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国王とアラン

*アリソンがまだ修道院にいる頃の二人の会話です。意味の分かりづらい会話が含まれていますが、後になって事情が判明します(#^^#)。気長に読んで頂けると有難いです(*^-^*)。


「アリーのいる修道院にまた侵入者があったそうですね?」


息子である王太子アランの声を聞いて、国王は顔を上げた。


「アランか・・・ちゃんとノックをしろ」

「しましたよ。それにちゃんと開けてもらいました」


傍らにいる侍従に会釈すると、国王付きの侍従は深くお辞儀をした。


「ああ、そうか。悪かったな。集中していると周囲が見えなくなるようだ」

「お疲れですね」


「まぁな。最近問題が多い。外国の人身売買組織が国内に入り込んでいるらしい。さすがに白には手を出さないようだが、原色の髪色の人間が狙われる事件が起こっている」

「この国の結界を超えて?!不可能でしょう?」


「それが・・・手引きをする者がいるようだ」

「手引きと言っても結界の詳細を知っている人間は限られているはずです!」


「ある程度の魔力があれば、魔法陣を使って人間を転移させることが出来る。港に転移させて、そのまま船に乗せて攫って行くらしい」

「入港が許される外国商人は限られています。彼らを調べれば・・・」


「そう簡単にはいかない。これまでも船内の捜索は何度も行ったが何の証拠もつかめていないんだ」


国王は深く溜息をついた。その顔には深く疲労の皺が刻まれている。


「その人身売買組織がアリーを狙っている可能性は?」


アランの顔にも剣呑な表情が浮かぶ。


「可能性は大いにある。『銀髪の乙女』は外国でも知られているからな」

「やっぱり・・・修道院の警護を増員して・・・」


「男は修道院の内部に入ることができない。それが警備のネックになっているようだ。女性騎士の数は少ないからな。不法侵入が増えたのは銀髪の乙女が修道院に入ってからだ。狙いはアリソンで間違いないだろう。彼女の存在は秘匿しているが、どこからか漏れている。彼女には一度あの修道院を出てもらった方が良いかもしれん・・・」

「修道院を出る・・・?」


アランが呟いた。


「父上。それはいい考えですよ!アリーは人生の決断をするのが早すぎたと今でも思っています。還俗してもう一度考え直す機会を与えたらどうでしょう?」

「うむ・・・。ただ、枢機卿が彼女に入れ込んでいるからな」


「ニックは彼女が修道院に入って以来酷い状態です!俺は弟の苦しむ姿をもう見たくありません!」

「お前は・・・・本当に兄バカだな。そんなにニックが可愛いか?」

「可愛いですよ!世界一可愛い弟です。可愛い弟を傷つけたアリーは絶対に許せません。・・・それなのにニックを救えるのは彼女だけのような気がして腹立たしいのです!」


国王は眉間の皺を揉みながら、再び溜息をついた。


「今回の銀髪の乙女はこれまで文献で記されてきた乙女とは違う。前例のない事件ばかり起きる。おまけに黒髪の王子だ。なんでまた儂の代にこんな面倒くさいことが起きるのかのぅ・・・」

「ニックは何も悪くありませんよ。悪いのはアリーだけです。あんなに純粋で可愛くて優しくて完璧なニックを何故平然と捨てることができるのか?まったく・・・冷血女と呼びたくなりますよ」


「お前はアリソンと仲が良かったんじゃないのか?」

「もちろん、親友だと思っていましたが・・・ニックを傷つける者は何人なんぴとたりとも許しません」

「兄バカめ・・・」


国王はふっと苦笑した。


「そうだな。枢機卿は儂が説得しよう。魔法学院に呼び戻すか。あそこの警備は国内でも最高峰だ。寮に入って、お前とニックで護衛をすればいい。思いがけない魚が釣れる可能性もある」

「父上っ!ありがとうございます!」


「なんとかニックが彼女を口説き落とせたら儂らの勝ちじゃな」

「俺も協力しますよ。ニックならもっと素晴らしい女性だって望めるのに・・・・。でも、ニックの気持ちが一番大切ですからね!」


アランの開けっぴろげな笑顔にさすがの国王も呆れた。


「喜ぶのはまだ早い。恐らくだが王宮の中枢か・・・どこかに裏切者がいる。外国と内通しているのだろう」

「つまりアリーが狙われる可能性があるということですね?高位貴族が人身売買組織と通じていると?」


「高位貴族に限らん。原色でなくても魔法陣くらいは使えるからな。茶色以外は全員怪しいと言ってもいい」

「王家に忠誠を誓った貴族たちの中に人身売買なんて下劣な犯罪に手を染める者がいるのかっ!」


「それに売買するのは人間だけじゃない。魔物を売り買いする商人もいる」

「っ!なんですって?外国に魔物を売ると・・・?」


「魔物が武器になると勘違いする愚か者がいるのだろう。そのせいで犠牲者も出ているようだ。魔物をコントロールする道具として魔力の高い人間を誘拐しようとしているのかもしれない。帝国は必死で隠蔽工作をしているらしいがな」


「帝国が!?まさか帝国が犯罪に関与している可能性は?叔父上だってまだ戻ってきていない。我々との締約はどうなるんですか!?」


「分からん。ノアは・・・出発してからもう一ヶ月経つ。考えたくないが最悪の事態も想定すべきかもしれんな」


「叔父上がっ!?まさか、あんなに強い叔父上に何かあったとでも・・・?」


「分からん。ノアとアリシアが同じ世界に存在する。そして、ニックの黒髪だ。儂にはこれが未来へのお告げのようにも思える。王家はずっと髪色を保持するよう腐心してきたが・・・方針を変える時が来たのかもしれん」


国王は皮肉な笑みを浮かべる。


「父上。帝国が裏切ることはあり得ると思いますか?」

「なんでもあり得る。相手には相手の言い分があるんだろう」

「まったく・・・内憂外患とはこのことですね。でも、俺は叔父上を信じています。絶対に戻ると約束してくれました」


国王がハハと乾いた笑い声を立てた。アランは話題を変える。


「枢機卿はなんと言っているんですか?」

「なにも・・・・帝国との関係は良好だと言っている。誘拐事件と帝国は関係ないと」

「でも、父上はそれを信じておられないのでしょう?」

「まぁ、そうだな。儂は疑い深い」

「国王としてはその方が良いと思います。それより枢機卿の芳しくない噂を聞きましたよ」


国王が今度は眉を顰める。


「・・・・放っておけ。儂らには関係ない」

「しかし!万が一被害者が・・・」

「大体・・・被害者がいるかどうかも分からん。分からないものは分からないままにしておいた方が良いこともある。パンドラの箱は開けるべきではない。もちろん、訴えがあれば真摯に受け止めるつもりだがな」

「それを聞いて安心しました。いずれにしてもアリーを呼び戻すのは良い考えだと思います。今のままだとアリー自身が危ない。辺鄙なところにある修道院は警護にも限界がある。ニックのためにもどうか宜しくお願いします」


キチンと九十度にお辞儀をしてアランは国王の執務室を後にした。



***



(まったく・・・銀髪が現れた途端に大騒ぎだ。本当に国にとって吉兆なのか?叔父上のことを信じてはいるがやはり心配だ)


アランの叔父であり、国王の年の離れた弟であるノア・ランカスターは一ヶ月ほど前に使命を受けて旅立った。


(でも、数か月はかかるかもしれないと叔父上は言っていた。そのための準備もしていたはずだ)


アランは不安を脳の片隅に追いやった。どれだけ心配してもアランに出来ることはない。


(それよりアリソンが戻って来る)


アリソンが修道院に入った頃のニックを思い出して、アランは苦々しく唇を噛んだ。


ニックがアリソンに恋していることは誰が見ても明らかだった。アリソン以外は。


確かにアリソンは美しい。魔力も強く頭も良い。真面目な努力家で信念を守る姿は好ましいと思う。


昔、一過性のものだったがアランもアリソンに惹かれた時期があった。


しかし、彼にとってはニックの方がずっと大切な存在だ。


アリソンへの思いはお湯をかけた雪だるまのように儚く消えた。


アランは重度のブラコンなのである。


ニックがアリソンを見つめる真っ直ぐな瞳が尊いと密かに涙したこともある。


それなのにアリソンは平然とニックを捨てて修道院に入った。


なんて残酷な女か!?


ニックにはもっと相応しい女性がいるはずだと清楚な令嬢を紹介したこともあるが、ニックはアリソン以外の女性にはこれっぽっちも関心を持たなかった。


ひたすらアリソンを想い、恋焦がれ、苦しみもがく弟の姿を見るのは辛かった。


何年経っても褪せることのないニックの恋心にもう一度チャンスを与えてあげたい。


さりげなくアリソンの還俗を促すよう何年も国王に示唆し続けた。


ついに国王が動きアリソンが修道院から出ることになりそうで、アランは冷徹な美貌の下で密かに胸を踊らせていた。


(ようやく!ようやくだ!ニック、今度こそアリーを捕まえるんだ!)


アリソンが修道院を出ることが決まった時に、アランはニックのためならどんな協力も惜しまないと心に誓った。

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