挨拶程度しか交わしたことがない。


そんな彼女が緊張した面持ちで話しかけてきたのでアリソンは驚いた。


「どうしたの?」

「あの・・・ここだとちょっと。二人きりで話がしたいの」

「分かったわ。ニック、ちょっと行ってくる。ニックは先生に呼ばれてるでしょ?」


ピッタリと付いてこようとするニックに一言声を掛けると


「ダメだ」


と手袋越しに腕を掴まれた。


「大丈夫よ。すぐそこだから。ほら、ジョンソン先生が睨んでるわよ」


実際に先生が「おい!ニック!早く来い!」と怒鳴っている。


アリソンは優しくニックの手を振りほどいてコレットの後についていった。





アリソンが数メートル離れた大きな木の陰に来た時


「アリソン様っ!ごめんなさいっ!」


というコレットの声と同時に足元が光るのが分かった。



(・・・・魔法陣?!)



と思った時にはもう遅い。



体中が痺れたような感覚になり動けなくなった。



「アリソン!!!!」


というニックの声と共に腕を掴まれる感触がして、アリソンは意識を失った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ