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命の息吹、肌に感じて。《3》

「何とか間に合ったみてェだな…。」


 もう少し遅ければ貴重な新人が仏さんになっているところだった…。シッシッと追い払ったアイツが居なくなった事を確認して長年の相棒、使いやすく柄を切り詰めた二本の斧を握り直す。


 コクピットの中で操縦桿から手を離しデコの冷や汗を拭いながら俺─ダニエル・オグマ─は相対す敵の出方を伺う。

 さて。銀の弾丸の装備は大したものだ。戦前のアメリカで一時期主力を務めただけの事はある。今確認できただけでも8つも銃口があった。頭二つは近接防御火器だとして、残りはなんだ?レールガンか?マシンキャノンか?

 だが、所詮は第四世代機だ。前に読まされた資料の記述だと、確か第四世代機はオーロラドライブの機能を外側へ発揮できない。当時の科学技術の限界だ。オーロラドライブが使えないのならば性能が勝るRWに軍配が上がる筈だ。少なくとも、それなりのグレードのモンを改造してる《グレイトフル・ライフ》に圧倒的な差があるとは思えない。

 単独鎮圧出来ればボーナスが付く。借金返済の為にも、武装点検で引き留められてたジェシーが《セオリム》を持ってくる前に終わらせる…!


 繰り出される文字通りの鉄拳を、細かく機体を動かし皮一枚で躱す。ボディーブローは危険だ。RWのコクピットが腹部な以上、これだけは受けられないが、だがしかし他の攻撃には大した事はない。慎重に、そして愚直に、両手の刃で駆り立てていくだけだ。

 ……連撃を仕掛ける度に、咄嗟に右の人差し指が引き金を引くような動作を何度か繰り返してるな。機体の出自から見てもパイロットは名も無き兵士だと思っていい。銃器が無い戦闘に慣れないのか、はたまたブラフか。直感はブラフだと告げる。


「オラよっとォ!」


 引っ込めようとする拳、その手首の可動部をピンポイントに狙い左手の手斧を走らせる。命中。ギリギリでズレた為に僅かな損傷だが、しかし目的まで逸れることは無く、しっかりと手首の稼働を制御するパーツを割り切った。事実動揺が顕著だ。いや別に表情がある訳じゃないから正しくは無いのかもしれないが、兎に角そんな感じだ。


「見えてるぜぇッ!」


 左下から来る膝蹴りが、その形を成す前に爪先を踏みつけてやった。

 揺らいだ体勢を見逃すものかよ…!

 頭上で交差させた双斧をバツの字に振り下ろす。鈍角のV字に食い込んだそれは、首を刈り取りその暴走を収束させた。

 単眼から光が失われ、膝から崩れ落ちる。


 今更になって天井のスプリンクラーが起動した。降り注ぐ雨は瞬く間に火の手を鎮圧し、すぐさま元の沈黙を保った。


「さて…と。」


 嫌でも見なきゃならない現実に向き直る。設備はボロボロ、確保した機体は大破。あと押しの弱いジェシーと違って、俺は無理やりに《グレイトフル・ライフ》を持って来た。平たく言えば、整備員をブン殴った。


『大分汚したわねダニー。ジョンを筆頭に、上の人はカンカンよ。』


 馴染みある声の方を向くと、そこに居るのはRWデフォルトの乳白色で塗装された肥満体型の機体。その名を《セオリム》と言う。搭乗者は当然…。


「ジェシーか、コイツが勝手に動いたのは俺のせいじゃあねぇだろうよ。」


『混乱に乗じて勝手に《グレイトフル・ライフ》を持ち出した方よ。整備長はアイツ二度と乗れないようにしてやる!って息巻いてたわ。』


「……罰金と始末書、少なく済むと有難ぇなァ!」


 けして減りはしないであろうものに嘆願の叫びを上げる。今月口座にいくら残ってたっけな…。

 場合によっては金を借りる必要があるぞコレは…。ジェシー…はもう十何万か借りてるから無しだ。アリエルは俺と同じ金欠族だし他のメンツは貸してくれないよなぁ……新人?アイツにはまだ借りてねぇな、後で交渉してみるか。




 バシッ!乾いた音が鳴る。


「新人くんはどうしてあの場でアリエルを投げたのぅ?」


 微かに潤んだ目のアリエルが、俯いた新人の頬を張った音だ。新人の表情は普段と異なり、下ろした前髪が邪魔をして伺えない。ただ、素直に謝るという雰囲気では無さそうだ。

 少しの逡巡の後、口を開いた。


「……あの瞬間、銀の弾丸は貴女を狙っていた。貴女がやられていたら、それは同時に俺の死にも繋がる。あの場で二人とも死ぬ訳にはいかなかった筈です。だからあれは最善の──ぐはっ!?ゲホッゲホッ……何をするんです。」


「…お前巫山戯んなよ。」


 あぁ、ダメだ。頭に血が昇っているのが体感できる。強く殴りすぎだ、喧嘩慣れしてないガキじゃああるめぇし。自分の手ぇがツラくなる威力はヤベェよ。アリエルが目ン玉カッ開いてんじゃねぇか。

 だが。理由が本当に分かってねぇのか、それとも見て見ぬ振りしてようが、これだけは今この瞬間に言っておかなきゃな。


「目的だなんだと、そんなのは後付だよな?周りから見てもお前がなんであぁしたのかは一目瞭然なんだよ。」


 不思議な物を見たような顔すんじゃねぇよ。ついもう一発入れたくなるだろうが。


「そんな面しなくたって分かるさ、お前逃げたんだよ。銀の弾丸を近くでまじまじと見て、自分が何に乗ってドンパチしてんのか悟っちまったんだろ?テメェの思考回路がどんな様子なのかは知ったこっちゃねぇがな、怖くなったんだ、自分以外を巻き込むのが。」


「だったら…だったらなんだって言うんですか!?俺が自分を捨て石にしようとして!それがアンタらに関係あんのかよ!?」


「あるよぅ?」


「あるな。」


「あるわね。」


「……在る。」


 ……………ゴーウェンお前居たのか。いや、悪かった。悪かったからカイザーナックルをこれみよがしに取り出すんじゃない。


「何が…何があるんです?わからない、本当にわからないんだ。」


 何ってそりゃあ。


「もう仲間でしょぅ?アリエル達は。」


「……そんな、そんな事で良いのか…?」


「いいんだよ。仲間だから死んで欲しくない。仲間だから犠牲になって欲しくない。そんなんで良いのさ。命の価値なんか他人が決めるもんで、お前が決めるもんじゃあない。少なくとも、お前のその態度は俺達が決めた価値を蔑むものだ。二度とすんなよ?それよりホレ。」


 手を差し出した。そのまま引っ張り上げた俺をアリエルが突き飛ばし、イオナを抱き締める。うん、なんか丸く収まったな。しかしそれにしても羨まゲフンゲフン…。けしからんなこれは。


「あー…イオナ君?アリエル?お楽しみのとこ悪いんだけど、この人どうにかしてもらえる?」


「フゥーッ!フゥーッ!グルルルルゥ…」


 全員揃って振り返った先には今にも爆発しそうな館長。獣のような吐息を垂れ流している。あぁこれはマズイやつだな。


 そそくさと逃げ出そうとした俺の肩を、館長の後ろに控えてた筈のジョンがいつの間にか締め上げ、サイッコーにいい笑顔で囁く。

 後ろではイオナが館長の細腕でブン殴られたあと抱き締められていた。デジャヴか?


「設備破壊、目標大破、暴行2件。流石に始末書と罰金では済まなくてな。これらに加え2ヶ月の減俸だ。これを期に金の使い方をよく考えるんだなトップワン。」


 クソがよぉ…!!!

 その後、妙に清々しい顔つきのイオナに相談したところ、相場よりかなり安い金利で貸してくれた。ついでに聞いたところによると乗機のAIにも叱責され、お仕置きスタンガンを食らったらしい。

 ……いやどういうことなんだよッ!?

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