二
まるで、今から熾烈な攻防が始まるかのように言ったが、実際は工場側の惨敗であった。
この青年は、一人で工場にいた人間全員を制圧し、工場に隔離されていた猫全員を助けたのである。
ちなみにその工場は、翌日倒産した。
一方我々猫は、この青年に連れられて、S区の、とある建物に入った。
古びたビルだが、中にある一室に入るとまた違った光景が見られた。
一番奥にベッド、それからソファー、テーブルといすが数組、そして中央には正方形の机があり上には地図が広がっていた。
しばらくすると、我々を救ってくれた、青年が話始めた。
それにしても、僕ら猫は、人間の言葉を話すことはもちろん、理解することすらできないのだが、そこら辺はどうなっているのだろうか。しかし、この青年は、それを気にする様子はない。
「俺の名前は上東拓人だ。そして、ここはいわゆる『猫CAFE』という場所だ。俺はここで店主をやっている。」
猫カフェ・・・・・・僕も人間に捕まる前、まだ野良猫だった時に、『カフェ』という言葉を覚えた。
しかし、猫CAFEとはどういう意味だろう。
猫がいるCAFE?まあ、確かに今我々は、ここに存在している。
猫が入っていいCAFE?つまり我々がここをこれから出入りすることが許されるというわけか。これならいいな。
しかし、猫を食べるCAFE?なら話は違う。それなら、工場にいるのと同じじゃないか。
拓人は話を進める。
「君の最初の想像通りだよ。ここは昔から、猫がくつろげるカフェとして営業している。他の人間と違って、決して君達を食べるということはしないから安心してくれ。
しかし、確かに今も普通の意味での猫カフェとしても営業しているのだが、数年前より、この国で猫が食べられるようになってから、もう一つ、大きな役割ができた。そう、猫の保護・防衛だよ。
その時より、猫CAFEというのは、このようなものの略称とするようになった。
それは・・・・・・
猫
Conservation(保全)
Action (活動)
Fighting (戦闘)
Executioner (実行員)
略して猫CAFÉさ。
おもな活動は、君達のように虐殺される猫の救出、けがをしている猫の保護、病気の猫の治療などだ。俺はS区の猫CAFEの司令官、および全国の猫CAFEの代表でもあるんだ。」
なるほど。我々を守ってくれるというわけか。それはありがたい。
拓人は付け加える。
「同じような目的で存在している機関として、犬CAFÉや鶏CAFÉ、豚CAFÉ、牛CAFÉ、羊CAFÉ、猪CAFÉ、魚CAFÉ、鴨CAFÉ、鳩・烏CAFÉ、コアラCAFÉ、カンガルーCAFÉ、カエルCAFÉ、カブトムシCAFÉ、クワガタCAFÉ、セミCAFÉ、ゴキブリCAFÉ、蚕CAFÉ・・・・・・など様々なものがある。保護する対象が違っても、思いはみんな同じだ。」
ふむふむ、話を聞いて、なんとなく分かってきた。
まあ先ほども言ったが、我々猫は、人間の言葉を話すことも理解することすらできないが。
すると拓人は、突然僕と目が合うように向き合い、話かけてきた。
「君は・・・・・・確か、俺が一番最初に助けた子だよな。そうそう、普通の人間共は、猫をそれぞれ見分けることなどできないのだけれど、俺には君達一人一人の違いが分かるんだ。
そうだ!君には、俺が一番始めに助けた子だということで、記念に名前をつけよう。本当はみんなにつけてあげたいところなのだが、なんせ毎日、数百数千の子達を救っているから、全員につけるのは不可能なんだ。・・・・・・それで、君の名前だけど・・・・・・『権太』なんてどうだろう。いや、気に入らなかったら忘れてくれていいよ。」
まわりの猫の羨望と嫉妬の視線が、僕に向けられた。
それにしても、権太か。いい名前だ。気に入った!
それで、僕らはこれからどうすべきなのだろう。
「君達は自由だ!!もう君達は、人間に縛られずに生きることができる。ここで、一生を過ごしてもいい。もしくは、今すぐここを出て、未知の世界へ旅に出てもいい。ただし、人間に捕まらないよう気を付けるんんだよ。
そして、また人間に襲われそうになったら、ここへ戻ってくるといい。その時は僕が、全力で守るよ。」
そうか、僕らはもう自由なのか。
この言葉を聞き、ここにいた猫達の行動は様々だった。一生をここで過ごすことに決めたもの。冒険に出ることを決意したもの。
どうすればいいか分からず、悩んでいるもの。
さて僕は、どうしようか・・・・・・