監視役が来た!
「え? 居候!?」
「はい♪」
ことの発端は今から1時間前に遡る。いや、10年前からかもしれない。僕、磯山健は普通の高校2年生だ。顔は普通、勉強も普通、運動も普通、これと言って特に取り柄はないが、強いて良い点を言うとしたらどれも真面目に取り組もうとする点であろうか。そして欠点を上げるとしたら、それは親友、加藤善文にだけ僕の駄目な所をとことん見せてしまうことだ。彼とは小学生からの仲で、イケメンで成績優秀、スポーツ万能で優しいと勿論女子にモテまくりのこれと言って欠点のない男だ。その善文に僕はいつも頼りっぱなしだ。
さっきも下校時に学校の自動販売機の飲み物が欲しいために善文から130円のお金を借りた。それから30分後、家にピンポーンとチャイムが鳴る。
(誰だろう? 親父達か? けど今はウルグアイに行ってるって言ってた様な……?)
僕の両親は仕事で海外を飛び回っているので、僕は高一から家の守りをしている。
「はーい、出まーす。どちら様です……か?」
そこには僕の高校のアイドルが居た。
「やぁ、可憐ちゃん。久しぶりだね」
「はい。いつも兄がお世話になってます」
「いやいや、いつもお世話になっているのは僕の方だから」
加藤可憐。善文の妹で高校一年生、兄に負けず劣らずの容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の三拍子揃った可愛い子ちゃんだ。髪は綺麗な黒髪で肩まであり、目はぱっちりして眉毛もすっと伸びている。僕は彼女のことを幼少の頃から知っており、兄とは違って性格が少し天然ポンコツであるがそれ以外は完璧な娘だ。そんな彼女が家に一体何の用だろうか?
「どうしたの突然?」
「あの、外は暑いので中でお話ししませんか?」
「え? あぁ、そうだな」
「じゃあ、お邪魔しますね」
「え? あ、うん」
そうして上がった彼女はずんずんとエアコンの付いたリビングに行き、机の傍の床に座る。
「あ~、快適ですねーっ」
「外は暑いもんねーっ」
「そうなんですよ。加藤家から向かうのは暑くて暑くてっ」
「けど自転車で5分くらいの場所じゃないか?」
「まぁ、そうですね~っ」
「で、可憐ちゃんどうしたの?」
「まぁまぁそんなに急かさないで」
「え? あ、うん」
彼女は首筋から汗を垂らしながら、手で顔辺りを仰ぐ。家からすぐ来たのだろうか。学校規定のシャツのままだ。服に汗が滲んでいるからブラが少し透けている。つい、ドキッとしてしまう。
「何ですか先輩? 私のことじろじろ見て? 何か付いてますか?」
「いや、別に……」
僕は目線を逸らすが少ししてから彼女の方を見ると、僕の方を見ながらニヤニヤと笑っている。
「先輩のエッチ♪」
「ぐっ……」
そして彼女が涼み終えてから、彼女は机の正面に向く。
「さぁ、先輩。私の対面に座ってください」
彼女はバンバンと机を叩く。家の机なんですが……。そして僕は彼女の対面に座る。
「で何の用だい?」
「それはですね~っ。今日兄から何か借りませんでしたか?」
「えっとーっ、今日はジュース代の130円を借りたなー」
「そうでしょ、そうでしょ? それの返却に参りました」
「え、その為だけに?」
「はい♪」
「あ、じゃあちょっと待っててね」
そして僕はお金を取りに行き、130円を返した。
「はい。確かに頂きました。しかし……」
「ん?」
「実は兄から言付けがありまして」
「どうしたの?」
「『いつも俺に頼りっぱなしでは健ちゃんが社会に出たらダメ人間になってしまう』と」
「あいつ、そんなことを思っていたのか?」
「どうもその様でして」
「そんな……」
僕はつい項垂れてしまった。
「それでですね。貴方の駄目な癖を治すべく私が来たのです」
「? 一体どういうこと?」
「つまり、貴方がこれからそれをしない様にする為の監視役です」
「え!?」
ビックリした。え、どゆこと?
「監視って一体……」
「監視の意味も知らないんですか? 駄目な人ですね。監視とは、そうしないように見張ることです」
「いや、分かってるよそれくらいは! 可憐ちゃんが僕を監視? 一体どうやって?」
「一緒にこの家に暮らすんです」
「え?」
そして今に至る。
「いやいやそれはちょっと待って欲しいなっ」
「どうしてですか?」
「いやだって急にそんなこと言われても心の準備が……」
「なに女子みたいなこと言ってるんですか?」
「それに善文が僕をそこまで矯正させる筋合いは……」
「小学校の時から散々兄に頼って来たのに?」
「ぐっ……」
「教科書忘れたら貸してと言われ、ノート書き忘れたら貸してと言われ、お金が足りなかったら貸してと言われ……」
思い当たる節がありすぎる……。
「つまりいままで堪りに堪った利子のお返しです」
「え? 今までそれに利子があったの?」
「無利子なんてそんな甘い考え方してたんですか? そんなんじゃ社会出たら苦労しますよ?」
年下に説教されてしまった。
「いつまでも兄に頼ってばかりだと社会に出て先輩が駄目な人間になってしまう。兄がそれを慮って、貴方を更生させるべく私をこの家に送り込んだのです」
「君は嫌じゃないのか、監視役は?」
「楽しみ……いえ、貴方と兄の為です。仕方ありません」
今、彼女は楽しみって言わなかったか?
「仕方ない、分かったよ。どうせ今は一人暮らしで寂しい日も会るし。だから構わないよ」
「わーい……はい、ありがとうございます!」
何かこの子楽しそうじゃないか? こうして僕と彼女の同居生活が始まった。
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