番外編 黄泉と戒
「お前、なんの為に殺し屋してんだ?」
戒兄さんに聞かれた時、私は何も答えられなかった。
薙灘黄泉の人生は“傀儡”のようだった。
生まれた瞬間、産声を上げた瞬間から私は決められた人生のレールを辿っていた。親は分からない。だが、党首が決めことを遂行していた。
只々、無心に懸命に。
私なりの全力で。
反抗することも無く、
叱咤され、罰が下ろうとも。
きっと怖かったのだ。
レール以外の道を歩む事が。
私の道はここしかないと思い込んでいて、
重巡に生き、辛くて退屈な毎日に
浸っていた。
そんな徘徊、リピートする毎日に兄と名乗る存在が現れたのは5歳の頃。『黒百合』という朱鎌家の同い年のメイドと偶然遭遇した。本家の党首の部屋近くの廊下でだ。部屋からは党首の威圧感ある声と挑発するような声。
襖に聞き耳立てる同い年のメイドが『黒百合』だった。
私が声をかけると方を大きく震わせ猫のように逆立てていた。少し離れた場所、縁側で会話を交わした。
室内に居たのは『幽冥』、兄である戒ということ。組織の壊滅の任務を他に被害を出し、怒られていること。語尾に必ずですをつけ、嬉しそうにはく。
「『幽冥』さまのメイドを努めておりますです。『黒百合』と申しますです」
「私は………薙灘黄泉です」
「まさかっ、『幽冥』さまの妹様ですか!?」
「そうなります…………ね」
「『幽冥』さまのようにさぞらんぼうろうせきな殺し屋になるのでしょうです」
「乱暴狼藉ですか……」
目をキラキラとさせ、尊敬の意で見つめる『黒百合』に気まずさを感じるばかりだった。たしかに同じ血筋で性格も似るーーーーが、同じ教育を受けているはずだけど別の世界の人間のように思えた。
「『幽冥』さまはとてもお強い方。15の年から任務を請け負うのに12にして任務をこなしていますです」
それから度々話を聞くようになり、暫くしてなんの気まぐれか運命か、対談した。
まだ幼さの残るその顔は獅子のように勇ましい。群青の髪は放置され、乱雑に伸び、爛々とした瞳は人を射殺さんとする勢いだった。初対面、睨まれて縮こまる私に戒兄さんは飄々と肩を組んできた。
「お前が俺の妹か。こんなに弱そうな奴がかぁ?」
「なん、か…ごめんなさい」
「敬語は不要だぜ。たしかにてめぇの兄だが、敬われるほどの善人じゃねぇよ。むしろ問題児だ」
敷かれたレールにふと転がり落ちた小石、それが戒兄さんだった。
休憩の合間によく会話を交わすようになり、薙刀を交えることもあった。一度完膚なきまでにやられ、倒れ込む私に戒兄さんは私に言った。
「んー、前々から思ってたが黄泉。てめぇには薙刀は似合わねぇよ」
「……何を言ってるの戒お兄ちゃん。うちは薙灘家だよ」
「は?それが何だってんだ。べつに薙刀以外使っちゃいけねぇわけじゃねぇだろ。俺は特別固定した武器はねぇけど、代わりにそこら辺の鉄パイプとか拳とかで嬲り殺してるぞ」
戒お兄ちゃんは薙灘家に縛られぬ、自由奔放で乱暴狼藉であった。
「戒お兄ちゃんはなんでそんな楽しそうなの?」
「はっ、楽しかねぇよ」
「…………なら、なんで笑ってるの?」
「決まってるだろ。俺が楽しく生きる為だよ」
つまらねぇことは大嫌いだからだよ、自信満々に答えた。
恐怖は憧れへと変わった。
『黒百合』から耳に挟む『幽冥』の活躍ぶり破天荒ぶりを聞くたびに胸が高鳴った。戒お兄ちゃんについていくようになった。
その頃から、私はレールを踏み外した。
誰に何を言われようとも、気にしなくなった。
レール外の未開の地は、恐怖もあったが希望で満ち溢れてもいた。殺し屋という闇に生きるものとして、悔やみながら生きるよりも、自由に、縛られない。
後悔しない生き様を刻みたい――――そう思ったから。
今まで傀儡のように生きてきた私が大嫌いだったから。
何もしない、意味もなく人を殺す私はきっと嫌いだから。
私は、薙灘黄泉を好きになる為に生きるんだと決めた。
「黄泉、弓使うのか?」
「そうよ、私らしいでしょ」
「だな!……ってタメ口か?」
「戒兄さんが言ったんじゃない」
「………はっ、御大層なこって。兄として嬉しい限りだぜ」
「最後にリップサービスしてあげるわ。妹が思春期に入る前にね」
「思春期ねぇ……俺もお前も、死ぬまでずっと反抗期だよ」
「ふふっ、愉快なことを言うのね。そうゆうところ」
―――――――――愛してるぜ、戒お兄ちゃん。




