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命の息吹、肌に感じて。《2》

「今一度確認するぞ。目標は旧カナダのエドモントン近辺。最終目標はコレクターズ《ビル・ゲイツ》の回収した第四世代遺物、機体名称《銀の弾丸》の強奪だ!」


 機体全体を覆う緊急展開システムを装備した羽衣の中、受信機から聞こえるジョン課長の低い声に耳を澄ませつつ、操縦桿を握り直す。パイロットスーツのグローブの内は手汗でベッタベタだ。


「緊急展開システムを用い、現在奴らの潜伏する中継基地に3時間で殴り込みを掛ける!現地での行動は各員通常通りに行なえ!それからイオナ!」


「ハッ、ハイ!」


 声が裏返った。


「緊張しているのか?まぁいい、お前は私の側に居ろ、今日は見学だ。何をすれば効率的に目的を達成できるのか、よく勉強しておけ。」


「了解しました!」


「…いい返事だ。それでは各員、出撃ッ!」


 言い切るよりも早く、ダニエル先輩のRWグレイトフル・ライフが全身の推進機から燐光を放ち、いの一番にカッ飛んでいった。凄まじいスピードだが、あれレコーダーに記録残るよな……命令違反になるんじゃないのか?


「ダニエルはいつもあぁだから速く慣れたほうがいいわ。あといつも罰金塗れで首が回らないのよ、真似しないようにね?」


 誰がするものか。

 その後、アリエルさん、ジェシカ先輩、ゴーウェン主任と続けざまに飛び立った後、俺もジョン課長に手助けされつつだか、空へと踏み出した。


 緊急展開システ厶は、緊急時にAOまたはRWを遠く離れた目的地まで迅速に展開する事を目的とした装備だ。

 その外見はハンドグライダーに酷似していて、そこから想起される通り、ハーネスで機体をシステムに固定し、コントロールレバーをマニピュレーターで動かし操作するものとなっている。

 大きな相違点としては、やはりサイズだろう。全長7〜9メートルの全長に合わせて作られている為、それ相応に拡大された図体を持つ。

 その他の違いは推進力だ。そのサイズは確かに巨大な人型に合わせ形作られているものの、そもそも人間とは違いすぎる重量だ。元になった物のように、滑空など出来るはずもない。

 ならばどうするか。恐らくこれを考えた奴は途轍もない阿呆だ。あえて主翼を分厚く取って、そこに燃料を積み込み飛行機と同じジェットエンジンを搭載したのだから。

 これにより確かに空を飛ばす事には成功した。安全性は折り紙付きで、キチンとした運用実績もある。しかし乗り心地は最悪だ。一応前面には空気抵抗を緩和させる為にカウルが用意されているが、そんな物では防げないほど揺れる。微振動が酷いのだ。

 しかし俺は今回が初体験であり、ダニエル先輩がなんの躊躇いもなく(少ないたも外からはそう見えていた)カッ飛んでいったのを見て、大したことないと見くびってしまっていた。

 結果、現地に着いた時点でグロッキーになってしまい、見学もマトモに出来ないほど、参ってしまってたのである。


 元より何をする訳でも無かったのは確かだが、特に何もできずに戦闘は終了し、それをダニエル先輩にからかわれながら回収に来たヴィマーナと合流し、俺達は帰途についた。

 それから数時間後。基地へ着き、回収した銀の弾丸は解析に回されたのだが。そこで魔弾は動いた。


 ビーッ!ビーッ!ビーッ!


「アァ!?なんじゃあッ!」


 実働部に割り当てられたラウンジで爆睡していたダニエル先輩が、文字通り飛び起きた。それに続き各々読書やゲームに興じていた制服姿が次々に顔を上げる。


「何かしら?ブザーが3回って…」


 ジェシカ先輩が呟く。

 2回なら火災、4回なら敵襲。3回は確か…


「あれだろあれ、えぇーっと、遺物の暴走!……………ハァ!?」


 珍しく鋭いダニエル先輩が自分の言った言葉にショックを受けているが、他のメンバーはそれどころではない。

 暴走。パイロットの意識が残留しているアーティファクト・オルガンは再起動された瞬間に独りでに動き突拍子もない行動に出ることがある。

 頻度は高くないにせよ、起こった場合は結構な被害が出る為に、それなりに対策は講じられているが、それを以てしても防げない場合に出される警報。それがブザー3回。

 周りを見回すとガタイのいい男が数人、慌ただしくラウンジから出て行くのが目についた。あれは確か整備部のベテラン組だな。鬼神のようなオーラを纏っている。それに気圧されたのかモーセが海を割った時のように、人ゴミがスッと道を譲った。


「おい新人、俺とジェシカは格納庫から機体を持ってくる。お前はコイツの子守りをしつつ、現場で避難誘導しろ。それとこれ使って逐次状況を知らせろ!頼んだぜ!」


 お行儀よく座り鼻提灯を膨らませるアリエルさんにデコピンを入れながら通信機を投げ渡された。どうやら銀の弾丸が暴れている区画に近い位置でメンテナンスを受けてる二機で抑え込むつもりらしい。

 羽衣がそこそこ距離のある区画で解析を受けている以上は、これがベストだろう。


「分かりました。行きますよアリエルさん。」


 反応は無い。いや腕を僅かに持ち上げた。そういう事か…。

 一瞬葛藤したが非常事態だ、やるしか無いだろう。


「………失礼します!」


 米俵を抱えるように持ち上げるとダニエル先輩とジェシカ先輩は互いに頷き合い走り去った。俺は未だ割れている人海に飛び込み駆け抜ける。


「あっちがちかいよぅ〜?」


 寝起き特有の変な発音と共に足で指示された方向に転換し、更に増速。そして出会った。角を曲った直後、半壊したかつて通路だった場所で。地面では炎が暴れまわっている。そんな残骸の満ちた地で。ズシンと重厚な音を響かせ、渡り廊下の中程から先を吹き飛ばした巨人がそれを覗き込んでいる。


「………確かに近かったですけど、こんなピンポイントに会います???」


「んん?…ほぁ!!こ、これは予想外なのぅ…。」


 巨大な単眼と、4つの矮小な目がお互いを見つめ合う。片や興味故に、片や恐怖故に。

 そう怯えていた。逃げなくてはという考えがループする。マズイマズイマズイ。これ程に恐るべき物だとは思っていなかった。場違いにも俺はこの瞬間、自分が何に乗っていたか理解したのであった。

 だが、それはなんの意味も齎さない。通信機からダニエル先輩の怒声が響く。


『なんだ!?何が起きてる!?オイ、イオナ返事をしろ!』


 だが、口が石になったのか?そう信じてしまいそうなほど重い。舌がが回らない。そんな中、


「……新人君新人君。」


「え…?な、何ですか?」


 いつの間にか降りていた華奢な手が、制服の袖を引く感触に釣られて意識が外を向く。それをチラリとも見ずに彼女は端的に言った。いつもと同じ声で、いつもと違う喋り方で。


「飛べる?」


「……ワイヤーガンですか?あれは普段携行してなくて「そうじゃ無くて。」は?」


 返答を遮りつつ、人差し指が向けられた方向は奴が断ち切った先。真ん中辺りを失った渡り廊下の向こう側。


「どの道、ダニーがここに来てもアリエル達がここに居たら、アイツはマトモに戦えないの。あのバカは人が死ぬの嫌いだから。」


 目ヤニのついた瞼が開く。現れた青眼は冷徹な鋭さを持って単眼を睨みつけていた。ゾクリと背筋が寒くなる。この人の提案が、俺の命を賭けろとそう言う内容だと本能的に感じ取ったからかも知れない。


「だから向こうに跳ぶの。あの向こうにはこの辺で一番堅牢な観察室があるの。多分、作業員達もそこに。」


 希望的観測としか言えない分析だ。だが、やるしか無い。やらねばもっと不味い方へと転がっていくだけだ。一応探した否定の言葉は、やはり俺の中には無かった。既に信頼してしまっていたのだ。

 

「行動指針は既に決まっていると…。分かりました、行きます。」


 見たところ向こう側までは10メートルから15メートル。覗き込むように此方を伺う奴の肩を経由して行けばなんとかなるか…?

 パイロットのいないアーティファクトの反応速度は分からないが、第二課のRWよりも断然遅いはずだ。


「さっきの抱え方だと不安なんで背中乗ってください。それからこれを。」


 通信機と肘から先の左手を外し渡した。肘があればおぶったままでも跳べるはずだ。


「シールドが出せます。瓦礫が飛んできたらそれで弾いて下さい。」


「分かったの。じゃあお願い。」


 呼吸は整えた。力強くと思いを込め一歩踏み出す、間髪入れずに二歩目。

 それを見た単眼が身をよじる。足場が、と言う思考が過るが置き去りにする。

 大丈夫、ズッシリと重さを感じさせる緩慢さで、右手が下から迫り上がる。空中からその掌に着地した俺は、素早く体勢を整えて肩まで駆け上がり飛翔。

 そして。


「えっ?ほぁぁぁ!」


 背中の重みを向こう側の通路へ向け投げ飛ばした。普段のアリエルさんならいざ知らず、あのアリエルさんならちゃんとやる事はやってくれるだろう。残念ながら二人で飛び込むのは難しかった。これが一番いい選択肢。

 予想より速く振り向いた銀の弾丸の顔面に思いっきりフラッシュバンを投擲する。閃光。何とか顔は背けたが少し光がチラついた。そのせいで次の行動が遅れる。

 重力に惹かれ落下していく。だが大地の抱擁なんか受けるつもりは無い。

 遠慮のなく伸ばされて奴の手に手を伸ばす。悠長に此方を観察していたコイツのことだ、すぐに握り潰しはしない。あと数センチ…。

 だが。それに引っ掛かることは無かった。


『うおぉぉぉ!セェーーーフッ!!』


 滑り込んできた金属の手に拾われる。鋭く尖った装甲。頭部から生えるは虫の触覚を想起させる二本のアンテナ。グリーンメタリックの外装が天井の照明に照らされて煌めいた。

 普段と打って変わって柔らかく地面まで手を運び、お荷物を下ろすと立ち上がり向き直り、腰の双斧を構えつつ、堂々とした振る舞いで単眼を威圧する。

 レプリカ・ウェポン《グレイトフル・ライフ》。エース、ダニエル・トップワンの繰るそれが見参し、荒れ狂う焔を薙ぎ払った。

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