大工
大工の棟梁と見習が作業をしている所に、その家の施主がやってくる
主 「やってるなー。」
見習「おぉ。何だ、来たのか。」
棟梁、やり取りに気付き、見習を嗜める
棟梁「こら!いくら、こちらがお前の幼なじみだからって、その口の聞き方は何だ!」
施主、手を左右に振った後
主 「棟梁、いいんですよ。俺らはこれくらいの時から色々悪さをやってきた仲なんですから。」
棟梁、笑い声をあげ
棟梁「ははは、そりゃ、こいつは悪かったでしょうね~。」
見習、照れ笑いをしつつ、施主を指差し
見習「まあ、俺は小さい頃から悪さをしましたけどね。けど、結構こいつもヤンチャだったんですよ。」
棟梁、意外そうに
棟梁「え!それは意外だな~。」
見習、楽し気に
見習「いや、ほんとですって。昔、野球のボールで、近所のおじさんの盆栽を壊したことだってあるんですから。」
棟梁、ん?という顔になる
施主も懐かしそうに
主 「あの時はお互い、イササカさんに、こっぴどく叱られたよな~…。」
棟梁、書類をガサガサやって
棟梁「あれ?お名前、磯野さん…でしたっけ?」
施主、首を横に振り
主 「いえ、違いますよ。」
「ナカジマです。」
棟梁「そっちかい!」
施主、腰に手を当てて家を見る
主 「しかし、あの磯野が大工になって、俺の家を建ててくれるなんてな~…。」
棟梁、見習に向かって
棟梁「え!お前、磯野だっけ?」
見習、感慨深げに
見習「まだ棟梁に言われた事をやるだけの、半人前だけどな。」
施主、思い出したように
主 「あ、そうだ。今日は土産にロールケーキを持ってきたんだよ。」
棟梁、恐縮しつつ受け取る
棟梁「こりゃ~…わざわざ、すみませんね~。」
そして、それを見習に渡して
棟梁「おい、これを切ってくれ。折角だし、今から皆で食べよう。」
見習、サッと包丁を出すが、そこで動きが止まってしまう
しばらくしてから、棟梁の方を向いて
見習「すみません、棟梁。これ、切る方向って縦っすか?横っすか?」
施主と棟梁、目を見開き
主 「縦!?」
棟梁「バカ野郎、ケーキってのは横に切るに決まってるだろ。」
見習、手を水平に動かす
棟梁、ウンウンと頷いた後に、からかう調子で
棟梁「お前、ほんとに切れんのか?」
見習「俺、一人暮らしで自炊もしてるんすよ。魚だって三枚に下ろせるんですから。」
棟梁「ほ~。そいつは凄いな。」
まだ話を続けようとする2人に、施主が割って入り
主 「待て!俺を置いていくな。」
2人、ん?となる
主 「横ってのは、その方向じゃないぞ。横ってのは輪切りのことだから。」
見習「あ、そうなんだ。だったら、最初から言ってくれなきゃ。俺は、輪切りにするのは得意なんだよ!」
棟梁、大笑いして
棟梁「確かにな~!」
主 「ケーキ切るのって、そんなに難しい事か?」
棟梁、フォローのつもりで
棟梁「こいつ、私が指示しないと、全然ダメなんですよ。この前も、大黒柱になる木を柱にするために切っとけって言ったら、こいつ、真っ二つにしちまったんですよ。」
施主、目を見開き
主 「あ…あの、拘りの…あの柱をですか?!」
見習、大笑いして
見習「そうなんだよ。おかげで家が傾いて、大変だったんだから。」
主 「お前、笑ってる場合か!」
見習「大丈夫だって。しっかりボンドでくっつけたから。」
主 「大丈夫かな、ここは…。」
棟梁、2人の間に入り
棟梁 「それに関しては、こんな奴に任せてはおけません。私が、しっかり繋ぎますから。」
見習、ドヤ顔で
見習「棟梁の技は、ほんと凄いんだぜ。釘なんか1本も使わずに、古い柱と新しいやつを繋げちまうんだから。」
施主、ほーっと感嘆して
主 「それ、テレビで観たことがあるかも。たぶん、ジャニーズの人がやってましたよね。」
見習「いや、その人は、もうジャニーズじゃないな。」
主 「お前が冷静にツッコむな!」
棟梁、また二人の間に入って
棟梁「まあまあ。兎に角、ここは私に任せて下さいよ。」
見習、尊敬の眼差しで
見習「棟梁の腕はすげーもんな~。俺も、あれだけのボンドを自在に操れるようになりてーや!」
主 「結局、ボンドかい!」
棟梁、膝を叩いて
棟梁「さあ、そろそろ作業に戻るぞ。」
見習、しぶしぶという感じで作業に入る
棟梁、見習の作業を見て
棟梁「おい、その線は谷折りだろが!何、山折りしてんだ!」
施主、訝しげに呟く
主 「山折り?谷折り?」
施主の呟きに被せるように
棟梁「のり付けの所には、しっかりボンドを塗らねーか!こら!はみ出してんじゃねーよ!」
主 「俺の家は、雑誌の付録か!」