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War of end world~落第殺し屋の岐路~  作者: 宝来來
五章 御坂と恤
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エピローグ01

「刀願さん起きてください」 


 りんとした厳しい声が恤の虚ろな意識を覚醒させる。ノートを撮っていたので、シャーペンの線がふにゃふにゃになってしまっていた。気を引き締めるも、本日2、3回ほど繰り返してしまった。 


 放課後、一人静かに帰宅しようと席を立つとおしゃれで可愛い女子たちのグループ(カースト上位の)の中から一人声をかけてきた。


「刀願さん、ちょっといい?」

「…………日笠、さん」


 日笠さんにつれてこられたのは屋上。運動部が部活に励む姿がよく見える。風も程よく、まだ日は暮れていない。ボーッとする恤に海々腹切り出す。背を向けた、ままで。


「とりあえず、事後報告。私、例の初恋の人と恋人関係になりました」

「それは、よかった……です」

「ふふっ、詳細聞かないの刀願さんらしい。うん、刀願さんも知ってるとおり、婚約は破棄されました、ぱちぱち〜!」


 篠崎家のことはニュースに大々的に取り上げられていた。あの、有名財閥が大暴落?!闇社会に生きた悪として晒されていた。ある程度の規制はもちろんあったが、三日間ほど世を騒がせた。


「私はいま人生最大の幸せ者です。ありがとう、恤ちゃん」


 太陽を背にした髪は逆光を浴び、満面の笑みを更に際立たせる。その笑顔は精一杯の幸せを堪能する、恤の見たかった笑顔だった。


「特に私は何もしていませんけど………って、恤ちゃん?」

「うん!私、もぉーと恤ちゃんと仲良くしたいの。だから、友達になろう!」


 唖然とする恤に海々は握手を求め手を出した。

 震える手を恐る恐る出すと、海々の方から握ってくれた。そして丁寧に両手で恤の手を包んだ。


「恤ちゃんは引っ込み思案で口下手だけど、人の為に動けてすごく優しいこと知ってるよ。だから、友達の証として呼称を変えてみました」

 


「これからも、よろしくね恤ちゃん」

「………はいっ!よろしくです海々さん」



 こみ上げる涙を我慢し、精一杯の不器用な笑顔で海々に向けたのだった。寂寥感を埋めるように。






 一週間前、薙灘家の離れにより葬儀は行われた。

 本来なら、殺し屋は上により死の隠蔽、『逢瀬』『神殿』のような行方不明扱いにされる。だが、今回は殺し屋の中で地位を築き上げた御坂の兄と姉により強引に行われたのだ。

 離れは本当に血縁が薄い場所でやらせてもらい、一般人(御坂の友人、知り合い)にも参加できるようにしていた。


 御坂は棺の中で色とりどりの花々に、囲まれて穏やかに眠っていた。御坂の遺品に囲まれていて、その中には恤がプレゼントしたピアスを左耳につけていた。


「あいつは元々学校に通うのは好きだったんだぜ。戦争が頻発し始めてからは忙しくってな。ぶつくさたれてたが、友達つうっなら結構いるんじゃねぇか?」


 薙灘戒なりの不器用な気遣いらしい。


「それに御坂は寂しがり屋だからな」


 それも、愛のこもった。


 その目測通り、御坂の通う明鏡高校のクラスメイト全員が訪れた。その中でも号泣していたのが、日笠湊という御坂の親友だった。日笠さんもひっそりを参加していたので、見つからぬよう陰ながら祈りを捧げた。

 



 御坂が死んだあの日から、空虚な日々を過ごしてきた。心に大きな穴が空いたみたいだ。何をしても、どうしても、ぼーとしてしまう。任務にも集中できなくて、『再開発』から休養をもらっている最中だ。


 今日も、いいことがあった。海々さんと友達になれた。

 だけどもまだこの穴は埋まらなかった。


 一人帰宅、すると出迎えてくれたのは『石榴』こと朱鎌餡だった。妙な狐の面をつけたメイドの両手には段ボール箱が一つ抱えられていた。

 恤宛だという段ボール箱を自室に持ち入る。『石榴』には離れているように伝えた。投げなら送りつけ先の宛名が御坂だったからだ。自身が死ぬ前に予定して送ったのだろう。


「……………っ」


 唾を飲みこむ。カッターでテープを切り上げるとそこには、手紙が一通と小箱が入っていた。


 まずは小箱。小箱は少し古びていたが、懐かしい感じがした。甘く鼻をくすぐるラベンダーの匂い。


 これは、お姉ちゃんの匂いだ。


 壊れぬよう、そっと開ける。中には、薄紫に輝く華を抱えたハートのペアネックレスが一つと小さな手紙が添えられていた。御坂さんの、字だった。


「俺と邇亜のペアネックレスの一つだ。邇亜の自慢の妹の恤に相応しいだろ?」


 思わず笑みがこぼれた。

 こんなもの、こんな、大事なものをもらっていのかと。

 しかも、もう一つはきっと御坂がかけていたはず。


「そんなの贅沢です……」


 今にも零れそうな涙を袖で拭い、もう一つのプレゼントを開ける。シンプルな手紙。でも中身は。


「拝啓、刀願恤様へ……ふふっ、柄でもないのに」


 かたっ苦しい冒頭から、段々と流暢に綴られる言葉。

 不器用な御坂さんらしかった。



ーーー俺が死んだことは恤のせいじゃないからな。



ーーー『逢瀬』への償い。俺の為だったんだ。



ーーー俺は、『逢瀬』との約束を果たしたんだよ。



ーーー後悔なく、生きられたよ。



ーーー心配なのは恤のこれからだ。



ーーーまちがわないように、道を。



ーーー自分が信じて選んで、後悔ない人生を。



ーーー誰かの為に生きられる恤になって。



     

      頑張って生きろよ。




 前5ページにも及ぶ濃密な内容。『逢瀬』や刀願邇亜のそと、約束、御坂さんの後悔、そして願い。


「………私はこんなにも守られてたのです」

 

 溢れる涙は止まらない。手紙が汚れないよう、必死に抑えようとしても。


「私は……っ!幸せものです!贅沢者なのです!」


 お姉ちゃんに愛されて、御坂さんに可愛がられて。

 

「私も、ちゃんと生きなきゃ…」


 家族を相棒を守り抜き、

 一生懸命に後悔しながら、

 苦しみながら葛藤し、決断し、

 生き様を刻んだ彼らに、

 顔向けできなくなる。


「まずは平穏を、幸福を掴まなきゃです」

 だから、戦争を生き抜くだけじゃ駄目なのだ。

 この古く長く続く戦争を終わらせなければならない。


 しばらくは、それを人生の小さな目標にすることにしますです。だって夢は大きく持たなきゃですよね、御坂さん。

そうですね、大きな目標は勿論。


 世界一幸せなお嫁さんになることです!






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