諦め
暗い世界から一転し画面が明るくなり、何か暖かく何か柔らかい物に包まれる様な夢を見た。そして僕ははっと目を覚ますと、部屋は外からの光で明るく、布団に入っていた。
(ここは……)
僕の部屋ではなく、ダイニングだった。
ダイニングで寝てたのか……。どうしてだ? と考えていると、良い飯の匂いが漂って来た。キッチンの方を見ると、彼女、可憐ちゃんが鼻歌交じりで料理を作っていた。
(夢じゃなかったのか……)
この夢みたいな状況が嬉しいようで大変なようで複雑な気持ちになった。
「おはよう」
「え? あっ、おはようございます先輩。よく寝てましたねっ♪」
「そうか?」
「もう少しでご飯出来ますから待って下さいね」
そして僕は暇だからスマホを見ると、善文からラインが来ていた。
『学校にて話す』
「え? どうしてリビングで寝ていたかって?」
「あぁ」
二人で朝食を食べながら僕は訊いた。
「覚えてないですか? 昨日先輩はのぼせてそのままここで寝てしまったんです」
「そうだったのか?」
「はい。そして流石に私は先輩を部屋まで連れて行けなかったので、ベッドの布団を降ろしてきたんです」
「そうだったのか……」
「はい」
「それは済まなかった。ありがとう」
「いえいえ。気にしないで下さい。これも監視役の務めですから」
「はぁ……。そうか?」
やはりまだ監視役という言い方が引っかかるが、まぁ良い。それより彼女の作ったご飯は美味い! 朝から幸せだ。
そして制服に着替え、二人で玄関を出る。
「忘れものありませんか~っ。財布持って行ってます? 筆記用具も?」
「あぁ、持って行ってる」
「鞄自体持って行ってますか~っ?」
「それは流石に持って行ってる!」
「じゃあ一緒に行きましょう」
「あぁ、一緒に……」
ん? 一緒に?
「え!? 一緒に学校へ行くのか!?」
「はい。監視役ですから」
「いやいや、登校中に誰かに頼るなんてことないからっ」
「それはどうでしょうか? 突然隕石が落ちてきて、先輩が周りに助けを求める可能性が……」
「それだと助けを求める以前に死んじゃっているから!」
「では空から鳥のフンが落ちてきて、先輩が周りに助けを求める可能性が……」
「それは逆に恥ずかしくて助けを求めないぞ!」
「なら空から女の子が降ってきたら、親○たに助けを求める可能性が……」
「日本のどこの世界に今時親か○が居るんだよ!」
「少なくともラピ〇タの世界にはいましたね!」
「それ日本のアニメの世界!」
「けど結局、主人公はお〇方に仕事を手伝わされるんですけどね」
「そう言えば確かにそうだな……」
「まぁ、とにかく突然のことが起きたら、周りにあまり頼らない先輩でも人に頼る可能性があります」
「それは流石に誰でも同じことじゃないかな?」
彼女はうぐっとなったが、
「ま、まぁ、とにかく私が傍にいないと、先輩は直ぐにふらふらと周りの人に近づいちゃいますからっ」
「そんなに尻軽じゃねー!」
可憐ちゃんはむむむという顔になり、
「一緒に学校に行っちゃあ駄目ですか?」
「え?」
そんな可愛く見つめられると……、流石に断れないな。僕は、はあ、とため息をもらし、
「……分かったよ。一緒に行こう」
彼女はぱあと顔が明るくなり元気な声で、はいっ! と答えた。
「但し条件がある」
「え? 条件?」
「あまり目立つことは控えてくれ。可憐ちゃんは学校では目立つ存在なんだから」
「あ、そうですね。分かりました」
そして僕達は学校に登校した。学校に付近になると生徒が増えてくるので少し目線を感じたが、それ以上はなく教室に入った。そして入ると僕は真っ先に善文の所に行き、パリピ達と戯れている彼を呼んだ。
「善文、ちょっと来い」
「ここで良くないか?」
「良くない」
そして廊下に呼んだ彼と僕は話をする。
「なんで可憐ちゃんを家に連れて来たんだ? 少しやり過ぎだろう?」
「ふむ。けど健ちゃん考えてほしい」
「何を?」
「君の人に頼る癖を」
「他人にはそこまで頼らないぞ!? よく借りるのはお前くらいだ」
「頼られるのは嬉しい……が、健ちゃんは頼りすぎ」
「うぐっ……」
「それくらいしないと健ちゃんも気をつけないと思ったからな」
「しかしそれはやっぱりやり過ぎ……」
「可憐は嫌がってたか?」
「え?」
「可憐はその役に対して嫌そうだったか?」
「いや、むしろ楽しそう……」
「それなら兄妹の利害は一致しているな!」
「いやしかしだな……」
「しかしもかかしもない! 小学校からの積年の頼み事の数々! 俺はほとほと参ったよ。ついに俺も堪忍の尾が切れたということだ」
「……」
「だから健ちゃん。観念しろ、なっ? それより可憐の料理、母親仕込みだから美味しくないか?」
「美味しい美味しい。かなり美味しい!」
「そうだろうそうだろう。じゃ、妹のこと宜しく頼むなっ」
「あっ……」
善文はさっさと教室に入って行った。何か上手く言いくるめられた気がする……。まぁ、今まで積み重ねてきた報いが来たかな? そして僕はため息を吐きながら仕方なく自分の席に向かった。
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