一
吾輩は猫である。
いや、この始まりはよくないな。何かよく分からないが、身の危険を感じる。まあ、読者には、僕が猫だということは伝わっただろう。
さて、僕は今、食肉工場のレーン上にいる。
そう、悠長に文章を考えている場合なのではないのだ。もうすぐ、殺されるというのだから。
だがしかし、人間とは恐ろしいものだ。
我ら猫を、煮て食うとは。
しかし、僕に今、ここを脱出することは、極めて不可能だと思われる。
まず第一に、この工場のあらゆる所に監視カメラがついていて、上で人間が画面上でくまなくチェックしているからだ。もし、少しでも逃げ出そうという素振りを見せようものなら、大量の人間に四方八方から包囲され、行き先を阻まれるからだ。
また、それ以前に、このレーンの塀を飛び越えることすら、猫の身体の大きさでは不可能だ。
そう、今僕は、絶体絶命危機的状況だということだ。
さて、とりあえず・・・・・・念仏でも唱えるか。
南無阿弥・・・・・・
「侵入者だッ!!」
ん?下界の民が、何か騒がしいな。
いやいや、僕はまだ死んでないから。
とにかく、工場の人間が騒いでいる。
「くそ、今すぐ捕まえろ!」
「泥棒か、それとも・・・・・・」
その時、一人の青年の声が工場の中に響いた。
「今すぐ、この工場で捕らわれている猫達を解放しろ!」
すると、工場長だろうか、とにかくお偉いさんらしき人の声が、聞こえてきた。
「我々はこれで商売を成り立たせているんだ。渡せと言われても、素直に渡せるわけがない。」
ふむん。とりあえず、解放するなら早くしてくれないか。もうすぐ僕の番なんだが。
運よく僕の後ろのヤツは助かって、僕は肉塊になるのはごめんなのだが。
こうしている間にも、猫がたくさん殺されていく。もはや僅かな猶予も許されない。
「しかたがない。強引にでも、俺ができる限り助けることにしよう。」
そう、そうしてくれ。そして僕を助けてくれ。
青年は、人間の制止を振り切り、僕らのところまでやってきた。そして、最初に体を抱きかかえられたのが・・・・・・僕であった。
えッ・・・・・・まさかとは思ったけど、本当に僕が最初?
ふふん。他の者より一歩優位にたったぞ。
・・・・・・って、そうじゃない。そんなことより、早く、より多くの命を救ってくれ。
こうして、青年と工場の人間との攻防が始まった。