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War of end world~落第殺し屋の岐路~  作者: 宝来來
五章 御坂と恤
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ツノルオモイ

『これ以上は駄目よ、明南。恤が死んでしまう』

『そのくらいじゃ死なない。刀願家の若き才子だ』


 昔、恤が『神殿』長男の明南の剣術の稽古中に起きたこと。剣術の師として毎度の厳しい稽古は締に真剣勝負をする。


 真剣勝負名だけに本気に木刀を振られ、片目を出血した。他にも打撲が数箇所あるが、気にならないほどに慣れてしまっていた。


 防具つけずの勝負では全く敵わないのだから当然。それでも3本勝負の一本目、試合続行をしようとした際たまたま通りかかった姉に目撃したのだ。


 倒れる私の前に立つ。

 眺める背中は頼もしくて、甘えたくなった。


 だからつい、涙を零してしまった。


 日々の稽古に精神の限界が来てしまっていたのだ。幼いが故の我慢はいともたやすく壊れてしまった。


『……………所詮はその程度か』

『そんな言い方はないですよ、明南』


 蔑みの目を私に向けて、部屋から出ていく。その去り際の明南の顔は………強い信念をもつ強張っていた。


『俺が刀願家の党首になる。邪魔をするな、邇亜』


 それ以来、稽古はなくなった。

 




 この篠崎幸太郎と妹、重ねてしまう。

 恤もお姉ちゃんにこうして守られていたのだ。


 思考が混濁する。


 本当に正しいのか?否、はじめから間違っている。殺しなど悪だ。だけど、悪いやつを殺すのだから気は楽だった。得に深く何も考えずに、ただ悔やみながらも殺していた。


 今になって思う。殺される側の気持ち。


 ターゲットは本当に悪い人?裏社会のことを知らないのでは?妹を命がけで守る兄の姿は正しく見える。だけど任務だからやらないといけない。

 誰にだって大事な人は居て己の人生がある。だから、関係ない。

 そんなことを御坂さんはきっと言うでしょう。

 けど、無理だ。覚悟も薄れて、分からなくなった。


 あの日、あの時。

 恤も邇亜も明南も、生きていた。

 二人はとても強かったのに、生きているのは恤だけ。

 信念を持った明南も、

 相棒や妹を守る努力をする邇亜も、

 全力で生きていた。


 だけど恤は違う。


 ありもしない幻想を見て、逃げてばかりだった。

 やっと前に向けたと思ったのに、

 覚悟を決められたと思ったのに、

 かんたんに揺らいでしまう。

 中途半端で、今も迷っている。


 眼の前の篠崎幸太郎とその妹。死に必死に抗う姿を見て、重ねて、結論を出す。


「ーーーーー逃げて」


 全力で生きようとしている、まだやり直せる。

 だから逃がす。


 お姉ちゃんは殺し屋ながら人を殺さなかったと聞く。私も真似しようと思った。お姉ちゃんは憧れだから。私の目的も達成されるのだから。日笠さんは財閥のお嬢様、すでに壊滅した篠崎とは縁を切るだろう。政略結婚する意味などはなくなるのだから。


 わかっている。また逃げたことなど。

 だけど、だけど。

 間違ってはいない、そう思った。


 篠崎幸太郎は妹の手を引き、振り向かず出入り口へと走っていく。この混乱に乗じてならきっと逃げられるはず。

 背を見守り、そうホッとして胸をなでおろす。


 が、そう簡単には独断の決断が許されるはずがなかった。

 仲睦まじきその背に矢が貫通したのだ。その矢の所有者は一人しかいない、矢が放たれた先は『鳥居』の背後だった。


「何、してるの『鳥居』」

「え………あ、……………の」

 

 冷や汗が流れ、貯まる唾液を飲む。

 全身が告げている、一歩でも動けば答えなければ死を与えると。

 醒めた声、薄ら笑み。


「まあいいや。党首様から前々から言われてた事があったから変わらないわ。君には死んでもらうね」

「なん、て………」


「君と『御影』は元々、落第として見られてたの。大した成果を挙げられずして殺し屋を雇うことはできない。

「『御影』は御坂は優秀なはずなのよ。なのに

「君のせいだから。御坂が気にかけてる『逢瀬』の妹だから。ずっと引きずって悩んでる。

「全部、全部君のせい。

「どちらか処分するように密命されてたの。刀願家、薙灘家、翠鎌家、朱鎌家の党首会議でね

「その口実はこれで十分だから。大人しく、ね」


 冷酷に淡々と告げられる。

 だけど、仕方がないかと思う。

 失敗続き、足を引っ張ってばかりだった。

 どちらか死ぬのなら恤が相応しい。

 あんなに弱く脆く、優しい人は生きているべきだ。

 お姉ちゃんみたいに死んでほしくない。


 お姉ちゃんみたいに、御坂さんみたいに、

 誰かを守って死んでみたい。


「最後に言いたいことはある?」

「………御坂さんの為に死ぬなら本望なのです」

「そう」


 糸がきしむ音がする。

 弓矢が引かれる。

 そして、死を受け入れる。


「ーーーーーえ?」

 

 痛みは来なかった。

 変わりに、背中には右腕抑え弓を心臓に貫通させた御坂が立っていた。

 

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