三
数日後。
僕は結局、冒険に出る覚悟はできず、この猫CAFÉに定住することにした。やっぱり、ここが絶対安全だからね。
しかし、だからといって、一生猫CAFÉにこもったままというのも面白くない。
そこで、とりあえず、散歩に出かけることにした。
拓人が、見送ってくれる。
「気を付けてね。ここを出ると、人間がうじゃうじゃいるから。特に猫は、今一番狙われやすい生き物だしね。
それから、道に迷わないようにするんだよ。ここは、少し分かりにくい場所だから。」
拓人はとても心配してくれるね。
まあ、少し散歩に出るくらいだ。大丈夫だろう。
僕は、「散歩ぐらいなら・・・・・・」と僕の考えに同調する者共、二十数名を引き連れて、猫CAFÉを出た。
猫CAFÉの中でゴロゴロしておくのも安全でいいけど、マンネリ化して飽きる。
一方外は少し怖いが、解放感があり、新鮮さがあって良かった。
そう、僕がまだ野良猫だったころ思い出すような光景である。
・・・・・とはいえ、僕らは一度人間に捕まったことがある身だ。
最初は建物を離れるだけでも、ビクビクしていた。
他の猫達を見ると、みんな僕と同じ気持ちなのか、少し震えていた。
それなら、と思って、まずは建物周辺をぐるりと一周した。さすがに、猫CAFÉの加護が外にもやや漏れているのか、ここら辺にはまだ人は来ない。
お、案外いけるんじゃね。
他のみんなを見ると、さっきまでの恐れていた雰囲気はどこへやら、みんな余裕綽々という表情だった。
そんな感じで、調子に乗った僕たちは、もう少し広く一周回った。
そう、いつの間にか、僕らはだいぶ遠くまで来てしまったらしい。猫CAFÉの位置が分からなくなった。
・・・怖い。
他のみんなを見ると、余裕綽々の表情が嘘だったように、みんな真っ青になっていた。
今僕は、自分自身の顔を見ることはできないが、おそらく他とさほど変わらないだろう。
その時、僕らの頭上から声が聞こえてきた。
「お、猫じゃねえか。」
「おいおい、この食糧難時代、なんで猫がこんなにいっぱいウロウロしてんだ?」
「こんなもの、食べてくださいといっているようなもんだろ。ちょうど、今空腹なんだ。」
「いや、ここはあえて、高額で企業に売るってのもいいんじゃないか。そうすれば、俺達の懐にめっちゃ金が入るぜ。」
・・・・・・最悪だ。
上を見ると、何人かの人間が舌なめずりしていた。
どうする。
考えろ、考えろ・・・・・・
どうすれば、犠牲を出さずに、ここから離脱できる?
と、僕がこう考えている間に、すでに猫が何名か捕まったり、齧られたり、銜えられていたり、完食され切っていたりしていた。
ダメだ。
このままだと犠牲が増える一方だ。
僕の命とて、安全とは言いがたい。
人間の人数を把握しろ。
・・・・・・四人か。
一方こちらの数は?
やや数は減って、十数名か。
・・・・・・よし。
「お前ら、よく聞け。人間は個々の力は強大なので、このままでは我々は、全滅する恐れがある。しかし、現在、敵側には欠点がある。それは数の少なさだ。見たところ敵は四人、一方こちらは十名以上だ。それゆえ、今から四方八方に分散し、敵を一人ずつに割く。そこからは何とかして、猫CAFÉまで辿り着け。そうすれば、まだ何名かは生き残れるかもしれない。よし、言い出しっぺとして、僕が人間共を突破しよう。その隙に、ここからできるだけ離れるのだ。」
なんと無茶な作戦だ。
何とかして猫CAFÉに辿り着くなど、不可能に等しい。
それでも・・・・・・やるしかない。
ちなみに猫達は皆、出身地が別々だ。
そのため、僕の言葉も彼らには伝わらないだろう。
「おっしゃー、やってやろうぜ。兄貴、ついていきます!」
「そうね。この作戦なら、誰かは生き残れるかもしれない。ひょっとしたら、私だって。」
「人間共を殲滅してくれるわ。」
お、みんな、意気よしといったところか。
それじゃあ、作戦通り――――――
まず僕が突然、回れ右して、人間共の方へ向かって走り出す。
「おい、一匹こちらに向かって突進してくるぞ。自殺志望か。」
四人が同時に僕らの方へ目を向ける。
その隙に・・・・・・
次の瞬間、猫達がみんな四方八方に走りだした――――――
人間共は、僕に気を取られていて、まだ気づかない。
猫達がだいぶ離れたころ。
一人の人間がようやくこのことに気がついたようだ。
「しまった。この猫に気を取られて、他の猫があんな遠くに。」
「そんな。猫にこんな知能があったのか。」
何を言っているのやら。猫に知能があるわけないだろ。
これはすべて、偶然の産物だよ。
ちなみに僕は、人間の言葉を理解することはできない。
さあ、あとは賭けだ。僕が猫CAFÉに辿り着けるかどうか・・・・・・
思い出せ!!猫CAFÉまでのルートを。
人間に追いつかれないように、ただひたすら走る。
捕まらずに逃げ切る一方で、思考はすべて猫CAFÉの位置特定に捧げる。
今この一瞬、一瞬が、僕のこれからの生涯に関わっている。
人間の手が、僕に微かに触れる。
まだだ、まだ死ねない。
とにかく走れ!
体力が残っている限り走れ!
僕の意識が戻った時には、すでに猫CAFÉの中で保護されていた。
拓人が、僕が目覚めたのを見て、声をかけてくれる。
「お、気がついたかい。まったく、びっくりしたよ。何やら外が騒がしいと思ったら、人間に追いかけられているところを、君が必死に逃げてきたんだから。ああ、人間の方は大丈夫だよ。俺がちゃ~んと始末しておいた。しかし、人間を倒したと思って、改めて君を見たら、ぐったりと倒れていて・・・・・・ まさか死んだのかと思って、慌てて抱き上げたら、ただ気絶していただけだったみたいなので、安心したよ。」
どうやら僕は、少しの間意識を失っていたようだ。
今はもう猫CAFÉのソファーで、安静にしているが。
ちなみに僕は、人間の言葉を理解することはできない。
まわりを見ると、散歩に行かなかった猫達が、僕を見上げている。
それにしても・・・・・・今回は本当に大変な目にあった。
もう二度と、猫CAFÉからは出ない、と心に誓ったのである。
ちなみに・・・・・・僕と共に散歩に行った猫達は、一名たりとも、猫CAFÉへ帰ってくることはなかった。




