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War of end world~落第殺し屋の岐路~  作者: 宝来來
一章 『御影』と『鳥居』
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『再開発』

背後からかけられた可愛らしい声。


制服は糸杉高校のすぐそばにある、楠中学校の女ものだ。翡翠の髪を横でひとつに結び、赤いリボンをつけている。しかも、その顔には見覚えがある。というか、見知った顔だった。


 「『鳥居』かーーーーーーいや、今は刀願恤だったっけ?」


 「はい。御坂さん、先日ぶりです」


 『鳥居』こと刀願恤は中学3年生。来年には高校生になるのだ。俺より二つ下の後輩にあたる。


 「あの、お話したいです…………お時間、いいですか?」


 しどろもどろに目線の先の喫茶店を見る。いつでも変わらない恤の態度に御坂は少しだけ、気持ちが緩んだ気がした。





 喫茶店[やえ]。マスターである弥榮衣六法(やえいろっぽう)さん経営のコーヒーが美味しい喫茶店である。

店に入ると、コーヒーの匂いがする。他にも客は数人いるようだった。

弥榮衣さんに軽く会釈し、コーヒーとココアを頼んだ。

 コーヒーのほろ苦い匂い。

 店員が持ってきたコーヒーに角砂糖を3つ入れる。恤はホットココアを頼んでおり、フーフーと冷ましていた。


 「話ってなんだ、恤」


 いまだ慣れない名前呼びも少しは様になってきた。恤は横の髪をいじりながら、ゆっくりと話す。


 「昨日、の仕事でいった、じゃないですか………『家族』がどうとか………」


 「ああ。そんなこと言ってたな」


 昨夜のことを思い出しつつ御坂は言う。傀儡殺人鬼に遭遇し、不気味な神父殺し屋を初めてみた。傀儡殺人鬼とは2度目の再開となるので、妙に印象に残っている。俺は無意識に顔を曇らせてしまう。


 『私も……『家族』はいない』


 少し寂しげに恤は言っていた。顔はよく見えなかったけれど。


 「私、姉が居るんです。2つ上で、わすごく遠いところで仕事してるらしいんです。けど、2年立っても帰ってこないんです」


 いつもしどろもどろに話す恤は今は、スラスラと話していた。


「それで、気になった私は当主に聞いたんです。お姉ちゃんはどこにいるかって……………………そして帰ってきた答えが宇宙の彼方、って言ったんです」


 だんだんと言葉を区切って話し、言葉を選んでいるように見えた。もしくは、自分自身に言い聞かせるように。  


 「昔、は全然わかんなかったんです。けど、今ならわかる気がしました…………………………………死んじゃったんだって」


 「何が言いたいんだ?」


 この話を始めた意図がわからなかった。『家族』のことについて話したかっただけか、ただの暇つぶしか。どちらにしても、だ。


 (なんで恤が、『鳥居』がそんなこと言うんだ。俺のこと、恨んでるのか?)


 後悔が募る。あの時の、『逢瀬』の言った言葉が今でも残っているように。糸のように絡みついて、解けない。


 「いえ、ただ、知ってほしかっただけ、です。御坂さんは私のパートナーだから、です」


 「………………………くだらない。

たかが、パートナーだろ」


 「はい。ただのパートナーです」


 皮肉で返したつもりが、優しく朗らかに返されてこちらが後ろめたくなった。それと、と恤は付け加えた。


 「お姉ちゃんの情報、知ってたら教えてほしいと思い、ます」


 御坂は恤と目を逸らし、考えた。恤は『逢瀬』の血縁者で、妹である。『逢瀬』は妹とは仲が良かったと言っていたけど、だんだん疎遠になってしまったと悲しそうに笑って言っていた。


『妹と話しずらくなっちゃったよ、『御影』』

『あんなに仲良かったのにか?俺は羨ましい。黄泉姉さんや戒兄さんとは上手くやれないから』

『ふふっ、でも『冥土』さんは『御影』が大好きだよね。『幽冥』さんの方はみかげくんいつもからかってるし。私から見たらすごく仲良しそうだよ?』

『………………………………そもそも何がきっかけで話しずらくなったんだよ』

『あ、話ずらした………まあ、いいけどさ』

『お姉ちゃんとしてのプライド見せられなかったから』

『?』


いつも笑顔な『逢瀬』が珍しく濁った顔をして話していたからよく覚えている。俺が知っている『逢瀬』はいつも笑っていて、あの時のような濁った表情は数度しか見ていない。くだらない話しかできない気がする。


 (話していいのか、恤に………本家が言ってないなら俺が言わないほうがいいのか?)


 不意に思い出した。今日の用事を。時計をすぐさまみる。時刻は6時前だ。


 「………………………時間だ」


 「なん、の時間です?」


 話をそらされ、不意打ちを食らった恤は余計に不思議そうに聞く。恤は不満気な顔をしつつも聞いてきた。


 「右往博士に会いにだよ」





「やあやあ、よく来てくれたね『御影』くん、『鳥居』くん」


 高校の近くの駅から徒歩20分。山奥にある大きな地下工房に二人はいる。入って、迎えにきくれたのは殺し屋専門の雇われ研究者『再開発』こと、右往左往だ。性別不明、意味ありげな言動で人を弄ぶピエロのような人である。


 「ごめんなさい、『再開発』。時間が少々遅れてしまいました」


 「構わないさ、『御影』くん。それより、右往博士と呼んでくれないかい?コードネームで呼ばれるのは背中がかゆくてねぇ」


 「分かりました、右往博士。今日はどのようなご用件で?」


 調子良く話す右往博士は白衣をひらりと回し、ポケットに手を入れ、ついてこいと先導を進んだ。


 「いやはや、君たち。傀儡殺人鬼に遭遇したらしいじゃないか。それに『御影』くんは二度目だよ?悪運強いね」


 「運が悪いんです。俺は殺し屋には向いてない」


 「いやいや、そんなことないさ。なに?自暴自棄かい、『御影』くん。殺し屋にだって色々あるのさ」


 薄っぺらい笑顔で言う右往博士。後ろを歩いているため顔は見えないけど、多分そうだろう。この人は苦手だ。恤は、不思議な人だとか優しいとか言うけど信じられない。人の神経を逆撫でする言葉しか言わないのだから。


 「あ、あの………」


 「ん、あ。すまないね、汚い部屋で『鳥居』くん。これでも片付けたんだけどね」


 「いえ、そうゆうことではないこともなくて………」


 実際右往博士の研究所は見事にゴミ屋敷と言っていいだろう。掃除した、というのも通路を作るため荷物を横に寄せただけだ。


 「さっきから話している、傀儡殺人鬼って、なんなんです?」


 「『鳥居』くん、いつから殺し屋始めた?」


 「一年前くらいです?」


 「なら、知らないのも仕方ないか」 


 右往博士は後ろをくるりと振り向いて、満面の笑みでいった。


 「苦綯白羅、20年間で人を何万人も殺した糸使いの殺人鬼さ」


 右往博士は、

今度は顔だけ後ろに向けて楽しそうに笑った。


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