おひとよし
「私コーヒーって初めて飲むの」
「そう」
日笠さんは店に入るなり、弥栄衣さんに元気よく挨拶。周りのお客さんも、日笠さんの明るい雰囲気に和んでいるように感じた。さすがです。
「やっぱ、ブラックコーヒーって苦いのかな?飲める人は大人だよね!」
「飲めるフリして大人ぶってる人だったらどうするんです」
「それはそれで微笑ましい!母性を擽られるね」
御坂さんの姉である『冥土』はまさにそれだと言う。御坂さんから聞いたのだ。
『冥土』さん、年下に母性くすぐられてますよ。
「刀願さんは甘いもの好きなの?ココア飲んでるし」
「··········子供っぽいです?」
「ううん、女の子らしくて可愛い!」
「私なんかより、日笠さんの方が何倍も可愛いです」
「そう?ありがとう。でも、刀願さんクラスの美人ランキング2位だったよ?」
「そんなのあったのです?!」
初耳です。
ていうか、なんでそんなに高いんですか。
「うんうん、クラスの女子総勢19名投票のもと決まったよ!」
男子では無いんだ。誰が主催したんです··········まさか日笠さんじゃないですか?
「ちなみに一位は私でした。照れる·····それに嬉しい」
日笠さんは頬をかすかに赤くそめ、心底嬉しそうに笑う。可愛いかよ。
「日笠さん、美人さんですから」
目を逸らして、私は髪の毛をいじりながら言う。
「また言ってくれた!もしかして私、落とされてる?駄目よ、刀願さんは彼氏がいるのに··········」
「すぐ恋愛ネタに繋げるのは私嫌いです。すぐ帰るです」
「あー、冗談冗談!ごめんちゃんと話しますから!」
茶々な茶番は終了。本題にやっと入ることとなった。
「で、鯉の話です?」
「NO、NO、NO。恋の話だよ!分かりやすく話しそらさないの」
人差し指をたて、横にふり主張する日笠さん。話を逸らしてはくれなさそうだ。
「私が思うに恋ってのは必然。つまり彼氏を作るのは今しかないと思うんだよ!」
あれ、なんか話がそれてる気がする。
「それでね、刀願さん。初恋って叶わないって言うじゃん?私はそれを叶えたいの」
「·····」
気の所為じゃない?
「でも叶わないって言うならせめて、失恋したいわけです」
本当になんの話しをしているのです、日笠さん。
「この手の話題は絶対苦手だろうけど、手伝って欲しいの刀願さん。私の初恋を諦めさせて欲しい」
「………………」
空気を読み、周りから好かれる彼女。
いつでもクラスの中心にいて、笑顔を絶やさない彼女。
そんな彼女が悲しそうに笑い、私に願いを叶えて欲しいと言っている。
「…………なにか、あったのですか?」
「うん」
「私は日笠さんのこと、あまり知りません。なので、そこから話してくれないと受ける以前の問題です」
「…………てっきり断られるかと思ってたよ」
日笠さんは驚いた表情をうかべる。
「受けるとも言ってないです。話を聞いてあげるだけです」
私は日笠海々が苦手です。
明るく、眩しい、可愛い日笠さんは困った顔や弱みを見せたことがあまりないです。そんな彼女が私に見せた表情は姉と最後に会った日、私に向けたのと同じでした。
後悔と懺悔と優しさがつのった顔。
そんな顔を見せられたら断れるわけが無い。




