独白 ~ 私の前世
私は男が大嫌いだ。
小学校の時にはクラスメートの男子にしつこくいじめられた。
中学校一年の時には学校からの帰宅途中に襲われそうになった。悲鳴を聞きつけた通りすがりの人に助けられたが、これが決定打となり私は男性恐怖症になった。
襲われそうになった事実を面白おかしく脚色されSNSでも心無い噂が流された。さらに学校でのいじめも始まり、周囲から好奇の目で見られることに耐えられなくなった私は登校することが出来なくなった。
最初はそれを許してくれた家族だったが一年も過ぎると焦りの色を見せ始め、世間体を心配した両親は私を海外に送ることに決めた。
私はオーストラリアにある戒律の厳しいキリスト教系女子高の寄宿舎に入り、ようやく心の安寧を得ることが出来た。そこでは教職員も全員修道女だったのだ。
卒業後はそのまま修道院に入り修道女になりたかったのだが、両親はそれを許さなかった。私は日本に戻り女子大学に進学した。
しかし、周囲の女子たちは恋愛を楽しむ友人ばかりで、私のような存在は異質だった。
「彼氏つくんなよ~。楽しいよ~。ね、今度合コンいこ?」
「〇〇くん、あんたに気があるみたいだよ」
「先週、告白されてたよね?なんで断っちゃったの?勿体ない~」
余計なお世話としか言いようのない助言を無視し続けること約二年。
私の二十歳の誕生日に悪友たちがプレゼントしてくれたのが、いわゆるR18の乙女ゲームだった。
「それでちょっと免疫つけた方がいいよ~。一生結婚できないよ~」
『銀色の伝説:カラー・ソワレ』という華やかな少女漫画のようなパッケージに包まれたゲームをプレゼントされ、まったく知識のなかった私はプレイを開始して飲んでいた紅茶を噴き出した。
うぎゃーーーーーーーーーーー!!!と思わず叫んだ。
これがカルチャーショックというものか・・・?
様々な『何故?』がそこにはあった。
何故、そこで始める?
何故、ヒロインはそれを喜ぶ?
何故、誰も気がつかない?
負けず嫌いな私は、最低でも一回は終わらせなければという変な使命感に駆られて、必要に応じて視線を画面から外しつつ、ゲームを終了した。
・・・・・・・心底、疲れた。
とても・・・とても・・・衝撃的で、私の恋愛に対するトラウマはますます高まった。
あのゲームをした後ではキスすら恐怖の対象である。
***
その後、悪友たちの意図とは真逆の方向に私は突っ走っていくことになる。
私は必死に働いてお金を貯めオーストラリアに戻り大学院に進学した。そして、環境生物学の修士号を取得した後、パーク・レンジャーという仕事に就いた。
パーク・レンジャーとは人里離れた森の中で生活し、自然環境を守り、たまに来る観光客を案内する仕事だ。
所属していたレンジャーのチームは私を入れて三人で、残りは男性二人だったが彼らはラブラブのゲイカップルだったおかげで私は安心して暮らすことができた。
自然の中での生活は私に合っていたし、仲間の二人はたまに目のやり場に困ることはあるものの気の良い連中で、私は外界とほとんど接触することなく楽しい生活を送っていた。
しかし、ある日私は自然災害の対応中に事故で死んでしまったのだ。
男を避け続け三十歳まで彼氏いない歴=年齢を貫き、事故で早死にした私は、ご存知の通りR18の乙女ゲーム『カラー・ソワレ』の世界にヒロインとして転生してしまった。
これは、恋愛どころかヘテロセクシャルな男性とは碌に喋ったこともないまま三十年を過ごした女が、転生した世界でひたむきに貞操を守るために戦う物語である。