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War of end world~落第殺し屋の岐路~  作者: 宝来來
五章 御坂と恤
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番外編 黄泉と御坂と戒

 弟がいる、その事実は私にとってなんの当たり障りのないことだった。利益もなく、気にすることのない出来事だった。


「お姉ちゃんは何でそんなに頑張れるの?」


 だから、こんな一言に救われた、慰められたなんて本当に情けない。私は御坂の、『御影』のお姉ちゃんなのに。


「それはねーーー御坂のお兄ちゃん、戒兄さんみたいなとても強くて、こんな汚れた人生を後悔せず楽しんで生きる為よ」


 私は、私はきっと苦しかったんだ。

 だから救われた。


「ーーーーーー」


 ねえ、御坂。きっと覚えてないでしょうけど私は。

 御坂の純粋な言葉、それに只救われたのよ。








 殺し屋として、戒兄さんのようになりたい。


 そう志して中学生になった頃だった。


 弓での暗殺にたけ、最短の時間での任務は難しい為そうゆう時は戒兄さんとペアを組んでこなしていた。戒兄さんを目標に頑張っていたせいか、余計に凄さが、経験の差が大きく感じ、私の人生の大きな壁となっていた。


 その抑圧に押され、焦ってしまっていたのかもしれない。


 稽古を倍に、睡眠を削って。

 貴重な中学生活の時間を潰してまで。


 任務に成功して、党首に認められたかった。

 そうすれば私自身が誇らしく好きになれると思った。


 だけど人生そう甘くは無い。思えば思うほど、憧れれば憧れるほど、努力すれば努力するほど、羨望とか嫉妬とか邪念を生んで。逆に自分が嫌いになるだけだった。心の中がむしゃくしゃして。

 人に当たったり、自傷すること。

 それが唯一の私自身への慰めだった。


「焦んなよ」

「なにが?」


「だから焦るな」

「……なにがよ」


 毎日のように私のもとに訪れては私の慰めの傷を手当してくれた。そのたびに復唱する優しくて不器用な言葉。日に日にその声にドスは聞いてきて、私がれた時はいっぱい撫でてくれた。


「甘えろよ」

「どうすればいいのか分からないの戒お兄ちゃん…っ!」

「俺は俺だ。お前もお前だ。だから、今は成りたい薙灘黄泉を探せ」

 

 そうすればきっと。


 そう言ってくれたけど、現在進行系でそれ実行していて。だからどうしょうもなくて。任務以外、稽古や参考書に没頭してばかりだった。


 本当に、戒お兄ちゃんに何度も縋って。

 頭を撫でてもらえるとまだ頑張れた。

 助言や救済なんかは不器用で優しい戒兄さんにはできなかったから。それだけで一時の気の晴らしにはなっていた。


 三日三晩連続で、寝ず食べずで続けた作業に廊下を歩いていた。フラフラと今にも倒れそうになりながらも自室へ向かっていると、よろついて足が絡まってしまった。ちょうど縁側、そのままよろけてしまえば頭を打って…体を打つか?とはいえ軽症。

 この程度の痛みなら眠気覚ましに丁度いいと思ったから。身を任せーーーーーー

「ふぎぃー!!!!」

「………?」

 刹那、縁側の下より小さな黒い影が飛び出てきて、手をバンザイして横倒れになりそうな私の体を支えていた。黒い影、小さな男の子だった。私の半分の背丈、小さな体躯で精一杯に踏ん張る姿は不思議と可愛いと思った。

 絡まった足を戻し、私は大勢を戻した。

 すると、男の子は膝に手を付き息を整えた後、縁側に上がり私と向き合った。大きなくりっとした瞳と目があった。

「ぼくは薙灘御坂です。お姉ちゃんはだいじょーぶですか?」

 私や戒お兄ちゃんにそっくりな群青の髪。左目が隠れそうなくらい伸びていて、伸びた後ろ髪は束ねてあった。そのゴムに見覚えがある。戒兄さんの……だ。千切れにくい特殊素材のゴムだと一つもらったのを覚えている。気だるそうな瞳の奥は何処か空っぽで……本能的に思った。

 私の弟なんだと。

 前々から耳には挟んでいたがこんなタイミング出会うとは

「ボーッとしちゃってだいじょーぶですか?頭打ったとかは」

「ーーああそうね。疲れてちゃってるの。お話相手になってくれないかしら?」

 ただの気まぐれだった。

 このまま自室に帰り休息を、またこうして潰れるまで追い詰める日々に飽きてしまっていたのだ。


「お姉ちゃんは殺し屋?」

「うん。でも今日は稽古」

「……………ねえ、お姉ちゃん」

「殺す………ってどういう気持ち?心がグチャグチャに、おもくて、辛くてってなるものじゃない?」

「……殺すの、怖いの?」

「…………」

「でも殺さなくちゃいけないのよ。私もあなたも殺し屋として生まれたもの」

「……それって辛くないんですか?」

 辛い?うん、辛いわ。

 だから私は、戒お兄ちゃんに救われたのだ。

「ーー私、は薙灘家に生まれたことを後悔し続けながら、罪悪感に押し潰されながら生きていくことは嫌だわ。だから私はどうゆう形であれ、私自身を好きになれるような生き様を刻みたいの」

 そう思っている。そう思っているが、だ。

 

 そう上手くはいかないものだ。


 目が熱くなって、静かにこぼす。とまるまで、御坂は黙って待っていてくれた。



 

「ぼくは薙刀の稽古をしてます。お姉ちゃんも?」

「私には薙刀は向いてなかったの。だから私は弓よ」

「すごい……っ!戒お兄ちゃんみたい!」

「戒お兄ちゃんって?」

「強くてカッコよくてちょっと意地悪で優しいの!」

 やっぱり、戒お兄ちゃんは憧憬に映るのだ。

 私の理想とする生き様の模範。

「………」

 でもいま聞きたい言葉は…

「黄泉お姉ちゃん……は?」

 こんな言葉で縋るのは、卑怯だ。

 年下に、私の弟になんて。

「戒お兄ちゃんからの話からでもいい?」

「…………」

「……甘えん坊で稽古に毎日通う姿なんかが笑えてダサくて格好悪い」

 

 こうして厳しく言われたほうが

 心の中で諦めがつ


「でも、戒お兄ちゃんよりも頑固で意地固くて努力家で生真面目でーーー誰よりも一生懸命生きてる最高の妹だって」


 ああ、いけない。また、涙が溢れ出しそうになる。

 戒お兄ちゃんは私と面向かってそんな言葉を履いたことはない。気恥ずかしいからか不器用だからか。


 でも今は関係なかった。ただその言葉に


「どこ、いくの?」

「今日はこのあと任務なの」 

「……だいじょーぶなの?」

「ええ。もう平気」


 戒お兄ちゃんに、憧れる『幽冥』にそう言われたのなら。

 私はまだ私を見が限ることができない。諦めることすらも。頑張る理由になる。


 また挫折したらこの言葉をーー


「黄泉お姉ちゃんみたいになりたい」


「………え?」


 不意をつく言葉に息がつまった。


「うん、やっぱりそう。ぼくは黄泉お姉ちゃんみたいにいっしょーけんめい努力できてつよい殺し屋になるんだ……っ!戒お兄ちゃんは何もしなくても強くてうらやましかったから、それについていく黄泉お姉ちゃんも同じだと思ってた」


 拙い言葉と羨望の眼差し。

 真っ直ぐで純粋な瞳に見つめられて。


「だけど黄泉お姉ちゃんは黄泉お姉ちゃんだ!戒お兄ちゃんとはちがくて、とってもつよい!」


 簡単に、思う。

 心の底から、めいいっぱいに。


「ぼくにとって戒お兄ちゃんと黄泉お姉ちゃんはじまん!」


 おつきに呼ばれ、部屋に帰る御坂。

 手を、振ってくれた。純粋な笑みを向けて。


 見送り、肩の力を抜いて大きく深呼吸した。思考はクリア、モヤも晴れて、痛みなんか忘れた。ただ前だけを見て稽古に戻った。

 あの子が頑張るって、目標だって、自慢だって言ってくれてお姉ちゃんでいなくちゃどうするというのだ。


 私を好いてくれる弟、心配してくれる兄に恥じぬ自分でいること。


 その瞬間から私は生き様とやらに追加した。

 薙灘黄泉が『冥土』を好きになり、家族が好いてくれるような私になること。




 救済と幾度の挫折と決意の私の過去もこれで終わりだ。

 私は永く長く続いて、この命が尽きるまで。


 私は私を絶対に殺さない。殺させない。

 だって私は薙灘戒の妹で、薙灘御坂の姉だから。


 『冥土』を彷徨う未熟で半端な殺し屋だ。


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