アンジェラの独白 ~ あら、悪役令嬢ってヒロインのことでしょ?
私はアンジェラ・ポートマン公爵令嬢。
悪役令嬢である。
私には前世日本人としての記憶があった。
前世で散々やり込んだ乙女ゲーム『カラー・ソワレ』の悪役令嬢に転生したことが分かった時、私は狂喜乱舞した。
だって、悪役令嬢って実質ヒロインだよね?!
だってだって、ヒロインを差し置いて一番幸せになるのは悪役令嬢だってラノベは山ほどあったよ。
悪役令嬢モノのお話では、本来のヒロインは負けヒロインとしてざまぁされる展開が多い。
うふふ。そして悪役令嬢はヒーローたちに溺愛されるのよ。
どんな展開になったとしても私の勝ちは決まっているの。
だって私は悪役令嬢なんですもの!
それに見て!
私は公爵令嬢。人目を惹く真紅の髪。高位貴族の大金持ちのお嬢さま。そして、超絶ナイスボディの美女に生まれ変わったんだから。
地位も名誉もお金も美貌もスタイルも。欲しいものを全て手に入れた存在なのよ!
お父さまは幼い頃私を王太子のアランと結婚させようとしたわ。
ふふ。攻略キャラのイケメンね。
顔合わせでお茶を飲んでいる時、アランは言ったわ。
「僕は、努力をする女性が好きです」
「まぁ、偶然ですわね。私は努力が大好きですの」
「・・・・立場の弱い者に居丈高に振舞うような女性は嫌いです。誰に対しても優しい女性がいいですね」
「まったく同感ですわ。だから、私は使用人にも親切にしています。ねぇ、マリア?」
たまたま熱いお茶の替えを運んできた侍女のマリアに声をかけると、彼女は真っ蒼な顔になってオドオドと頷いた。しかも、指が震えている。
なんなのかしら?!この子は!
せっかく顔とか目につくところには傷をつけていないのに、そんな態度だと私が折檻していることがバレちゃうじゃないの。
苛立ちを隠しながらも
「ねぇ。私は良い主人じゃない?」
と念を押すと、マリアは熱心に頷いて
「誠にその通りでございます」
とはっきりと宣言した。
しかし、王太子アランの顔色は優れない。どことなく疑わしそうな視線に居心地悪く感じる。
その後、結局王太子との婚約は成立しなかったという報告をお父さまから受けた。
なんてラッキー!
多くの悪役令嬢モノではみんな婚約を回避するために努力していたのに、私は何もせずに婚約せずに済んだ。
婚約破棄からの断罪もなくなるってことだものね。うふふ。予定通りだわ!
そして、マリアはいつの間にか屋敷を辞めていた。お父さまによると転職したそうだが、虐めがいのあるオドオドした女がいなくなって私は苛々とお父さまに抗議したわ。
私に甘いお父さまは、はぁっと深い溜息をつく。
「お前・・・侍女を虐めるのはもう止めろ」
「あら、虐めるだなんて、そんなことをしていませんわ。躾をしているだけですもの」
「・・・お前にはもう侍女はつけられないな」
「あら、そうしたら私の身の周りの世話はどうしてくれますの?」
「男の方がいいか?屈強な男なら身を守れるだろうしな」
「まぁ、お父さま。嬉しいわ!でしたら若い美男子をお願いします!」
お父さまのおかげで私の世話をするのは若いイケメンになったの。
もちろん・・・世話って色んな意味の世話が含まれているわ。うふふ。
処女なんて守るほどの価値はないわよ。
前世でも三股交際くらいは普通にしてたしね。
それに、いざ結婚ってなった時に処女じゃなくたってバレっこないわよ。痛がる演技さえしておけば男なんて簡単に騙せるわ。
私は思うままの人生を満喫し魔法学院に入学した。
・・・・が、一緒に入学するはずの負けヒロインが見つからない。
悪役令嬢の私に恐れをなして逃げたのかもしれないわね。
それにオリジナルとストーリーがズレればズレるほど、悪役令嬢の私に有利になるはず。
最終的に私がヒロインになるんだから!
私はほくそ笑んだ。
ただ、攻略キャラの中でも一番色気があって美形のニックや、華やかな美男子のアランはゲームとは違って恋愛に興味がなさそうでつまらない。
彼らは女嫌いで通していて、女子生徒から話しかけられてもほとんど無視。
私も色仕掛けで迫ってみたけど全然反応しなかった。機能してないのかしら?と思うくらいだった。
でも、赤髪の教師エイドリアン・ジョンソンや黄色い髪の下級生ドミトリー・エヴァンズとは何度も逢瀬を楽しんだわ。
あー、楽しい!
ヒロインのいない学院生活。サイコーーーー!
と思っていたのに・・・。
何故か最終学年になって、突然ヒロインが転校してきたの。
しかも、カツラなんか被って変装して。
アリソン・ロバーツ男爵令嬢がヒロインの銀髪の乙女であることは明らかなんだけど、何故かそれを隠したいらしいのよね。
彼女が『銀髪の乙女』だってバレちゃうと、この女がモテちゃうから絶対に言うつもりないけど、何のために素性を隠しているのかしら?
ああ、目障りだわ。
あの女は超ナイスバディな上にフェロモンが凄いのよ。あれは・・・絶対に処女じゃないわね。男慣れしてるわ。ものすごい遊んでいないとあんなフェロモンは出ないわよ。悔しい!
それなのにニックと恋人同士ですって!一番のイケメンよ。私のタイプだったのに!
まぁ、でもこの世界では黒髪なんて魔力もない、出世もしないし、役立たずだからね。
絶対に逆転勝利してやるわ!
アランだって私に恋焦がれるようになるはずだもの。
だって、私は悪役令嬢なんだから!