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およそ二百年前、日本は深刻な少子化・人口減少問題に直面していた。政府はあらゆる政策を講じて対策を打ってみたもののどれも上手く行かず、人口減少に歯止めをかける事が出来ないでいた。
万策尽き、将来予測で日本人が消滅するとまことしやかに話されるようになった頃、一人の科学者がそれを覆す画期的な論文を発表した。
「最適配偶者自動選別システム」と呼ばれるそれは、まだ母親の腹の中にいる胎児のうちからDNAを摂取し、将来妊娠の確率が高い遺伝子の組み合わせを胎児のうちから絞り込み、十八になる年にその中でも特にDNAの相性が一番いい者同士を選出し、配偶者として正式に認定し伴侶とさせる、というものだった。発表当時あまりにもセンセーショナルなそれは世間を巻き込み賛否両論の嵐を巻き起こしたが、その論文の信憑性の高さと、そんなものに縋る事くらいしか策の無くなっていた当時の政府は、それを導入する事に踏み切った。
ある議会で、
「それは人間として倫理的に問題があるんじゃないのか?」
と問われたその科学者が、
「何を言っているんですか。遺伝子レベルで相性が良いだなんて、まるで運命の赤い糸で結ばれているみたいじゃないですか」
と、古代より伝わる言い伝えに準えた事から、今では「最適配偶者自動選別システム」は、通称「赤い糸」と呼ばれている。