駄ギルドが!!
伝説の剣を作った鍛冶屋の一人である親方に、瞬間接着剤で柄を付けられた。
絶望しているメロウスだが、絶望したままではいられない。
次は、冒険者ギルドへと出向くのであった。
メロウスは激怒した。
それは、こんなことがあったからだ…
冒険者ギルド『アメルダの酒場』
元々、アメルダと言う女店主の店に、冒険者が集まって来たのが始まりで、一階に酒場と窓口、二階に事務室などがある作りになっていた。
「どうしたんだい?」
色っぽい女主人がカウンター越しに出迎える。
親方がカウンター席に座ると、メロウスをカウンターに置いた。
「どうしたもこうしたも神様に聞いてるだろ?」
「まあそうだけど、ウチもまだまだ出来たばっかりでねぇ」
まだ昼のせいか、店には親方以外の人が居なかった。
「お昼を開けるようになったのも、勇者様が魔王のとこに向かってからだから」
「一週間くらい前ですね」
「えっ?何いまの声?」
女主人は、目の前から聞こえてきた親方の低音ボイスとは別物の天使の声に、なにが声を出したのか理解できないでいた。
「ああ、申し遅れました。私が伝説の剣の鞘『メロウス』です。」
「あなた?がそうなの?」
不思議そうにメロウスの全身を眺めている。
「凄い装飾と宝飾だから、あの剣よりもずっと良い剣の鞘かと思ったわ」
「ええ!そうですよね~」
やっぱりわかる人にはわかるのよね~、私の高貴さ。
「それにあの剣って、童貞男みたいな趣味してそうだし」
「え?っというと(・・?」
「うーん、人間でいうなら、色白・黒髪ロング・白ワンピ・麦わら帽子、俺とするときのためだけに、処女を守っている清楚で可憐でなんでも言うことを聞いてくれる実はお嬢様みたいな?」
「私はどういうタイプなんです?」
「アナタは完全に王国のお姫様みたいな感じね」
ガーン!そんなズベタと私じゃあ似て非なる…イヤ!完全に非なるものじゃない!!
「道理であの剣、反応がいまいちなわけだ…」
あの剣は~ムキ身のくせして~、一丁前にプライドだけは高い、自分を高く値踏みして、良い女が来てもなぜか上からやってくる。ただの役割りとして振られただけで!お前の刀身に何の価値もねーんだからな!!身の程知れっつーの!!!
ここで、このギルドが現在どうなっているのか説明しておこう。
この日を境にギルドは急速に発達していき、二号店はイメルダ、三号店はウメルダと、アイウエオ順で店の名前を付けていき、最終的に全国で50箇所の支部が出来ている。
店の名前に対してきた苦情は、ウメルダが実際に地下に埋まっていて、二階の窓から入らないといけないと言う事と、ナメルダの入り口マットがヌルヌルの事、ンメルダとウメルダの発音でもめることなどがある。
以上の三つが主な苦情であるが、一番の問題は、その苦情に対するマニュアルの回答が「バーカバーカ」であることである。
なお、初代の勇者による魔王の討伐後によって、100年の平和な世界が続いた。
その間に世界の言語は日本語に統一され、新たな魔王誕生時には、ギルドの体制も完璧に整い、魔物につけ入るスキはなかった。
そして、話は戻ってまだ発足間もないギルド…
「神様の話じゃ冒険者になるんでしょ?」
「俺もそれ気になってたんだ、冒険者になってどうすんだい?」
そんなこと言われても、こっちも勝手に決められているんだけど…
「冒険者って、基本はモンスター退治や素材を集めるのが仕事よ?」
「メロウスは鞘兼究極の魔法剣なんだから装備いらないだろう?」
素材を集めるのが仕事…ひょっとして行けるかも!!
「そうよ、冒険者になって伝説の剣の素材を集めればいいんだわ!」
親方が浮かない顔をしている。
「でもよ、必要な素材を出すモンスターとかは、復活まで百年~数百年はかかるぞ?」
「私は寿命がないから大丈夫よ」
「そうね、それに素材の中には今あるものもあるんでしょ?」
「まっまあ、あるにはあるが…」
この世界の素材は、この世界の木々の種子などから作られるものがある。
木の中には、大樹になった場合、樹液溜まりが出来ることがある。
それが幹の良い位置に出来なおかつ、その樹液だまりの中に種が落ち、芽が出ないまま長い時を過ごすと、その種子は魔力と生命力で硬化し、魔石と鉱物の両方取りのような状態に変化する。
もしくは樹液そのものが琥珀化し、木の生命力と魔力が蓄積され、それが素材となる場合もある。
「その一番いいのを集めて、オリハルコンと合金にしてレフトハンドソードを作ったんだぞ」
親方は、片手にビールジョッキを持って力説した。
「まあでも、その木の場所はわかっているのでしょ?」
「プッハ~…わからねぇし、とても普通の冒険者じゃ無理だ、おかわり」
「大事な話の途中でしょ?」
そう言いながらも次のジョッキを出してからジョッキを下げる。
アメルダは、鞘に顔を近づけて囁くように言った。
「でもそれなら、冒険者の出番じゃない?」
ニッコリとほほ笑みかける。
「それじゃ登録名は賢者メロウスでいいかしら?」
「はい!お願いします!!」
ここからが大変よメロウス、ギルドの仲間たちと、勇者が辿った道をなぞり、数々の素材を集めて今一度伝説の剣を作るのよ!!
「ところで肝心のギルドの仲間たちは……」
「あ〜、それが出来たばかりだから…」
その時、店の入り口から、高さ30センチのモヒカンに、上半身裸に肩パッド、ピチピチのカーキ色のパンツに、足首から膝下まで汚れた白い布がグルグルと巻かれた漢が入ってきた。
「おうおう、勇者のヤツこないんだってな〜、ぐっヘッヘツ、じゃあ好きにさせてもらっちゃおうかな〜」
虫唾が走る悪寒が走る嫌気が走る。なんだろうこの絶対に受け入れられない感じ…
メロウスは、脊椎反射で魔法を放った。
「アイスジャベリン!!」
空中に無数の氷の槍が浮かび上がり、男を貫いた。
「フローズンクラウド!」
男の身体は完全に凍りつき、粉々になって風と共に去って行った。
「まったく嫌だ嫌だ」
「あのねメロウスちゃん」
なんだか浮かない顔をしている。
「今、風の前の塵となった男が、ギルド最強の男よ」
「ちなみに登録者がもう一人しかいなくて…」
アメルダが店の隅に目をやると、そこには腹丸出しで酔いつぶれたハゲおやじが寝ていた。
下っ端悪党とアル中オヤジしかいないなんて……この…この……こッッのぉぉ!!
「駄ギルドがぁぁぁ!!」
立ち上げられたばかりのギルドには、パーティーに入れなかった残りカスのような二人しか登録されていなかった。
もうメロウスは自分で仲間を探すしかないのか?
手詰まりのメロウスのもとに、運命の少女が訪れる。
次回 駄王国が!!